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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第4部 戦いの中で 第2章 戦争が終わって

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第296話 宣誓

 豪華なステンドグラスの前で司教が大きな声を上げる。


「グブズムンドル帝国第2王女フラプティンナ・シュニオール・ロズマーリン。ならびに元アルプレヒト公爵家長女ティアナ・フォン・アルプレヒトに問う」


 緊張のために、司教は一瞬、言葉に詰まる。口が渇いてしまい、すぐには話せない。


「そなたらの隣に控える、ランペール2世ルードビッヒを汝らの夫と認めるか」


 待ちに待った瞬間がやってきた。宰相マザリンとヴェルレ公爵オットーは、赤い目を隠すのも忘れて二人を見つめる。宣誓さえすれば全てが終わる。


「認め……」


 そのとき会場の後ろにいた女性が大きく弓を引き絞り、ルードビッヒ目がけて矢を放った。矢は狙いを(あやま)たずに、王の胸にドスンと突き刺さる。


 教会は大混乱に陥った。


 次の瞬間、その女性が大きな声で全員に呼びかけるように話した。


「その程度では死にはしないでしょうね。でも、あらあ? 人間じゃないんですか?」


 矢を放ったのはシノだった。破魔矢が当たった胸が大きく裂けた王は中から黒い羽が現れる。王を助けようとした親衛隊も近づくのをためらい、弓を放ったシノに近づこうとした衛士たちも、王の姿から目を離せない。少しずつ、身体の裂け目が大きくなり、中から鱗のついた手と足が現れる。


「GUUUUUUUUAAAAAAAA」


 地の底から聞こえてくるような声と共に、王の身体が完全に裂けて中から黒い翼をつけた一つ目のトカゲのような生き物が現れた。高さは2mほどで、口からは赤い舌が2本、ちろちろと出ているのが分かる。


「魔族だ!」

「逃げろ!!」


 会場は大混乱に陥り、出口に人々が殺到する。


「コザカシイ、ニンゲンドモ」


 そう話すと、ティアナとフラプティンナを掠おうとするが、その場所目がけて、何かが飛び込んでくる。花嫁の前に現れた赤い髪の戦士が剣を一閃する。その剣が当たった身体から煙が出て、魔族は後ろに飛び退いた。


「友のためにイルマさんが参上したぜ!! ティアナ! ロス! 魔族を倒してとっとと帰るぞ!」


 油断なく銀のロングソードを構え直す。イルマに気を取られていた魔族は、後ろからの影に気付くのが遅れる。その影は魔族の翼の1枚を思いきり切りつけ、地面に落とすことに成功した。


「GAAAUUUUUUUUAhhhhhhhh」


 会場に甲高い声が響き渡る。青い血が滴り、そのツヴァイヘンダーの刀身が青く光っているように見える。会場に生臭い獣のような血の匂いが広がる。


「死神ゼビウスが推参した。貴様を冥府まで案内してやる」


 ゼビウスは後ろから魔族に剣を構え、花嫁をかけた命がけの戦いが始まった。


 §


 会場は大混乱に陥り、2カ所ある出口には人々が殺到していた。フードを深く被ったゴミ捨ての下男は、桶を手に持ちながら会場のあちこちに何かを放っていく。それからは煙が出ており、親衛隊が見とがめる。


「おいお前! それは何だ?」


 すると、男はフードをとる。スキンヘッドにグリーンの片目。アリカタだ。


「投げてるのは退魔香ってやつだ。魔族が嫌がる香だぜ」


 手に香を持ちながら、教会の隅まで投げとばす。


「俺の名はアリカタ。魔族退治を生業にする呪禁師(じゅごんし)さ。お前たち、戦う相手を間違ってないか?」


 そう言って、さらに教会中に退魔香をばらまいていく。親衛隊は半信半疑ながらも退魔香はそのままにしておいた。そんな教会内では、背を丸めた男が教会内の隅を杖で叩いている様子も見られた。この非常時にと訝しげに見ていた親衛隊だったが、魔族に気を取られてそれどころではなかった。その男はフリッツであり、会場の隅の4カ所の何かを必死に壊していた。


「よし!」


 近くで見ていた親衛隊がその跡を確認すると、魔法を防ぐ結界石がぼろぼろになっていた。


「貴様! 何を!」


 けれども、フリッツは不敵な笑いでそれを跳ね返す。


「魔族には魔法が有効だ。それを知らないなんて王国親衛隊も随分のんきだね」


 そう話すと、一組の夫婦の目がけて走っていく。この夫婦は、大混乱ともいえるこの会場を冷静に見つめていた。グブズムンドル帝国の魔法兵団副団長アントリとシグトリアだ。


「アントリ殿! 魔法が使えますよ!!」


 その言葉に、アントリは大きく頷くのだった。


 会場には、王の魔族、宰相マザリン、ヴェルレ公爵だけが残り、退魔香の働きもあって、マザリンとヴェルレ公爵も魔族であることが暴かれていた。親衛隊はそれを見て洗脳がとけた者もいれば、退魔香によって我に返った者も多かった。結局、親衛隊も出入り口から一人、また一人と逃げていく。


 シノが放った矢は、マザリンには防がれたが、ヴェルレ公爵には深々と突き刺さる。マザリンはシノを睨み付けるが、その前に一人の男が立ちはだかった。


「お前もティアナさんを傷つけた奴の仲間だな」


 厳しい声で話すアントリは、すぐに高速詠唱を始める。そのわずかな詠唱で、業炎の魔神が地の底から這い出て咆哮を上げる。教会内は異様な熱気に包まれていた。


「魔神よ! あの魔族を冥府に送るんだ!!」


 咆哮と共に業炎の魔神イーフリートがマザリンとの戦闘に入る。


 その横にいた元ヴェルレ公爵の魔族の前にふらりと一人の男が立った。アリカタである。


「よ、久しぶりだな。相変わらず、酷えことをしてるじゃねえか。あの世にいったミリアって子が、お前が来るのを待ってるぜ」


 そういうと、すぐに真言を唱え始める。


「今日の俺は手加減できねえ。この世からお前を滅殺する!」


 数珠を空中に高く掲げ、魔族を睨み付けていた。

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