第6話:統合聴聞会──魔法は誰のためにあるのか
──魔法の定義を変える、それは王国の根幹に触れるということ。
古い塔の礎に、新しい礎を打ち込むには、崩壊と隣り合わせの覚悟が必要だった。
統合聴聞会──
魔法制度史上、最大級の公開討論会。
第五魔法の制度承認を巡って、王族・貴族・学者・市民の代表が一堂に会する。
◇ ◇ ◇
その日は王都の中央議事堂前に、異様な数の人々が集まっていた。
魔導学府の若き研究者たち、第五魔法の生活応用に感動した市民、
一方で「魔法の暴走を恐れる」と主張する保守派貴族、
ラグナル公爵派の“危険性を煽る者”たちも多く見られた。
「今日、魔法が“人の力”から“仕組み”に変わる可能性がある」
「それは、希望にもなり得るし、管理不能の災厄にもなる」
──壇上。審査局の議長が、重々しい口調で開会を宣言する。
◇ ◇ ◇
「私は、第五魔法を“使って”いるわけではありません」
登壇したクロエは、静かに切り出した。
「私は、“動作条件を定義するだけ”です。
それが満たされたとき、魔法が自律的に起こる──
それは、“魔法が自然現象になった”という意味です」
会場にざわめきが広がる。
「私の理論は、“魔法が人間の一部だけの特権”である状態に、疑問を投げかけます。
使える者しか使えない。それが正しいとは、誰が決めたのでしょう?」
◇ ◇ ◇
だがその発言に、保守派貴族の代表が噛みついた。
「魔法は、代償と制御を前提にして築かれてきた力だ。
それを“誰でも使える仕組み”にするというのは、制御の放棄ではないか?」
「違います」
クロエは即座に否定する。
「第五魔法は、詠唱と術者の代わりに、“理論によって発動条件を制限している”。
むしろ、従来よりも明確に制御されている魔法です。
暴発するのは、“理解もせずに模倣した第六魔法”のようなものだけです」
◇ ◇ ◇
次に発言したのは、市民代表の医師だった。
「第五魔法によって、王都東部の病院では命が救われています。
魔力も資格もない親が、寝ている子どもを守る方法が、
この魔法にはあるんです。
それを“封印”しろと言うのは、命の否定に等しいと感じます」
──市民席から、拍手。
反対派の議員が、苛立った様子で立ち上がる。
「魔法は特権だ。資格ある者にしか使わせてはならぬ。
無秩序な技術は、いずれ暴走する!」
◇ ◇ ◇
最後に、意見を求められたのは、王族側代表──
王太子アルヴェルト。
彼は壇上に立つと、沈黙の後、こう語った。
「我が王家は、長らく“魔法の象徴”として、
術者と民のあいだに立つ者として役目を果たしてきた。
だがいま、私は問いたい。
“魔法は誰のためにあるのか”と」
クロエが顔を上げる。
「この第五魔法は、“力を持たない者の手に届く可能性”を持っている。
もしそれを否定するならば、我々は、
“魔法を持たざる者を見捨てる”という宣言をすることになる」
──その言葉に、会場が静まり返る。
「私は、それに賛同できない。
よって、第五魔法の制度登録に賛成する」
◇ ◇ ◇
──その一言が、議論に決着をもたらした。
後日、第十五条・魔導定義法に新たな追記がなされる。
※第五魔法(仮称):術者非依存型構造式魔法の存在を承認する。
※当該魔法の使用は、限定条件下における応用に限り合法とする。
クロエは、新しい歴史の頁を、制度の中に刻んだ。
──だが、これで終わりではない。
ラグナル公爵の側近たちは、この決定の直後、
“第六魔法による事故”を起こし、第五魔法に濡れ衣を着せようとする陰謀を始めていくのであった。
ー完




