第5話:法典提出──理論を“制度”へと変える時
──魔法とは、世界を変える力。
だがその“力”を世界に認めさせるには、ただ使えるだけでは不十分だった。
必要なのは、“証明”と、“制度への承認”。
第五魔法を真に世界のものとするために、クロエは動き出す。
◇ ◇ ◇
王国魔法法典修正審査局。
魔法法に関わる理論と制度の全てが集まる、魔導士社会の最高審議機関。
数百年にわたって形成されてきた魔法制度が、ここで審査され、更新されてきた。
その厳格さは、時に“進歩の否定”とすら呼ばれる。
だが──
「第五魔法構造式の、制度登録を申請いたします」
クロエ=リドモンド。
ただの少女と見紛う風貌の、魔法理論の反逆者が、
いま、この保守と伝統の本丸に、正面から乗り込んだ。
◇ ◇ ◇
提出された文書は、膨大だった。
・術者不要の空間演算式の数学的根拠
・存在定義式と空間座標論に基づく“構造発火”の実証データ
・Project Λの社会応用例
・模倣型(第六魔法)による暴発事例の安全比較報告
・従来魔法体系との互換性と非侵害証明
「これほど整っているとは……」
「いや、整いすぎている。逆に“制度側が追いついていない”のでは……?」
審査官たちの表情に、戸惑いが浮かび始める。
◇ ◇ ◇
「これは“詠唱”の否定ではない」
「魔法の使い方を、“個人”から“場”へと広げた構造的進化です」
クロエは静かに、しかし明確な言葉で語る。
「魔法とは、人が使う力だとされてきました。
でもそれは、“人でなければ扱えない”ということではない。
この世界に“条件を満たせば魔法が発生する仕組み”が存在するなら、
それは、魔法の進化だと思いませんか?」
「……それを制度として認めるには、既存法典の三十二条、
“術者の存在を必要とする定義”を、変更しなくてはなりません」
「ならば、変更しましょう」
「簡単に言うが……それは、魔法法の“礎”だ」
「魔法そのものが変わったのに、礎を変えない理由がどこにあるんです?」
◇ ◇ ◇
──やがて審査局は動いた。
第五魔法を“制度上の理論”として承認するかどうか、
全魔法研究機関から意見を募る“統合聴聞会”を開くと決定されたのだ。
これは、魔法の歴史において――いや、
“制度と理論の衝突”において、前例のない大事だった。
◇ ◇ ◇
だがその発表と同時に、王都では新たな噂が流れ始める。
「第五魔法は危険だ。王都を呑み込む術だ」
「クワイエットの魔女は、魔法を操って制度を壊そうとしている」
──情報源は、明らかだった。
「ラグナル公爵派が動き出しましたね」
フィーネの報告に、クロエは小さく息をつく。
「でももう、後戻りはできない。
制度に“認めさせる”ための戦いは、これからが本番よ」




