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東方氷精異聞  作者: ゆっくりキラセス
壱章 紅霧異聞 紅き忠誠編
19/19

トラウマ 2

「なかなか出口、いえもしかしたら入口でしょうか? どちらにしても見つかりませんね。」


 洞窟を歩いてそこそこ経つが、正面は深く暗いままだった。

「まあトラップも敵もほとんど出てこないし、大丈夫だろうさ。当たりくじを引いたと思おうぜ。」

 そんな呑気な言葉にチルノはクスッと笑う。

「確かに。それにあたいらなら問題はないだろうしさ。気にしすぎだよ大ちゃん。」

「そーなのだー。名無しはビビリなのだー。」

「ルーちゃーん?そろそろ私も怒るよー。」

「……二人とも、口論してる場合じゃなくなったよ。」

 サッとチルノの手が制し、俺たち四人はその場に止まって前方に注視する。

 耳を澄ますと、何かが歩いてやってくるのが聞こえてくる。

「…数は、だいたい五、六体かな。」

「ふっ、問題ないのだー。」

「慎重になるのは大事です。体力は温存だよルーちゃん。」

「分かってるのだ、『大妖精』。」

 若干明かりがある洞窟内で、その姿が見えたのは約10メートルまで近づいた時だった。

「…妖精、『メイド』?」

 彼女たちには羽があり小柄、だが服装は西洋のメイド服でマップ、箒を両手で持って現れた。

「…ねえ大ちゃん、あの妖精たちってもしかしてさ、」

「うん、一応報告は受けてたんだけど、あの館が現れたと同時期から一部の妖精たちが出入りしていると聞いてたんだけど、まさか働いていたなんて。」

「とにかく敵なのだ。来るやつは排除なのだ!」

 なんか物騒な奴が一名あるが、ひとまず同族ならなんとか穏便に済ませるかもしれない。

「なあ大妖精、なんとか交渉してみてくれないか?」

「はい、私もそのつもりでした。」

「えー、やらないのかー?」

「ルー、後で戦うんだからもう少し待ってなよ。」

「はー、仕方ないのだ。骨のないやつだったらお前が戦うのだチルノ。」

「うぐ……わ、わかったよ……。」

 余計なこと言った、と言いたげな表情でチルノは渋々了承し『計画通り』とばかりにグッと拳を握るルーミア。そんな二人に苦笑した大妖精は妖精メイドたちの方に向かって進んだ。

 妖精メイドは警戒して武器を構える。いや掃除道具だけど、あれ普通に痛いから変わんねーか。

「だ、大妖精様、何の御用でしょうか?」

 と一体の妖精が問うと、大妖精は畏まった口調で彼女に答えた。

「私たちは今、この先の館に住む者たちが起こした異変を解決しにきました。とはいえできる限り話し合いで解決するつもりです。もちろんあなた方に危害を加えたいわけでもありません。どうかここは通してもらえませんか?」

 さすが長だっただけの影響力はあり、妖精たちは口々に相談りあい、しかし––––

「……も、申し訳ありません、大妖精様。ここは通せません。」

「…そう、ですか。」

 それは否定され、大妖精はシュンとした表情になる。そんな彼女の頭を俺はポンと手を乗せる。

「…ま、そんなもんだ。」

「…ですが、どうしましょうか。」

「蹴散らすのだー。」

 とルーミアが前に出た時、妖精たちはビクッと震える。どうやら脅威認定は妖精にもあったようだ。こいつどんだけの悪ガキなんだ?

 だが今ので分かったように、今まで大妖精と俺しか妖精は見えていなかったらしい。なぜそんな確認するかって?


「……その必要はないんじゃないかな。」


 そう呟いたのは他でもないチルノだった。


 チルノは呟くと同時に前に出る。そこでようやく俺は彼女がどう思われていたのかを再認識することとなった。


「な、なんで『零下の悪魔』が一緒なのさ!」


「キャーッ!き、消えたくないよ!」


「ば、化け物妖精ッ!!」



 それはルーミアと比ではないもので、妖精たちはバタバタと逃げていくのだった。


 こうなることがわかっていたのか、チルノはあえてまだ見えにくい距離を保っていたことに今になって気づいた。そしての異名と、彼女が本来どう思われているかも。

 弱小の妖精も、人間も、妖怪さえも彼女を前にすると今のように逃げかえる、それを俺は昔も見たことがある。そしてその時見せる彼女の顔も………。


 前に出たチルノの顔を見ることは出来ず、振り返った彼女は何もなかったかのようにニコッと笑った。

「ほら、あたい最強の妖精だからこうして避けることもできるのさ!」

「……ああ」

「フッフッフ、さっきから舐めた口調だったけどあたいの恐ろしさ思い出したかい?」

「……ああ」

「ほら、先行っちゃうからねー!」

 チルノはそう言い前を歩く。


 俺は拳を握る。

 ルーミアも、大妖精も、俯いている。


 あの笑顔がどんなに辛いのかなんて、知らないわけじゃない。

 ふと、チルノの寂しそうな顔を脳裏によぎる。


「……」


 俺はバシン、と両手でほおを叩き、ついで––––


「ああ行こうぜ相棒ッ!」

「おわっ!?」

 俺は彼女の隣まで駆け、その背中を叩く。

 彼女が欲しいのは同情でも慰めの言葉でもない。彼女を惨めな気持ちにさせない、普段通りの俺である事だ、と。

「…いったいなー、ネツ。」

「はっ、最強様が相棒でヌルゲーだと落胆しただけだよ。」

「……ま、あたいに任せるんだねネツ!」

 完全に吹っ切ったわけではないだろうが、彼女は笑顔で胸を叩く。

「おう、期待してるぞ。」

 そんな俺とチルノをみた二人は、互いを見てクスッと笑うと駆けて隣を歩くのだった。

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