31話 決勝戦② ~聖属性~
蒼く幻想的な戦場だった。
「そらそら! どうしたネリス!? ちょっと見ない間に随分と腕がなまったんじゃないか!?」
「ふん! 貴方こそ以前に比べて動きが遅くなった気がするわよ? 少し太ったんじゃない?」
第三の望みの魔宮。その最上階層。
その空すらも突き抜けそうな塔型の頂上が紛れもなく今回の決勝戦の舞台。またその高さゆえ周辺の景色はまさしく天空を思わせる絶景。
「なっ!? ば、ばかやろう! こんな時になに言いやがる!? 聞かれたらどうすんだ!」
辺りを包むは海のように広がる青空。あとは掴めそうな太陽と雲のみ。それ以外は何も無く、ましてや不純物は一切存在しない。そんな一面に天広がる空間で彼らは同時に戦っていた。
「えっ……ご、ごめんなさい。軽い挑発のつもりで言ったんだけど……まさか図星だった?」
「こっ、このやろおおぉぉぉぉっっ!!!」
最強ギルド決定戦決勝。
【煌々たる銀翼】VS【新生・蒼穹の聖刻団】
またその対戦カードの内訳はこう。
シリウス VS フィオナ。
ネリス VS エルーナ。
ランドル VS グリフ&セリカ。
一見3対4というメンバー数的にグリフら【新生・蒼穹の聖刻団】の方が有利に見えなくもないが、実際のところはこれで対等。そのワケは――
「そらそら! 攻撃を躱してばっかじゃ勝てないぜ、グリフ!?」
「く……くっそぉ」
その理由としてはグリフの存在。
もっとはっきりとさせるなら戦闘能力の差。
「ほらほら来いよ! 流石に追放される前と同じってワケじゃないだろっ!?」
「くそ……ランドルの野郎。相変わらずキレッキレッな動きしやがる。でも雰囲気に吞まれてやり合えば間違いなく俺が先に負けちまうよな」
「ええ、ですが恐らくグリフ様でなくてもあの動きを見切るのは相当難しいと思います。ましてや狼型の獣人ともなると……」
ほとんど初級魔法しか使えないうえに普段から前線で戦う事のない彼、通称最弱賢者のグリフ。
そんな彼が近接バリバリお任せあれの狼型獣人ランドル・ヴォルグを戦う事になった時点で苦戦は必至。生傷を負う事は免れない。
そこで少しでもその手助けをと、回復役であるセリカが彼をサポートする事でどうにか対戦カードとして成立。二人一組となり3対3の形式として戦いを繰り広げていた。
だが、そんな一方で――
「うむ! 中々に鋭い動きをする! まったく小僧にも貴様の爪の垢を吞ませてやりたいな!」
「ははは……お褒めいただき光栄です!」
一人で百人力以上の者も。
同じ戦場である以上、当然この二人も同様。
ある意味今回の目玉である最強の対戦カード。
聖剣士シリウス VS 魔女帝フィオナ。
この両名ももちろん同じ場で戦いを繰り広げていた。それも誰も乱入できない激戦ぶりで、
「太刀筋も悪くない。これまで相当な数の修行を積んできた事が伝わってくる。おかげで余も得物を使わざるを得なくなった!」
「そのまま返しますよ! ボクも本気でこの剣で振るわないとすぐに潰されそうなので!」
カキンカキンッ! ガキンッッッ!
開戦の合図が出て以降。
もはや聞き慣れたと言っても過言では無いそんな宝剣と魔槍がぶつかり合う激しい金属音。
またその瞬間に互いに走る緊張感。
一撃一撃を交える毎に刺激される高揚感。
同時に三者三様の戦いが繰り広げられる中でそんな湧き上がる感情を抑えきれず、最も激しく衝突していたこの二人の戦況はというと、
ガキンッッ!! ギリ……ギリギリギリ。
「ふ……ふふふ。どうやら珍しく我が愛槍も喜んでおるようだ。貴様のように熟練された勢いと重みのある剣を味わえてな」
「……驚きました。まだ余裕があるんですか」
なんと。
まさかのシリウス優勢。
戦闘開始直後から相棒である宝剣シャムシールを縦横無尽に振るっての先制攻撃。そのまま勢いに乗ってフィオナがまともに構えさせず。
さらに持ち前の身軽さと天才的な直感をフルに活用し、フィオナの動きを素早く察知。彼女の反撃に対しても迎撃からまた一方的な攻めへ転じるなど、今なお隙を与えず自身のペースを保っていた。
「ふんっ!」
「っ!?」
ギリギリギリギリ……ガキンッッッ!
「ふふふっ、良い気迫だ。まっすぐさを感じる。どおりで喜ぶはずだ。これほど邪念の無い剣との戦い。おかげで余も余計なことを考えずに、戦闘本能だけが呼び覚まされる」
「くっ………………ならば!」
弾かれこそしたが、態勢は未だ崩さぬまま。
そんな数十に渡る攻撃を仕掛けても倒れず笑うフィオナに対して、シリウスはついに――
「スキル:魔限解放!」
「……………………むっ?」
ついに己の真骨頂を発揮。
これまで多くの相手を倒してきた力。
内に秘める“聖属性”を解放。そして。
「斬り祓え! 聖光斬!」
――放った。
「魔力の気配が変わった……か? いや、そんな悠長なことを抜かしている場合ではないか」
【聖属性】
それは魔法属性の一種。
光属性とはまた違う非常に特殊な属性。
少し論点をずらすなら、一般的な属性の火や水、風などの魔法は持つ魔力により多少の得手不得手あるが鍛錬を積めば誰でも扱う事が可能。
さらに言えば鍛錬次第で複数操るのも可。
……だが。
キュオオオオオオォォォォォンッッ!
「ははは! しかしなんとも眩しい技だな! だがこの程度の斬撃など打ち消すのは容易いぞ! もっと貴様の本気とやらをぶつけるが良い!」
ビュオンッ!
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンッ!
……だが?
「ええ、もう既にぶつけていますよ」
この属性。
聖属性はその中でも“異例”。
理由は先天的な性質のため。つまり生まれた時点で力を持っていなければ発現不可と極めて異例にして特異な属性だった。
バシンッ! バシバシバシバシバシッ!
シュウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…………。
しかし……その異例ゆえか。
「ほお? これは……妙だな」
――今まさに“それ”が起こった。
そして、件の聖属性の連続斬撃とぶつかり合ったフィオナは“その異常性”を即座に察する。
「傷……か。今、貴様の放った攻撃は確かに我が魔槍で斬り払った。そのはずだったのだが」
「………………………………」
「ふふ。よもや余に“傷を負わす”とはな……大した技ではないか」
同時にフィオナは自分の体を見た。
肌に傷がついている。傷が残っている。
だが超人的なフィオナならではというべきか、深手ではなくあくまでも軽傷。痛みもほとんど無く、傷といっても当たった腕や足に軽い痣が残る程度。
そのため被害としては軽微も軽微。
さして気にするほどのものでもなかった。
「明らかに攻撃の質が違う。先日のミスター・マッチョマンも充分に戦い甲斐があったが、ここまでハッキリとした傷は負わなかった」
――ではあったもの。
フィオナが疑問を抱いたのはそこでは無い。
肝心なのはどうして傷を負ったのか。
予選で剛腕のマッチョマンと楽しくぶん殴り合っていた時ですらも無傷だったというのに、
「余は戦う際、見えない強力な魔力の衣を纏い戦っている。いくら鍛えてあげたとはいえど、そういった何かしら防御策を講じなければ、流石の余でも技を防ぎきれるわけでは無いからな」
彼女は魔槍ゲイ・ボルグを握るその右腕。
未だシュウゥゥゥゥと白煙あがる痣に目を落としつつ冷静に観察。そうして猛者相手でも通さなった己の鉄壁防御を破った原因を推測した。
「だが、この感触はまさか――」
「はい。お察しの通りです。ボクの身に宿っているこの属性。聖属性は“貫通能力”を有しています。ですので大抵の防御手段は通用しません」
そう。
本人が今まさに口にした通り。
「フフフ……そうか。どおりでな」
そう、【貫通能力】。
それが例外属性の特徴。
簡単に言ってしまえば“防御不可”属性。
威力を軽減する防ぐ手立てが限定される。
例えるなら火には水。雷には土のように技を相殺できるような属性も発見されておらず、また魔法障壁などで威力を緩和、無効化を図ろうとしてもそれごと破壊され攻撃を受けてしまう。
「卑怯だとは言わせませんよ。むしろ貴方ほどの相手に全力を出さないのは愚か者がやることです。ボクは優勝するためにこの場に立っている。そのためならばどんな剣技だって使います」
また、そんな反則的な特性の中でも。
彼シリウスの場合は特に威力絶大。
その要因としてスキル【魔限解放】によりさらに威力を跳ね上げるだけでなく、それを鍛えぬいた剣技に交えて振るうのだから、生半可な練度の剣や防具など太刀打ちできずに沈んでいく始末。
さらにもし調達に苦労する超一流の素材を用いた防具であっても、無効化には至らずに大概は攻撃を通してしまうため損傷は免れない。
「ひ……きょう? ふっ……あっはっはっはっはっは! どこが卑怯なものか!? 聖属性? 貫通能力? 実に小気味良いではないか! むしろこういう展開を待ち望んでいたくらいだ!」
「…………そ、そうですか」
まさしく絶対。
命中すれば確実に着実に効果を発揮する属性。
さらに言えばフィオナは聖属性について初見。
このまま勢いよく短期決戦に持ちこめば勝てるとシリウスは見込んでいた…………けれど?
(…………どうして?)
けれど。それほどに優位な状況。
もはや敵無しと言っても過言ではない“絶対の攻撃力”を持つシリウス・シルヴァリアであっても、その肌身に嫌と言うほど感じていた。
「さあ面白くなってきたぞ。遠慮せずに次の策を用意せよ。何も躊躇うことはない。なんだったら殺す気で打ち込んで来い! でなければ余がその聖属性ごと食ってしまうかもしれんぞ?」
この違和感。この大胆不敵さ。
終始笑っている魔女帝フィオナの異質さを。
なぜなら――
(普通ならもうとっくに倒れて起き上がれないはずなのに…………この人はどうしてまだ――)
あまりにもダメージが小さすぎたから。
魔力もしっかりと込めた。抜かりは無かった。
放った斬撃も打ち払うために振るった魔槍ゲイ・ボルグに阻まれ、多少減速こそしたがそれでも連続して放ったため総合的な威力は申し分ない。膝を付かせるには充分と確信していたのだが、
「どうした、来ぬのか? 余が口にするのもなんだが、貴様はかなり優位な立場にあるぞ?」
この魔女帝フィオナにはほとんど通用せず。
今すぐそんな凝り固まった常識は投げ捨ててこいと言いたげに、平然と何食わぬ表情で立ち塞がる彼女に焦りを禁じ得なかった。それでも。
(彼女はあのミスター・マッチョマンを倒した人物だ。だからもし少しでも攻撃の手を緩めてしまったら、一度でも攻撃のチャンスを与えてしまえば…………ボクの勝ちの目は消えてしまう!)
すぐにシリウスは次の手。
またそれでも倒れぬなら次の手と。
出し惜しみや躊躇えばそれが致命傷。
とにかく、この攻撃一辺倒を維持せねば。
「ええ、分かりました。ですがもう次の策はありません。なぜなら次を考えている間に――」
「うん? 考えている間に?」
「貴方が先に倒れているからです!」
ならば答えは一つ! 継続して攻めのみ!
防御だけだ。防御以外をさせてはいけない。
なにしろ一度でも引き離されれば追いつけない。
わずかでも戦況が変われば一気に危うくなる。
「天上の聖光よ! 我が剣に宿り万象を浄化せよ! 奥義、十字聖斬!」
そうシリウスはこの好機を逃すまいと連続攻撃。
フィオナがゲイ・ボルグを自由に振るう前に決着をと再び攻撃を仕掛けるのだった――




