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18話 始動②



――明らかに一方的だった。



「諦めろっ! もうお前達は終わりだ!」

「大人しく捕まれば命まで取りはしない!」

「今からでも武器を捨てて投降するんだっ!」

「我らがクロード陛下の慈悲を無駄にするな!」



 バキンッ! ガキンッ! ジャキンッ!


 月光照らすこの戦場にて、既にそんな幾つもの刃があちこちで激しく衝突しては火花を散らす中――



「我らが同志達よ! 良いかっ! 我らがクロード陛下の命令はあくまで連中の【制圧】だっ! やむを得ない事情を除いての()()は決して許されないっ! よって、もしも相手が無抵抗の状態で殺害した場合は厳罰に処されると心せよっ!」



「「うおおおおおおおぉぉぉぉっっっ!!」」

「「故郷ギルディアの明るい未来の為に!」」

「「そして偉大なる我らが主君の為にっ!」」

「「我らはギルディア兵! 国の守護者だ!」」



 まず優勢はギルディア軍。


 主君クロード・ギルディアにより再編成された正規軍であり、今回は国領内に巣食う【賊】を捕えろと命が下ったことにより、今もこうして優秀な指揮官の元。果敢に武器を振るっては動揺する敵の戦力を勢いに任せては次々と削いでいった。



「「ち……畜生っ! どうしてこんな事に!」」

「「砦の連中は何をチンタラしてんだ!?」」

「もう俺達だけじゃ抑えられないぞ!?」



 片や哀れ……いや、貧乏くじを引かされたとでも云うべきなのか。そんな士気が臨界点に達し闘志を燃やす兵士達を相手取ってしまい、次から次へと()()()()()()()()にされていく勢力。



「く、くそっ! まるで歯が立たねぇ!」

「それに装備も連中の方が遥かに上だぞ!?」


「おいおい……しかもこいつら、よく見るとギルディア兵の中でも特に優秀なA隊の連中まで混じってやがるじゃねぇか!? くそぉっ! こんな事になるなら参加するんじゃなかったっ!」



 言うならば敗走の陣。

 そしてその多くが金で雇われただけのただの荒くれ者であり、ギルディア兵と比べると主君への忠義も無ければ厳しい鍛錬も経験していない。


 さらに言ってしまえば、そんな自分達の雇い主であるディアスからもとっくに見捨てられるとも知らずに戦わされている哀れな一団。



「けっ! やってられるか、俺は逃げるぞ!」

「なっ!? 待て! 逃げるなら俺も――」

「おい! 俺達を置いて逃げんのかよ!?」



 よって……そんな経緯のせいか。

 現在のように追い詰められ、いよいよとなれば逃亡。あくまで報酬狙いで上っ面だけで従いこそするが、忠義心など毛頭ない彼らがわざわざ命を張ってまで雇い主に貢献など思う筈も無く、



「全兵に告げるっ! いいか誰一人逃がすな! いくら生け捕りにせよとの命令とはいえ、奴らは周辺の村を襲っていた極悪な罪人どもだ! 確実に捕まえ牢屋に叩き込む! それこそがクロード陛下が望まれる王国の未来なのだっ!!!」


「「うおおおおおおぉぉぉぉっっ!!」」

「「平和を脅かす悪党どもを許すなっ!」」

「「なんとしても全員捕まえてやるっ!!」」




 例えるならば()()が妥当。



「ぐっ! 連中、逃げる俺達を先に――」

「ひいぃ!? スゲェ勢いで追ってくる!」

「むしろ、下手に逃げた方がヤバいぞ!?」



 最早その差は実力のみならず士気も大きく影響し、絵図としては完全に追う者と追われる者。


 武器を握り、ガシャガシャと鎧を鳴らして勢いよく相手の背中を追うギルディア兵(ハンター)


 逆に士気も完全に乱れてしまい少しでも身を軽くせんと武器を捨て、バタバタと慌てて逃げゆくは荒くれ者による急ごしらえの部隊(獲物)


 さらに日々の鍛錬を乗り越えた賜物なのか、ギルディア兵には戦闘の妨げになる恐怖の類を一切抱かず、ただ我武者羅に己の仕えるべき国王クロードから下された命に従って敵の掃討にあたっていた。



「敵の数も僅かだ! 最後まで気を抜くな!」



 一方ディアスの部隊としては数でこそ正規軍を上回れど、所詮は粗悪品の集まりに過ぎず鍛え上げられた精鋭部隊の前では為す術なく惨敗。


 その証拠として既に戦況が()()()()()()()()に変化し、今では敵と武器を交える音よりも追いかけ回す足音の方が多くなっていたのだった……。




 ――そして。




「なあ、セリカ。()()()見なかった?」



 そんな無双状態のギルディア兵達の中。



「えっと、フィオナ様でしたらさっき『おおっ! ()っておる()っておる! どれ、余も一つこの掃討戦に参加してやるか! セリカよ。悪いが小僧には上手く誤魔化しておいてくれ!』って残されたかと思えば、()()()()()()()()()()()――」



「自由かっ!」



 同行していたグリフとセリカは捜索。


 一方的な攻勢の中。二人はその後方にて盾装備のギルディア兵に警護されていたのだが、なぜか戦闘途中から忽然と姿を消した召喚者フィオナの行方を探すように周囲を見回していたのだった。



 すると?



「おーい小僧! これを見るがよい! 大漁だ! にしても……まったくどいつもこいつも歯ごたえの無い連中ばかりだったぞ! こんな雑魚との勝ち戦ばかりしていては体が鈍ってしまうな!」



「……帰ってきたみたいですね」

「ああ、なんかスゲェ嬉しそうだけどな」



 戻ってきた。


 タイミングを見計らってなのかは不明だが、グリフ達が探し始めた頃合い。フィオナは勢いづいたギルディア兵の間を縫うように立ち回りながら何食わぬ顔で彼らの元へ戻ったのだった。



「お、おい! アンタらこの女の雇い主か!?」

「一体なんなんだよ! この化け物女は!?」

「こっちは6人相手だったんだぞ!?」

「それをコイツは嬉しそうに全員倒しやがった!」

「何食わせたら()()()()()出来るんだ!?」



「…………はいっ?」



 それも大勢の敵を捕縛し引きずって。


 だがそれよりもグリフは認知しながらも、惨敗した敵達の口から次々と発せられていくフィオナのでたらめな強さについての問いをいくつか耳にすると、



「なあ、一つ聞きたいんだけど」


「うん? なんだ。この結果では不満だったか? ならば、もういっそのこと正規軍ではなく余一人で全ての敵を殲滅しに行った方が良いか――」


「いやそうじゃなくて。お前さ、コイツらと戦った時に【どんな戦い方】をしたんだ? よくよく見ると、武器(ゲイ・ボルグ)もここに放置していったみたいだし。得物持ちにどうやって……」



 尋ねた。あくまでも純粋な質問を。

 幾らなんでも丸腰で挑むのは無謀だったのではと。


 しかし! そんな心配とは裏腹にグリフとセリカの二人は、直後に発せられた彼女の返答に驚愕する羽目となるのだった…………なぜなら。



「なにって……普通に()()でだが」



「えっ!? 武器相手に素手で!?」

「せめて得物で戦ってあげてっ!?」



 そう。いくら士気が乱れ弱腰とはいえ、武器持ちの集団相手にたった一人丸腰で挑んだのみならず、本人の話によれば()()()()()()()()()()()()、戦意喪失させたという常識外れな暴挙振り。



「はっはっは! 何を甘いことを言っておるか小僧よ。時には相手に圧倒的な戦力差を感じさせ、絶望させるのも強者()の務めでは無いか!」


「それどこの魔王!?」


「そして己の無力さに絶望した後。敗北の屈辱や復讐を胸に秘め、再び余を倒そうと奮闘する。そうやって己を徹底的に磨きあげ成長(レベルアップ)し、再び余に全力で挑んで来る。それこそが戦における余の理想なのだ!」


「いや、だから魔王かお前は!?」



 よって続く問いに流石のグリフもツッコミを入れざるを得ず。というより、むしろ条件反射並みにで堂々と己の強さを誇示しては嬉しそうに高笑いを決め込むフィオナへ反応していくのだった……。



 そうすると――



「グリフ様! 談笑中に申し訳ございませんが、たった今前衛を務めていたリーダー兵より伝令が入りましたので戦況および進捗報告を致します!」


「おっ、ついに来たか! 聞かせてくれ!」


「はっ! では早速――」



 和気藹々とした空気より一変。



「はい、先程まで戦っておりました見張りは全て捕縛。そして連中が吐いた情報によると今回の主犯はやはりクロード陛下の予想された通り、あのディアスさま……いいえ、『ディアス・ギルディア』がこの先のバルグ砦の地下で何かを企んでいたそうです」


「さらにそちらのセリカ様が捕えられていた牢屋もその地下にあり、恐らく子供達もそこに――」



 前衛を担っていたギルディア兵達より一報。

 それも内容としてはいよいよ今回の事件を大きく動かす為の報告がグリフの元へと入ってくる。



「ほぉ、ようやく敵本陣へ殴り込みか」


「これでようやく子供達の元に……」


「ああ、ようやく(ディアス)の尻尾を掴めた」



 こうしてついに残すは主犯との決戦。


 かつては彼が追放されるまで所属していた最強ギルド【蒼穹の聖刻団】の活躍によって王の座を追われ、最後は(クロード)の慈悲により処刑されず、五体満足で国外へ追放された暴君ディアス・ギルディアの(はかりごと)を阻止すべく動き始めた。



「行こう。まずは子供達を助けるんだ!」


「ええ! 行きましょうグリフ様!」

「うむ! 敵の対処は任せるが良い!」


「…………待ってろよ、ディアス。もう二度とお前のようなクズの好きにはさせないからな」



 そして……グリフにとってはそんな過去の因縁に決着をつける意味も込めて、彼はセリカとフィオナを連れて敵のアジトでありこれまで放棄されていたバルグ砦へと足を進めるのだった。



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