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9話 ギルディア王国①



「クロード陛下! この大臣ベルート。ただいま城内および周囲巡回の任を完了し戻りました!」



 ギルディア王国。

 それはグラドーラと呼ばれる緑豊かな地方の中心に位置する国の名称だった。



「ああ。ご苦労だったね、ベルート」



 そしてその国家の歴史としては非常に古く、遡ること数百年以上にも渡りもはや今では当時の光景を鮮明に語れる者など誰もいない昔の時代。


 かつて新参者としてこのグラドーラへ流れてきた初代ギルディア王は建国後。恵まれた資源と土地を巡って小競り合いを起こしていた周辺の小王国全てを、当人含めた圧倒的な武力で瞬く間にねじ伏せ各国全てを支配下に置いたことで瞬く間に規模を拡大。



「いえいえ、とんでもございません! この大臣ベルート。他ならぬクロード陛下の命令とあらばたとえ空から槍や雷が降り注ごうとも、どんな危険な任務であっても地の果てまで赴きますぞ!」



「あははは……頼むから無茶だけはしないでくれよ。もしも君に何かあれば僕としても大変だからね……ああ、そうだそうだ。それよりもやっぱりこの雨は夜になっても止みそうにないかい?」



 さらに、いつしかグラドーラの覇者とまで恐れられたそんな初代ギルディア国王の武勲は別地方の周辺諸国にまで影響を及ぼし、いつしかギルディアはあちこちに大国としての名を確立していった。



「ええ。残念ですが未だに雨雲が一向に晴れる様子がありませんし、恐らく今夜いっぱいはこのまま降り続けることでしょう。まったく朝までは眩しいくらいの快晴だったというのに、本当に天候とは気まぐれなものですな」



「……そっか。今日は久しぶりに星を見たい気分だったんだけど、どうやら叶いそうにないね」



 しかし。

 そんな武力による制圧という強引な歴史を辿った国家らしいと言うべきなのか、初代ギルディア王による統一直後。身分制や奴隷制などによる差別や貧富の差といった暗く重々しい闇の過去も同時に存在しており、数百年経った今でも国民達の間ではその悪しき歴史を忘れてはならないと後世に語り継がれていたのだった……。




 ――そうやって。




「うぐぬぬぬぬっ! おのれ、あの目障りな暗雲どもめ! クロード陛下の数少ない息抜きを妨害するとは許せん奴だ! お任せください陛下! このベルート。先日城下町の呪術者に習いました“黒魔術”とやらを使って、あの不敬な暗雲を一つ残らず空から消し去ってやりますのでっ!」



「……ちょっと待ってベルート。僕の記憶が確かなら、以前もそんなノリで試した事の無い術を試して()()()()()()()()()()()()()よね? それを今度は何? この玉座の間を消し飛ばすつもり?」



 現在。

 初代ギルディア王の統治より数百年。


 時代も景色も情勢も大きく変化し、また国の統治者も10を超える世代交代を経てかつての支配形態による闇の歴史。そして、その犠牲となった者への贖罪を念頭に置いてきた以降のギルディアの王達。



「えっ? いや、その……あれは……少し魔力の調子が悪かったと言いますか。あはははは……と、とにかく今度は大丈夫ですのでご安心をっ!」


「何か根拠を示してくれないかな!?」


「そ、それに……万が一また()()()()()()()事があればこのベルート一人の命で済みますし!」


「吹っ飛ぶ前提!?」



 そんな中でも特に国民達からは若き名君と呼ばれる17代目のこの青年。

 母親譲りの長い赤髪が特徴の現国王“クロード・ギルディア”は玉座の間にて、



「とにかく! 試した事の無い術を試すのはもう禁止だからねっ!? それに今日はもう遅いから星空の事は気にせず僕に報告だけ済ませたら君も部屋に戻って休んでくれ。以上!」



「むむぅ……残念です。今度こそ陛下のお役に立てると思って徹夜で習得したのですが――」



()()()()()()()()()()()で習得したとは言いませんっ! さあ、それじゃあそろそろ真面目に報告を聞かせてくれ、ベルート」



 次から次へと飛び出す従者の危うい発言。


 自身の幼少期から今もなお目付け役として奮闘する大臣ベルートの不安な提案の数々を全て却下すると、クロードは城外の情報等を求めていった。



「はい、それではご報告いたします。まずは例の()()()()および()()()()についてですが……やはり深夜での出来事で、それもあまりにも唐突に発生した影響で目撃情報も少なく襲撃した犯人についても、黒装束の怪しい集団を見かけた程度で未だに足取りを掴みきれていません」



 ……そうか。

 クロードはベルートの悪報に肩を落とす。



 自国内の教会にて起きた悲惨な放火事件。


 そして心優しく誰にも分け隔てなく救いの手を差し伸べると評判だった神父の死亡。さらに彼と共に生活していた子供達が未だ行方不明で発見されていない件についても――



「これは僕の考えだけど、あの神父は敬われこそされど、決して誰かから恨みを買うような人柄じゃなかった。それに僕自身も彼とは何度か顔を合わせた事があるけど、その時の子供達の様子といい年長者の少女といい平和そのものだった」



 かつてお忍びで自分が城下町へと赴いた際。

 クロードは親を亡くした孤児達を拾い育てているという教会。もといそんな孤児達の親代わりであった神父と面識があった彼は当時の光景を鮮明に語り、



「はははは、子供は嘘を付けませんからな。きっとクロード様の仰る通り、あの教会の神父は評判通りの慈愛に満ちた優しい男だったのでしょう。まったく惜しい人間を失くしたものです……」



「……そうだね。でも、だからこそ僕達は責任を持って彼が護ろうとした子供達を探さなくてはならない。国民の身を案じるのも国王である僕の立派な務めなんだから。なんだったら僕がベルートの代わりに兵士達を束ねて探しても――」



 (ギルディア)を束ねる王としての責務を重んじてなのか、クロードは自らも調査の先陣に立ち、今もどこかで怯えている子供や少女を救い出そうと大臣へと告げていった…………しかし!



「なっ!? クロード陛下! お願いです、それだけはお止めくださいませ! 相手は女子供を平然と巻き込むような凶悪な犯罪者なのですぞ!? もしも陛下が出られてその御身に万が一でもあればこのベルート。先々代のバトロス様に合わせる顔がございません! ですから何卒この件につきましては今しばし私にお任せください!」



 無論、大臣ベルートは即座にこれを却下。


 仕える者として主の気持ちを汲むのは当然だが、まさかの王自ら出撃しようという無謀さを諫めるのも臣下の役目と言いたげにベルートは発した。



「君の言いたい事は分かるよ、ベルート。けれども自国の民が殺害されたというのに、統治者である僕が城に籠りっきりというのもどうかと――」



「陛下の優しさは我々が身に染みて分かっております。そしてその民の安寧を強く願う気持ちこそが、陛下が真に考える王の形だという事も……だからこそ我々は貴方様という名君を失うわけにはいかんのです! たとえ命に代えてでも!」



「…………………………」



 対して――



「分かった。君に任せるよ、ベルート」


「……よくぞ踏み止まってくださいました。ではこのベルート、責任を持って調査の続きにあたります故、どうかもう少しだけお待ちください!」



 そうクロードは報告を聞いたうえで、現在も国内を騒がしている放火事件の調査に赴かんとしたが、今はベルートの必死の制止に従うようにして玉座に腰を下ろして再度彼に一任するのだった。



「では、続きましてこれは別の報告なのですが……実は陛下に一度お目通りを願いたいと、謁見の許可を求める書簡が届いておりまして――」



 そして報告は別の話題へ。



「えっ、謁見の許可だって? 一体誰から?」



「はい。まず謁見を希望する者の名はグリフ・オズウェルド。そして未だ我々の記憶に新しい()()()()()()()()()()()()()()冒険者ギルド『蒼穹の聖刻団』の一員だった人物からです」



「グリフ・オズウェルド……ああ! あの賢者のグリフさんか。覚えているよ。でもどうして彼が僕に? それに『蒼穹の聖刻団(あのギルド)』は少し前に解散したと聞いていたんだけど――」



 別に不信感は無かった。


 ただクロードは知り合いである筈の賢者グリフがどうしてわざわざ改まって書簡などを送り、謁見の許可を求めてきたのかに疑問を抱く。



「さあ……そればかりは私にも分かりかねます。ですが拝見した書簡の内容としても謁見を求める以外に要件が特に無く、相当慌てて書いた名残がありましたので急を要していたのかと――」



「分かった、許可しよう。もしグリフさんが国を訪れたら丁重に城へ迎えるよう兵士達へ伝えておいてくれ。君も知っている通り『蒼穹の聖刻団(彼ら)』には返しきれない“借り”があるからね」



「はっ! ではそのように!」



 しかし他ならない恩人の頼み。


 クロードは何か深い事情があるのだと察すると、即座にグリフ達一行がギルディアに到着し次第この王城へ案内するよう命を下した。すると?




「それから……クロード陛下。実は()()()()貴方様へご報告すべき事がございまして、こちらはあくまで未確定の情報ではあるのですが――」




 グリフ達を歓迎するよう命を受けたベルート。


 だが彼は即座に玉座の間を離れようとはせず、未だ主君(クロード)の前に跪いたままの状態で、妙に口籠りながら話題を切り替えていくと、



「うん? ベルート? どうしたんだ? なんだか急に顔色が悪くなったように見えるんだけど。まさかやっぱり雨のせいで体調を崩して――」



「いいえ! そうではありません! ですが実は【この件】は言うか言うまいかで非常に悩んでいたのです。しかしやはり一度陛下のお耳に入れておこうかと思いまして…………じ、実は――」



「?」



 告げた。


 前置きとして意味深な言葉を連ねたせいで、事情が掴めずに首を傾げる主君へ視線を合わせると、ベルートは自身でも信じ難い情報を発した。



 そして、その情報とは。



「実は()()()を目撃したと……」



「なっ!? なんだって!?」



 ……驚愕した。


 確証が無かったせいかハッキリと断言こそしなかったが、それでもベルートの口から飛び出した“()()()()()()()()()”についてクロードは飛び跳ねるように玉座から立ちあがるのだった――




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