10話 ギルディア王国②
「「黒い棺桶?」」
快晴。
深夜まで続いた豪雨と暗雲がまるで幻だったかのように何処かへ消え去り、代わりに待っていましたと言いたげに眩しい太陽が大地を照らす中。
「はい。私達が料理や身の回りの世話などを終えると、犯人達は私達を怪しげな“黒い棺桶”の前へ連れていき、その棺桶へ向けて祈りを捧げるように命令してきたのです。得体の知れない不気味な気配を放つその真っ黒な棺桶へ――」
吐血してより一日。
どうにか意識を取り戻したセリカはグリフ達と共に、囚われた子供達がいるというギルディア王国の領土を目指し、その道中を馬車に揺られながら幽閉されていた間での出来事を伝えていた。
「……それで?」
「はい。その黒い棺桶に祈っている間ですが、私を含めて子供達全員が“生気を吸い取られているような”感触に襲われていました。それも中には祈っている最中に気絶する子も出る程で――」
セリカは何の前触れも無く教会を焼かれ、恩人であり親同然でもあった神父でさえも目の前で殺害。以降、抵抗虚しく送る羽目となった牢屋での絶望的な日々の風景を思い返しながら、
「生気を吸い取る棺桶か……ひでぇ事しやがる」
「ふむ……ましてや、か弱い子供を贄にするなど如何なる理由があろうとも許される筈が無い。してセリカよ、気を失った子供はどうなったのだ?」
「えぇ、幸いすぐに意識を取り戻したのですが……それでも日に日にやつれていく子供達の姿に私はとうとう耐え切れなくなってしまい――」
「命張ってでも助けようとしたってワケか」
「……はい。私にとってあの子達は家族同然ですから。だから家族であるあの子達を救う事が出来るのならば、たとえこの命が果てようとも私は後悔はしません! あの時の神父様のように!」
最後は力強く芯の入った声で語った。
昨日は話の途中で“儀式の呪い”の影響により吐血した後に気を失い中断されたが、今度はキッチリと説明しきれなかった経緯についてセリカは語り終える。
「命が果てようとも……か」
「ふふ。まったく、家の前に行き倒れていた時はただの少女だと思っていたが。いやはやとんでもない覚悟を秘めた者だったようだな、小僧?」
「そうだな。でもだからこそだ。ここまで本気になっている女の子を見捨てるなんて男の風上にもおけないからな! なんとしても犯人達をぶちのめして囚われた子供達を助け出してやるぜ!」
すると男顔負けの覚悟に報いる為なのか。
見通しの良い開けた道を往く馬車の中で、グリフはフィオナの言葉に賛同するように意気込むと自分に喝を入れる意味も兼ね、堂々と自分達へ発したセリカに負けず劣らずの声量で告げていく。
「よしよし、流石は我が主だ。やはり余の見る目は確かだったようだな。ところで……小僧よ。余には一つ気掛かりな事があるんだが――」
「うん? なんだ、気になる事?」
するとセリカの救助依頼を改めて受託した直後。
グリフにとっては顔見知りである老人の御者が操る馬車内にて、今もなお雲一つない晴天の下を進み、残す距離としてはそろそろ目的地のギルディア国領が見えてくるであろうという最中――
「ふむ。今我々が向かっているそのギルディアとは聞くところによれば大層大きな国なのであろう? ともなれば無論、警備もそれなりの人員が割かれているであろうし、勝手に侵入して子供達の捜索を始めようものなら捕まるのではないか?」
フィオナは思わずグリフへそう尋ねる。
子供達の無事を願うセリカの為とはいえ、ギルディア国の住民であるならばまだしも国外の人間。ましてや別の地方から来た自分達が許可も無く、勝手に国領内を探り回っているのをもし警備兵に目撃されでもすればそれこそ捕縛されるのではと、
「なるほど。それは確かに気になる所だろうな。一応囚われた子供達を救う為とはいえ警備兵からすれば証拠が無い以上は真偽を確かめる手段も無いし、お前の言う通り捕まる可能性が高い」
「そうであろう? だからこそ一刻を争う事態である以上、捕縛された際の弁明など余計な時間をかけぬ為にもまずは国王に会わなくては――」
あくまでも冷静に。
こちらの世界へ召喚される前はどんな生活を送っていたのか掴めない点の多いフィオナだが、彼女なりに客観的に物事を判断し、初めに統治者である国王へ相談するべきだと提案するのだった。
しかし提案を受けたグリフは――
「へへへ。でもその事なら任せてくれ! そういうと思って実は既に謁見を求めるようにギルディアの国王宛てに書簡を送ってあるのさ。まあ、なんと言うか蒼穹の聖刻団にいた時に色々あったもんでさ――」
まるで待ち望んでいたかの如く。
フィオナから謁見許可の話題が出た途端。グリフは予め昨日の内にこっそり自分が国王宛てに出していた書簡についてを得意げに語っていった。
「そ、そんな……まさかあの名君と名高い、若きギルディア王と知り合いだったなんて――」
「ほお? よもや一国を背負う者と知り合いだったとは……小僧にしては中々やるではないか。一体どのような経緯があったのか知らぬが、ひとまずこれで子供達を探すのには苦労はせぬな!」
「あはははは……まあ、正直に言うと誰かに誇れるような出会い方はしていないんだけどな。ほんの数年前に蒼穹の聖刻団の強さを見込んで、今の王様からある“特別な依頼”を頼まれたのが全てのきっかけなんだ。それこそ決して公には出来ないマジで特殊な任務を――」
「えっ? 特殊な任務?」
「うむ……余も気になるな。いくら小僧がいたあのギルドが強豪だったとはいえ、一国の王直々に託されるなどそうそうあるものではあるまい。一体貴様達はどんな依頼を受けたのだ?」
「あっ、いや……その――」
しまった……。
思わずグリフはそう自分が不意に溢してしまった発言に後悔し口を紡ぐと、あくまでも極秘事項につき当人の許可無く他言しないという約束を守るべく言葉を濁していく。
そうすると、そんなグリフの反応を見てか。
「……そうか、分かった。たとえ余達であっても話せない事情があるのだな。ならばこれ以上の詮索はせんでやろう。セリカもそれで良いな?」
「ええ、分かりました。グリフ様はグリフ様の事情があるようですし、私も尋ねるのは止めます」
「ははは……察してくれて助かったよ」
「ただし! もし話せる機会が巡って来たなら是非とも教えてくれ。貴様の相棒として、そして従者として主の過去を知るのも余の務めだからな」
「ああ、分かってるよ。もし許可が下りて話せる機会があれば隅々まで話してやるさ」
賢い女性二人は詳細を求めずに引いた。
公には出来ないという彼の発言も相まってかセリカ、フィオナ共にこれ以上強引に聞きだすのは野暮と思い、今は敢えて深く聞かずにまた話してくれる機会が巡ってくると信じて――
「おーい、グリフさんやぁ。そろそろグラドーラ地方ですんで、支度だけ済ませておいてくだせぇ。それと言っている間にギルディアの国領内に入りますんで。そんでワシも降ろしたら向かう場所がありますから、到着したら迅速にお願いしますよ」
と、その矢先。
「おっ、もう見えてきたのか。分かったぜ、じいさん。よし、それじゃあセリカさん――」
御者の報告を聞くや否や、グリフは理解力のある女性二人に助けられながら話の内容を最後まで語る事も無く上手く話題を切りあげると、
「ふふ、呼び捨てで構いませんよ。これから私の事はセリカとお呼び下さい」
「よし。セリカ、それじゃあ子供達を探す前にまずは王様に謁見して探索の許可を貰うからな。焦る気持ちは分かるが、俺達もお尋ね者になるワケにはいかないからな。そこだけは勘弁してくれ」
「はい。分かりました!」
子供達を救う事を常に念頭に置いているセリカへ、再度王城へ向かう必要性についてを説いて納得させるのだった。
この国領外からでもわずかに見える城下町含めた、その全てを防護する為に高く設けられたギルディアの巨大な城壁を視界に入れながら――
諸事情により次話は12日(木曜日)の1時頃に投稿予定です。




