人の言葉によれば
膝の上、本の厚い頁が捲られ、指が絵と文字を辿る。
「狼または山犬」
「家族、北風、恐怖と狂気、叫び、守護者、発見者、鎖に縛られぬもの」
声は指先の文字を問いとして発する。別の男の声が即座に応じた。群れて駆ける山の獣の足下に並ぶ言葉を諳んじる。
「兎」
「俊敏、多産や繁栄、臆病者、耳聡さ、春、逸脱、贄として供されるもの」
頁が適当に数枚捲られ、指は今度は、穴から顔を出す獣の額を撫でた。問いは続き、答えが返る。
「鹿」
「王と霊性、樹木、再生、男性、権力、頂を目指すもの」
頁が変わり、繰り返される問答は淀みなく。まるで頁の上に横たわる文字が見えているかのように。
「では人は」
指は古びた紙面、枝分かれした角を離れ、声は、読み上げるのではなく発された。
応じて、まず返るのは微笑み。受け答えをしていた男は自分たちの間、円卓の上に載った木札を見下ろした。炎に囲まれ牙を剥く醜い獣の絵が描かれている、占い札。
「運命。――赤子と白札は似ているのです。何事をも抱える可能性を持ち、人は生まれてくるのです、王よ」
言って、問いを発していた王を見て笑みを深める。手は木札を重ね置いた。獣の札の上に、光芒の円の中で身を丸め、目を閉じる赤子の札を。その上には更に、何も描かれていない札が置かれる。
「我々はどのようにもなれます。どの獣にも成り得るのです」
染み入るような声を聞き、王は彼を見返した。揺らぐことのない視線が返り、二人は暫し見つめ合う。
「この国はますます栄えて豊かになりましょう。占いにはそう出ております」
宮廷魔術師は呪いのように囁いた。塔の外ではしんしんと雪が降っていた。
これは人の物語。
獣の名を借りた人々の、ほんの僅かな爪の痕。




