表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣の譬  作者: 灰撒しずる
跋文
20/20

人の言葉によれば

 膝の上、本の厚い頁が捲られ、指が絵と文字を辿る。

「狼または山犬」

「家族、北風、恐怖と狂気、叫び、守護者、発見者、鎖に縛られぬもの」

 声は指先の文字を問いとして発する。別の男の声が即座に応じた。群れて駆ける山の獣の足下に並ぶ言葉を諳んじる。

「兎」

「俊敏、多産や繁栄、臆病者、耳聡さ、春、逸脱、贄として供されるもの」

 頁が適当に数枚捲られ、指は今度は、穴から顔を出す獣の額を撫でた。問いは続き、答えが返る。

「鹿」

「王と霊性、樹木、再生、男性、権力、頂を目指すもの」

 頁が変わり、繰り返される問答は淀みなく。まるで頁の上に横たわる文字が見えているかのように。

「では人は」

 指は古びた紙面、枝分かれした角を離れ、声は、読み上げるのではなく発された。

 応じて、まず返るのは微笑み。受け答えをしていた男は自分たちの間、円卓の上に載った木札を見下ろした。炎に囲まれ牙を剥く醜い獣の絵が描かれている、占い札。

「運命。――赤子と白札は似ているのです。何事をも抱える可能性を持ち、人は生まれてくるのです、王よ」

 言って、問いを発していた王を見て笑みを深める。手は木札を重ね置いた。獣の札の上に、光芒の円の中で身を丸め、目を閉じる赤子の札を。その上には更に、何も描かれていない札が置かれる。

「我々はどのようにもなれます。どの獣にも成り得るのです」

 染み入るような声を聞き、王は彼を見返した。揺らぐことのない視線が返り、二人は暫し見つめ合う。

「この国はますます栄えて豊かになりましょう。占いにはそう出ております」

 宮廷魔術師は呪いのように囁いた。塔の外ではしんしんと雪が降っていた。


 これは人の物語。

 獣の名を借りた人々の、ほんの僅かな爪の痕。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ