第4話: 美少年、調子に乗る。
どうも、松岡禎丞です!
現在、僕は家でのんびり過ごしています。
家と言っても、普通の家じゃありません!
なんと、タワーマンションの最上階です!!
いやもう、本当にすっごいです!
初めて部屋に入った時なんて、思わず立ち尽くしちゃいました!
だって、見渡す限り高級感しかないんですよ?
見るからに値段が高そうな家具がずらりと並び、大きな窓の向こうには街並みを一望できる絶景。
床も壁もピカピカで、まるでホテルみたい……
いや、ホテル以上なんじゃないかって本気で思ってます!
前世の僕だったら、一生縁のない世界ですよ、こんなの。
そして何より、僕のお気に入りなのは……
視界に飛び込んできた大きなベッドへ、思わず勢いよくダイブする。
ぽふっ。
身体がふわりと包み込まれる。
「このベッド、すご……」
もう柔らかいなんてもんじゃないんです!
雲の上に寝転がってるって言われても信じるレベルです。
身体中の力が勝手に抜けていく。
「……なんか、いい匂いする。」
高級な柔軟剤なのか。
シーツの香りなのか。
それともベッドそのものなのか。
理由は分からないけど、とにかく落ち着く。
思わず何度も深呼吸したくなるくらい心地いい。
「……最高ぉぉぉ。」
と、ここで皆さん。
実はもう一つ、自慢出来るものがあるんです!
それは僕自身です!
部屋の隅に置かれた姿鏡の前へ立つ。
そこに映るのは。
雪みたいに白い髪。
アクアマリンのように透き通った綺麗な瞳。
少女と見紛うほど整った、中性的で儚い顔立ち。
そうなんです!
僕、とんでもない美少年なんです!!
前世の記憶が戻る前は、この顔があまり好きじゃありませんでした。
目立つし、周りから見られるし、落ち着かないし。
でも、今は違います!
だって、前世の僕はブサイクでした!
だからこそ、「もし顔が良くなってモテモテになれたらなぁ」なんて妄想をしては眠りについたものです。
「それが今じゃ、この顔だもんなぁ……」
鏡へ近づく。
右から見る。
「うん。」
左から見る。
「うん。」
少し笑ってみる。
「……うん。」
どの角度から見ても。
「顔良すぎ。」
住む場所は最高。
ベッドも最高。
そして、自分の顔まで最高。
「もしかして。」
「この人生、ちょろいのでは?」
そんな考えが頭をよぎった瞬間。
「あはははっ!」
笑いが止まらなくなった。
はい、そうです!
現在の僕、松岡禎丞は完全に調子に乗っています!
コンコン。
その時、不意にドアがノックされた。
「禎丞、入るわね?」
お母さん、彩音の声だ。
「はい! どうぞー!」
ガチャリとドアが開き、お母さんがいつもの優しい笑顔で部屋へ入ってきた。
「ふふっ。元気そうね」
「うん!すっかり元気!」
そう答えると、お母さんは安心したようにふわりと微笑んだ。
退院してからというもの、お母さんは何かあるたびに僕の体調を気にしてくれる。
「頭は痛くない?」
「気分は悪くない?」
「疲れてない?」
そのたびに「大丈夫だよ」って答えるんだけど、それでも心配みたいだ。
……まあ、あんな事故のあとだし仕方ないか。
「そうだ、禎丞」
「なに? お母さん?」
「お風呂、もう入れるように準備してあるわよ」
「え、お風呂?」
「今日はゆっくり湯船に浸かって、疲れを流してきなさい」
「え、やったー!」
正直、家のお風呂が恋しかった。
久しぶりにゆっくり湯船へ浸かれると思うと、自然と足取りまで軽くなる。
「じゃあ、入ってくるね!」
「あ、でも無理はしちゃ駄目よ? 少しでも辛かったら、すぐに上がってくるのよ?」
「うん!」
元気よく返事をしてから、ふとお母さんを見る。
「あ、お母さんも入る?」
「――――っ」
彩音の思考が完全に停止した。
「……え?」
小さく声が漏れる。
今、禎丞は何と言った?
一緒に。
お風呂に。
(え、え………ええ!?!!?)
顔が一瞬で熱くなる。
頬が赤く染まり、耳まで熱を持つ。
(ちょ、ちょっと待って……!)
昔の禎丞なら、こんなふうに自然に自分へ甘えてくれることなんてなかった。
それだけでも嬉しいのに。
そんな不意打ちみたいな言葉を、あんな無邪気な顔で……。
「お、お母さんも……?」
やっと言葉を返そうとした、その瞬間。
「……あ!」
禎丞が何かに気付いたように声を上げた。
「あはは!」
「流石にこの歳じゃ一緒には入れないよね!」
「へ!?」
彩音の思考が追いつかない。
「ち、違……!」
「じゃあ入ってくるね、お母さん!」
「え、あ、いや……!」
言葉が出ない。
禎丞は笑顔のまま、上機嫌な足取りで部屋を出ていった。
パタパタと軽快な足音が廊下へ遠ざかっていく。
そして。
部屋に残された彩音は。
開いたままのドアを見つめたまま、完全に固まっていた。
「…………」
静まり返った部屋。
彩音は、ゆっくりと肩を落とした。
「……お母さんも……」
ぽつり。
「……お母さんも、一緒に入りたかったよぉ……」
小さな声が、誰もいない部屋に消える。
彩音はそのまま、しょんぼりと項垂れた。
◇
禎丞は鼻歌交じりに廊下を歩き、浴室へ向かった。
「久しぶりのお風呂だぁ!」
扉を開けると、まず目に飛び込んできたのは広々とした脱衣所だった。
「うわぁ……」
大理石調の床に、落ち着いた色合いの壁。
間接照明が柔らかな光を落とし、ホテルのような高級感を演出している。
「家のお風呂ってレベルじゃないなぁ……」
思わず感心しながら服を脱ぐ。
脱いだ服は、脱衣所の壁際に置かれた木目調のランドリーキャビネットへ収めた。
一見すると収納棚にしか見えないその家具が洗濯物入れだと気づき、「こんなところまでこだわってるんだ……」と小さく感心する。
そして浴室の扉を開けた。
ふわりと温かな湯気が身体を包み込んだ。
「おぉ……」
大きな浴槽。
ゆったりと足を伸ばせそうな広さ。
壁には高級感のある石目模様が広がり、シャワーや水栓も一目で高価だと分かるデザインだ。
「すご……」
ぐるりと浴室を見回していると、ふと気づく。
浴室と脱衣所の間は、しっかりと壁と扉で仕切られていた。
どうやら、ガラス張りの開放的な造りではないらしい。
「高級ホテルとかだと、浴室がガラス張りで脱衣所や部屋から丸見えみたいな造り、たまにあるもんなぁ。」
前世ではテレビやネットで見て、「いや、落ち着かなくない?」と思っていた。
「やっぱりお風呂は、誰も気にせずのんびり入りたいよ」
満足そうに頷くと、禎丞はシャワーを手に取った。
すると、ガチャという音がして扉が開かれる。
「え?」
思わず声が漏れる。
「はぁ、疲れた――」
そこまで言ったところで、女性の動きがぴたりと止まる。
「……え?」
湯気の向こうで視線が合う。
数秒の静寂。
禎丞も固まり、女性も固まる。
「…………」
「………お、お姉ちゃん?」
紅音の視線が反射的に禎丞の下半身へ向く。
状況を理解した瞬間、その目が大きく見開かれた。
「……っ!!」
みるみるうちに頬が赤く染まり、耳まで真っ赤になる。
「あっ……えっ、ちょっ……!」
慌てて両手で目を覆おうとするものの、一瞬遅かったことに気づき、さらに顔を赤くした。
「きゃああああっ!?ご、ごめん!!!!」
半ば悲鳴のような声を上げると、紅音は勢いよく扉を閉めた。
バタンッ!!
扉の向こうからも、あたふたと慌てる気配が伝わってくる。
「ご、ごめん禎丞!いると思わなかった!本当にごめん!!」
どうやら姉の紅音が入浴中だとと気付かず、うっかり入ってしまったらしい。
禎丞はしばらく呆然としたまま立ち尽くす。
「……びっくりした」
そう呟くと、気を取り直してシャワーの栓をひねった。




