第24話 食料保存魔法
実験農場に実った、通常の5倍という圧倒的な収穫量。
しかし、そこには次なる巨大な課題が突きつけられていました。
「これほどの収穫物を、一体どうやって保存するつもりですか、リリア様」
宰相エリオット様が、山のごとく積み上がった黄金色の小麦を見上げながら問いかけました。
「どれほど豊かな実りも、腐ってしまえば価値はありません。
現在の我が国の保存魔法では、数日が限界。
この量を消費しきる前に、大半が失われてしまうでしょう」
軍事至上主義のアルヴァレード王国では、食料の長期保存に魔力を割くという発想そのものが希薄でした。
「破壊」に魔力を使うことは尊ばれても、「維持」に魔力を使うことは軽視されていたのです。
「お任せください。私の生活魔法カタログには、その解決策も含まれています」
私は、脳内にある『生活魔法カタログ80』の第2カテゴリー「料理革命」を開きました。
今回使用するのは、第14番『魔法冷蔵』、第15番『魔法冷凍』。
そして第7カテゴリー「物流革命」の第62番『保存輸送魔法』です。
私は、収穫されたばかりの小麦と野菜が次々と運び込まれた巨大な倉庫へと向かいました。
私の魔法の基本スペックは、ここでも揺らぎません。
・魔力消費量:0.01%以下
・精密制御 :誤差0.01度以内
「生活魔法カタログ第15番――『魔法冷凍』」
私は、倉庫内の温度を、食材の細胞を破壊しない最適な温度へと固定しました。
通常の保存魔法が「表面を冷やすだけ」で細胞壁を壊してしまう非効率なものに対し、
私の術式は微細な魔力の振動によって、細胞レベルで鮮度を「停止」させます。
魔力消費量は、軍事用冷却魔法の百分の一以下という驚異的な数値を維持しています。
「さらに、カタログ第62番『保存輸送魔法』を重ねて発動します」
これにより、外部からの熱の流入を完全に遮断し、
内部の時間を物理的に止めたかのような状態を永続的に維持できるのです。
「……リリア様、これは。魔力供給の波が一切ない、完璧な静止だ」
エリオット様が、魔導測定器を手に驚愕の声を上げました。
「通常の保存は数日が限界ですが、この術式なら一年以上の長期保存が可能です」
「一年……!? それはつまり、不作の年に備えて食料を完全に蓄えられるということか」
エリオット様の驚きは、当然のものでした。
「はい。この魔法があれば、この世界から『飢饉』という概念を消し去ることができます」
一年間の保存が可能になれば、収穫の時期に左右されず、常に民へ食料を届けることが容易になります。
さらに、カタログ第63番『魔法冷蔵輸送』を組み合わせれば、
遠方の都市や国へも、採れたての鮮度を保ったまま運搬可能です。
「……これは、物流革命だ」
エリオット様は、私の魔法によって「時間が止まった」かのような鮮度を保つ野菜に触れ、熱く呟きました。
「農業で5倍の富を生み出し、保存でその価値を永続させる。
リリア様、あなたは国家の血流である『物流』すらも支配しようとしているのですね」
かつてのアルヴァレード王国では、軍事魔法が使えない私は「役立たず」と嘲笑されました。
しかし、王太子アルドリック様が「無価値」と捨てたこの魔法は、
今、国家の存亡に関わる最大の恐怖――「飢え」を終わらせようとしています。
「次は、この魔法を魔道具として量産化し、誰もが使えるようにしましょう」
私の言葉に、エリオット様は興奮を隠しきれない様子で頷きました。
「ええ。魔法保存庫による世界規模の物流網を構築しましょう。
それが、我が国を世界一の経済大国にする揺るぎない基盤となります」
黄金の農地から始まった革命は、保存魔法という翼を得て、国全体へと広がり始めていました。
その先には、私の魔法特許によって支えられた「魔法物流都市」の構想が描かれています。
王太子が「何の価値もない」と断じた魔法が、世界経済を支配するための強固な土台となっていく。
私は、東の空に広がる未来を見据え、自身の術式をさらに確固たるものへと練り上げました。




