073.夜明けの空
パリィィィィィン……ッ!!!
ソリダリスの広場に、凍てついた時間が砕け散る音が響き渡った。
数ヶ月もの間、神の呪いを封じ込め、ガルシアを閉じ込めていた氷の檻が、眩い結晶の雨となって朝日に溶けていく。
「……ガルシアさん!!」
真っ先に駆け寄ったのはノエルだった。
膝から崩れ落ちそうになるガルシアの身体を、彼女はなりふり構わず抱きとめた。
かつて触れることさえ拒んだ死の冷気はもうない。
そこにあるのは、確かに脈打つ、温かな生命の鼓動だった。
「……よぉ。
……心配、かけすぎたな」
数ヶ月ぶりに発せられた声は、ひどく掠れていたが、紛れもなく俺自身のものだった。
俺は震える左手で、ノエルの柔らかな背中をゆっくりと抱き返した。
彼女の流す熱い涙が俺の首筋に触れて、ようやく現実に帰ってきたことを実感させてくれる。
「おせーんだよ、バカ野郎」
呆れたような、だがどこか泣きそうな声を上げて、レオンが歩み寄ってくる。
その隣には漆黒の聖剣を鞘に納め、満面の笑みを浮かべたカイルが立っていた。
「……おかえり、ガルシア」
「ああ。
……あんなところで寝てたら、背中が凝って仕方ねえよ」
俺はカイルの差し出した手を掴み、ノエルに支えられながらゆっくりと立ち上がった。
右腕にはまだ、あの戦いの名残である黒い氷の紋様が深く刻まれている。
だが、それはもう俺を蝕む呪いではない。
世界を守り抜いた、誇り高き「魔王」の勲章だ。
ふと、広場の隅に目をやると、道化服を纏った女が、満足げにこちらを見ていた。
『――くくっ。
やはり面白い、最高に愉快なバカじゃ。
神の猛毒を食らって、なおピンピンしておるとはのぉ』
「ロキ……。
お前のおかげで、退屈しない死後(?)体験だったぜ」
『ふん、暇つぶしは終わりじゃ。
わらわは次の「面白いバカ」を探しに行くとしよう。
……達者でな、魔王ガルシア。
そして、神を捨てた勇者カイルよ』
ロキは三日月のような瞳を細めて笑うと、花びらのように風に舞って消えていった。
もう、俺たちに神の介入を許す隙はない。
俺は大きく息を吸い込み、ソリダリスの街を見渡した。
ボロボロになった城壁は修復され、広場には活気が溢れ、かつて俺に石を投げた民衆が、今は心からの歓声で俺の生還を祝っている。
「……カイル。
これからどうする。世界はまだ、混乱の真っ只中だろ?」
「そうだね。
やることは山積みだよ。
でも、今の僕らならどこへだって行ける。
神様の脚本なんてない、自分たちの物語を作りにね」
カイルが空を指差す。
そこには、かつての偽りの黄金色ではない、どこまでも透き通った、本当の青空が広がっていた。
「……そうだな。
……よし、まずは飯だ!
ノエル、とびきり美味いもんを作ってくれ!!」
「はい!
もちろんです、ガルシアさん!」
ノエルが花が咲くような笑顔で応える。
俺は右手の黒い紋様を見つめ、不敵に笑った。
魔王と勇者。
相容れないはずの二人が手を取り合い、神を堕としたその先に続く、新しい世界の夜明け。
俺たちの戦いは、今、本当の意味で始まったばかりなのだから。
ついに完結です、ここまで読んでくださり、ありがとうございました!!
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