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勇者の陰に英雄あり ~手柄をすべて譲った俺は、悪神の加護を手に理不尽な世界を叩き潰す~  作者: 日向ぼっこ
第五章:罪人たちの凱歌

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057.裏切りの聖騎士団

 ロキが去った翌日、俺たちはシトラス王国の王都ガイアへと続く難所「嘆きの峠」に差し掛かっていた。

切り立った断崖の間に、不自然なほどの静寂が満ちている。


「……カイル。 来るぞ」


「ああ、わかっている」


 俺の警告に、カイルは静かに頷き聖剣の柄に手をかけた。

崖の上から、白銀の鎧を纏った一団が音もなく姿を現す。

かつてカイルと共に魔物を討ち、数多の戦場を潜り抜けてきたシトラス王国最強の精鋭

――聖騎士団だ。


 その中央、団長のアルベルトが、悲痛な面持ちでカイルを見下ろしていた。


「カイル様……。

 なぜ、なぜ魔王などと手を取り合ったのですか。

 貴方は我らの、そしてこの国の希望であったはずだ」


「アルベルト……。

 君たちに剣を向けることになるとは思わなかったよ」


 カイルの声は穏やかだったが、その瞳には深い決意が宿っている。


「王宮は貴方を『魔王に魅入られた哀れな犠牲者』と発表しています。

 ……我々の任務は、貴方を連れ戻すこと。

 たとえ、その手足を切り落としてでも」


「……それが、君たちが守る『正義』のやり方か」


 アルベルトは答える代わりに、腰の長剣を抜いた。

それと同時に、騎士団の魔導師たちが一斉に呪文を唱え始める。

彼らが展開したのは、捕縛のための魔法陣ではなかった。

 

「――聖遺物『神のかご』、発動!」


 空から降り注いだのは、黄金の鎖を編み込んだ巨大な光の網。

それは「勇者」の力を抑制し、強制的に無力化するために開発された、対勇者用の決戦兵器だった。


「ぐっ……、あぁぁぁッ!!」


 光の鎖がカイルの身体を締め上げる。

かつてのカイルなら、その「聖なる輝き」に抗う術はなかった。

なぜなら彼の力は、神と民衆の願い

――つまり「聖なる側」から与えられたものだったからだ。


「無駄ですよ、カイル様。

 それは貴方の『太陽のあざ』を封じるための……。

 ……なっ、何だと!?」


 アルベルトの目が見開かれる。

黄金の鎖が触れたカイルの左手から、どす黒い魔力の波動が噴き出したのだ。


 バチンッ! と凄まじい音を立てて、光の鎖が漆黒の衝撃によって弾け飛んだ。

カイルの左手に宿る「大罪人の烙印」が、外側からの干渉を拒絶し、神の檻を内側から強引に食い破ったのだ。


「悪いが、アルベルト……。

 今の僕には、その『聖なる光』はもう届かないんだ」


 カイルの左手から溢れる闇が、周囲の空気を重く沈ませる。


「騎士団のみんな!

 下がれ、こいつは……

 この男はもう、我々の知るカイル様ではない!

 本当に、魔王へと堕ちたのだ!!」


 アルベルトの号令と共に、騎士たちが一斉に襲いかかる。

 

「ガルシア、手を出さないでくれ。

 ……彼らは僕が相手をする」


「……わかった。 殺すなよ」


「……努力する」


 カイルは黒く濁った聖剣を一閃させた。

かつての部下たちの剣を、殺さぬように、だが容赦なく叩き折っていく。

その動きは、勇者として飾られていた時よりも遥かに自由で、野性的だった。


 絶望に染まるアルベルトの叫びが峠に響く。

かつての英雄は、かつての仲間の目には、正真正銘の「化け物」として映っていた。


「さようなら、アルベルト。

 ……僕はもう、君たちの望む『救世主』には戻れない」


 カイルが最後の一人を峰打ちで沈めた時、峠を抜ける風は、冬のように冷たく吹き荒れていた。



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