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勇者の陰に英雄あり ~手柄をすべて譲った俺は、悪神の加護を手に理不尽な世界を叩き潰す~  作者: 日向ぼっこ
第三章:理想郷の胎動と魔王の戴冠

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034.裏の法とレオンの真意

 氷のドームが守る「聖域」は、日々その規模を拡大していた。

行き場を失った難民たちの数は千人に迫り、地下区画はもはや単なる避難所ではなく、独自の活気を帯びたひとつの「街」へと変貌しつつある。

だが、それは「聖域」が隠し通せる限界を超えつつあることも意味していた。


 いつものように地上へと昇り、古びた時計店の扉を開ける。

奥の革椅子に深々と腰掛けたレオンは、いつも通りの不敵な笑みを浮かべていたが、その瞳の奥には冷徹な計算が光っていた。


「ようこそ、我が最良の投資対象。

 ……実はあまり歓迎できない知らせがある。

 今日の地下も、随分と賑やかだそうだね」


 俺はフードを脱ぐこともなく、低い声で応じる。


「……お前の耳には、今更な話だろう」


「私個人としてはね。

 だが、残念ながらこの街は私一人の持ち物ではない。

 廃棄区画から立ち上る魔力の反応、不自然な物資の動き……

 七賢議会の耳目じもくたちが、本格的に君の尻尾を掴みかけている。

 近いうちに『大規模な再清掃』

 ――つまり、軍を動かした焦土作戦の提案が議会に上がるだろう」


 レオンは指先で銀の懐中時計を弄び、カチリと音を立てて蓋を閉めた。


「とぼけ合う時間は終わった。

 君が氷の下で『ゴミ』たちに畑を耕させ、共同体を作っている事実は、もはや七賢議会にとって看過できない『不祥事』だ。

 今この瞬間、私が沈黙のボタンを押すのをやめれば、君の首に懸かる懸賞金は十倍にも百倍にも跳ね上がり、この街の戦力すべてが地下に注ぎ込まれることになる」


 レオンの言葉は、これまでの黙認を前提とした「遊び」ではない。

確実に首筋を撫でる刃のような脅迫だった。

俺は右手に魔力を集束させ、周囲の空気がパキパキと凍りつく音が響く。

だが、レオンは揺るがない。


「怖いねえ。

 だが、安心したまえ。

 私はまだ、議会を黙らせるだけの『理由』を探している最中だ。

 ……これだけの致命的な不祥事を見逃してやるからには、連中の疑念を吹き飛ばすほどの、圧倒的な対価を払ってもらう必要がある」


 レオンが机に放り出したのは、これまでの暗殺リストとは質の異なる一冊の帳簿だった。


「今回の依頼は、クロス共和国が管理する『特級収容施設』からの、特定人物の連れ出し…… あるいは、処分だ」


 俺がその帳簿に目を通すと、そこには凄惨な記録が綴られていた。

共和国が裏で進めていた、不法な魔導兵器開発実験の「検体」となった人々の名前。

その多くは、地下区画に逃げ込んできた住人たちの、生き別れた親兄弟や友人だった。


「議会はこの実験の証拠を隠滅したがっている。

 生き証人を一人残らず消せば、君への疑惑も私が握り潰してやれる。

 ……どうかな?

 君が匿っている連中のかつての仲間を君が殺すことで、今の連中の命を繋ぐ。

 実に合理的で、クロスらしい契約だと思わないか?」


 吐き気がするような提案だった。

俺が守ろうとしている人々の「過去」を、俺自身の手で踏みにじらせ、それを持って議会への献上品とする。

レオンは、俺がどこまで「非情な王」になれるのか、その覚悟を試しているのだ。


「……レオン。

 お前は、俺をどこまで追い詰める気だ」


「私はね、ガルシア君。

 君に『王』の器があるかどうかを見ているんだ。

 王とは、血の重さに耐えながら、それでもなお百人のために引き金を引ける狂人のことだよ。

 さあ、投資に見合うだけの働きを見せてくれ」


 ◇◇◇


 深夜。

特級収容施設へと侵入した俺の前に立ちはだかったのは、もはや人間としての形を保っていない「検体」たちだった。

魔導回路を身体に埋め込まれ、理性を奪われた彼らは、苦悶の声を上げながら俺へ襲いかかる。


「……すまねえ」


 俺の放った「どす黒い氷」が、施設内を静寂で満たしていく。

彼らを救い出す術は、今の俺にはない。

無理に連れ出せば議会の追及は決定的になり、地下の千人が死ぬ。

殺さなければ、薬物や食料の供給が断たれ、やはり地下は死に絶える。


 俺は自分を言い包めるしかなかった。

こうすることによって、人間としての形を保っていない彼らを、永い苦しみから「解放」してあげているんだと。


 ――ガキィィィン!!


 最後の一人を氷漬けにしたとき、俺の目から一筋の涙がこぼれ、それは即座に凍って床に落ちた。

自分が守っているのは、本当に「正義」なのか。

それとも、ただノエルという光を失いたくないがために、世界中の汚れをその背に引き受けているだけなのか。


 仕事を終え、地下へ戻った俺を、ノエルがいつものように迎える。


「おかえりなさい、ガルシアさん。

 ……寒く、なかったですか?」


 ノエルは俺の手を取り、自分の頬に当てて温める。

彼女の温もりを感じるたびに、俺は自分が殺した者たちの冷たさを思い出し、胸が裂けるような想いになる。

 だが、ノエルは何も聞かない。

俺の服に染み付いた血の匂いも、纏う絶望の気配も、すべてを受け入れるように微笑むだけだった。


「……ああ。

 ノエルがいるから、大丈夫だ」


 自分に嘘を吐き、俺は彼女を強く抱きしめた。

 地下の住人たちから向けられる感謝の視線が、今の俺には何よりも痛かった。


 ◇◇◇


 一方、クロスの外では冷徹な風が吹き荒れていた。

レオンは時計店で、ガルシアが残した任務完了の報を受け、満足げにワインを一口啜った。


「投資は順調だ。

 彼は着実に、自らの手を汚すことに慣れてきている。

 ……さあ、勇者カイル君をどう動かそうか。

 親友が『虐殺者』に成り果てたと知ったとき、彼はどんな顔をするだろうね」


 レオンは闇に向かって独り言をつぶやく。

その視線の先には、シトラス王国からクロス共和国へ向けて送られた一通の軍事書状があった。


 時を同じくして、シトラス王国の王城では、勇者カイルが沈黙の中にいた。

彼は窓の外を見つめ、クロスの方向から漂う微かな、そして不吉な魔力の揺らぎを感じ取っていた。

その左手の甲の「太陽のあざ」は、かつての温かな黄金色ではなく、今や警告を発するように鈍く拍動している。


「ガルシア…… 君は、何を背負っているんだ」


 カイルの呟きに答える者はいない。

勇者の傍らには、彼の意志を無視して進む王国の軍略と、世界が彼に期待する「正義」の重圧だけが渦巻いていた。



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