75 すべてはここから始まった①
「ではこれより、二年夏の実践演習を始める!」
ウォン先生の低い声が、辺りに響き渡った。
生徒達の間に流れる空気が、キュッと引き締まったのを肌で感じる。みんな、緊張しているのだ。
それも当たり前。ここにいる生徒のほとんどは、魔物との実践経験などない。全員が、どこかの貴族のお坊ちゃまお嬢さま方だ。
けれどみんな、魔物がどういったものなのかは知っている。そして、見たことのないソレを怖がっている。だから黙って、目の前の門を睨みつけていた。
私達の目の前には、大きくて頑丈な鉄製の門が聳え立っている。さらにその両脇には鉄の壁がずっと向こうまで伸びている。
この門と壁の中が、フルーツェア魔法学園の実践演習場だ。年に一度、夏休み前に二年生を対象に行われる行事、実践演習でのみ使用される。面積は学園の校舎やグラウンド、体育館などの敷地を全部足してもまだまだ足りない。地図を見たときは、山がまるまる一個、演習場になっているのかと思ったほどだ。授業で使う魔法練習場とは比べ物にならない広さ。
鉄壁の中には、森が広がっているのだという。なるべく実践形式に近づけるため、環境も自然のものにできるだけ近づけたのだとか。
そして私達は、救急セットや携帯食料、緊急連絡用の花火などが入ったポーチを一人ひとつ、腰に巻き付けている。
「ルールは簡単。魔物を見つけて、倒せ。どんな魔法を使ってもいい。攻撃魔法、防御魔法、生活魔法。学園で教えていない魔法でも構わない。ルール上、剣や拳を使うことも可能だが、推奨はしないな。ここは『フルーツェア魔法学園』だ。なるべく魔法を使ってほしい。あと単純に、距離を縮めると危ない」
剣や拳で魔物と戦うなんて、そんな危険な考えに至る人いるはずが……いや、一人だけ知っている。隣にいる。ヘレンドさまはやる。というか実際、バートネット領では剣で魔物を斬ってたし。
「倒した魔物はランク・数ともにこちらで記録するからね〜。あら、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。演習場内には至る所に教師や国家魔法士が隠れて待機しているし、魔物もこれでもかというほど弱らせてあるわ。皆でも十分に倒せるはずよ。ただし、だからといって油断はしないこと。私達は怪我の治療はできないから、怪我をした時は自分で応急手当てをしたあと、一旦演習場を出てもらうことになるわ」
サリヴィア先生がにこやかに言う。しかめっ面の生徒達との温度差がすごい。
「お前ら、救急セットは持ったか? 花火とマッチも入っているな? 腰のポーチ、落とすなよ。毎年何人か失くすんだが、探すのが大変なんだ、それ。なんせこの広さだからな」
「それじゃあ皆、準備はいいかしら? 今が午前十時だから、制限時間は五時間後の午後三時まで。何かあったら迷わず花火を打ち上げるか、近くに大人がいれば頼ること。いいわね?」
生徒達が無言で頷く。みんな、緊張マックスだ。
「それでは、魔法実践演習、スターーートッ!」
ウォン先生の宣言が、高らかに響き渡る。
それと同時に、目の前の鉄の扉が、ズズズッと重そうな音を立てて開いた。
***
――――この日が全ての始まりだった。長い長い記憶の夢と、終わらせられなかった戦いの――――
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