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74 切り札③


 私は殿下達の方へと向き直る。


 背筋を伸ばして、できるだけ堂々と見えるように。

 どんな魔法でも、それは魔法。誰かを笑顔にするための、そして目の前の人を守るための、立派なツール。


 非常識な魔法だと、自分でも思う。自分の身体で行使するのではなく、別の物を介して発動させる魔法なんて。

 でもきっと、『魔力移動』ができれば戦闘力が格段に上がるはずだ。


「今から皆さまにお教えするのは、『物に魔力を込める魔法』、題して『魔力移動』です。私達の体内を巡っている魔素を魔力と呼ぶ、というのは皆さまご存知だと思いますが、この魔法ではその魔力を、金属に注ぎます。ちなみに、金属以外でも試してみましたがうまくいききませんでした」

「金属だけは魔力が通るということか。不思議だな」

「それで、その魔力を込めた金属をどうするのかな?」


 私はポケットから釘を取り出し、手のひらに載せた。


「そのモノから魔法を発動させます。見ていただければわかると思うので、ここで実演しますね。……『魔力移動』」


 私が静かに呟くと、釘が淡く光り始めた。その光はだんだんと強まっていく。

 ある程度魔力が溜まったかな、というところで私は『魔力移動』を止め、また唱えた。


「……『放出』」


 釘を見つめる視線に力を込める。すると、釘からさらに強い光が溢れ出した。みんなが感嘆の息を漏らす。

 しばらくすると、その光は釘を中心に小さな渦を巻きながら、次第に弱まっていき、ふっと消えた。


「つまり、俺がその魔法を使えるようになれば、剣に火魔法を込められるってことだな。剣の刃が触れたところが燃える、といった感じか?」

「はい。ただし、魔力を込めたうえで『点火』や『業火』を使う必要がありますが。さらに上達すれば、剣を振って『火球』や『水球』を飛ばすこともできるようになります。戦闘にはもってこいの魔法です」

「これ、国にはしばらく秘密にしておいた方がいいな……。世界がひっくり返ってしまう。技術やアリア嬢を巡って戦争が起きてもおかしくないね」

「そうしていただけると助かります。私と侍女が使えたので、ある程度魔法の技術がある人なら使えるということはわかっていますし。悪用されると困ります」

「うん。父上に話すのも、しかるべき時が来てからにするよ。それまでは僕達だけの秘密だよ、みんな。父上が知ってしまえば、魔法だけでなくアリア嬢自身も『国家機密』まっしぐらだからね」


 殿下の言葉に、一同が頷く。


「じゃあ、早速その秘密を共有しましょう! これでみんな、共犯よ!」


 カトリーアがパンッと手を叩いて言った。その唇から飛び出したワードとは裏腹に、楽しそうにニコニコしている。


「では、『魔力移動』の詳しい使い方をお教えしますね。少し難しいですが、コツを掴めばすぐですよ」


 私はそう前置きして、話し始めた。


 それから何時間も、私達は魔法の練習をした。

 次の日も、また次の日も。

 『魔力移動』だけではない。他の魔法――攻撃魔法や防御魔法に分類される、戦闘用の魔法もたくさん練習した。

 時には理論について議論しあい、時には私がカトリーアにお手本を見せて。

 そうして時は過ぎていく。


 なぜ戦闘魔法ばかりなのか、と誰かに訊かれても、本当の答えを言うことはできない。私とカトリーアは未来を知っている。実戦演習で、かつてないほど強力な魔物と戦うことになるなんて、他人に言えるはずもない。ましてや、それがこの世界の命運を左右する戦いになるだなんて。殿下やユーリさま、ヘレンドさまにも言えない、私達だけの秘密だ。

 だから、尋ねられればこう答えるしかない。「実践演習に向けた練習です」と。あながち間違ってはいない。けれど、殿下達は練習などせずとも十分優秀だ。実践演習をクリアすることなど、造作もないことだろう。


 だから、そんな彼らが、私達の一見お遊びのような魔法練習に付き合ってくれているのは、ひとえに彼らの優しさゆえなのだ。

 彼らも暇じゃない。殿下は寮に帰ってやらなければならない公務があるだろう。ユーリさまは勉強が、ヘレンドさまは鍛錬が、それぞれ彼らを待っている。

 けれど、『魔力移動』を教えるという、一歩間違えれば国を裏切っているとも受け取れるようなことに、友人だからという理由だけで付き合ってくれている。それがどんなにありがたいことか。


 きっと、魔物との決戦は、私一人の力では勝てない。原作でもそうだった。恋人である王子をはじめ、周りの人達の力を借りて、女神様の力も借りて、ヒロインはやっと勝利を収めることができた。

 私にとって、殿下達は庇護対象。

 けれど、魔物を前にしたとき、彼らはきっと、一緒に戦うと言い出すだろう。私一人が傷つくのを許さない人達なのだ。一緒に背負うと言ってくれる、優しい人達なのだ。


 だから私は、彼らをできるだけ強くする。私が倒れても、自分の身を自分で守れるように。魔物に負けないように。

 彼らの存在は、いわば切り札だ。もし私が力を使えない状況に陥っても、彼らならなんとかしてくれる。私は彼らを信頼している。


 だから。



 ――どうか、誰も傷つかないで。







 そして、一か月はあっという間に過ぎていった。


***


*魔法の名称は字面重視で決めています。単語の意味はあまり関係ないです。特に『渦中』とか。



お読みいただきありがとうございます!

毎週月水金18:00更新です!


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