17 花祭り①
五月の初めの、ある晴れた日の昼休み。ぽかぽかの春の陽気を浴びて窓際で日向ぼっこをしていた私に、カトリーアさまは瞳をキラキラさせて言った。
「アリアさま! 今月の二十日はお暇ですか?」
うとうとしていた意識が、その声ではっと現実に引き戻される。
「二十日……。空いていたと思いますが」
「なら、一緒に出かけましょう!」
「何かあるんですか?」
「アリアさま。二十日よ。五月の二十日!」
まだ回りきらない頭で数秒考えた後、あることに思い当たる。
「花祭りですか?」
「ええ! せっかくだから、アリアさまと行きたいと思って」
「いいねそれ。僕たちも混ぜてよ」
突然話に割り込んできたのは、ラギリス殿下だ。見ると、その隣にはユーリさまとヘレンドさまもいる。
「どうしてですの? 私はアリアさまと行きたいと言ったはずだけれど」
「だって僕もカティと行きたいんだもん」
「行きたいんだもん、じゃありません! そんな可愛く言われても……」
「まあまあ、いいじゃないですか。皆で行くのも楽しいと思いますし、私は賛成ですよ」
周りから宥めるように諭され、カトリーアさまは「うぐぅ……」と令嬢らしからぬ声で唸る。
そしてはあ、と大げさな溜息をつくと、渋々承諾した。
「わかったわ。そこまで言うなら皆で行きましょう。でも、私とアリアさまのお話は邪魔しないでくださいね」
「わかった。カティ大好き」
にこにこ笑顔の殿下に頭をぽんぽんされ、カトリーアさまは不服そうな顔をしつつも頬を赤らめる。
その顔を見た殿下がカトリーアさまにハグをして、抱きつかれた彼女が「ちょ、ラギさま?!」と焦ったような照れているような声をあげた。
なんか二人の周りだけ、異様に甘い雰囲気が漂っているんですが。世界がピンクに見える気さえする。
と、少し離れていたところに立って見守っていたヘレンドさまがこちらに近づいてくるのに気付く。
少々呆れ顔の彼は私の前まで来ると、申し訳なさそうな顔でへらっと笑って言った。
「ごめんね〜アリア嬢、せっかくカティと女子二人だったのに、ラギが邪魔しちゃったね」
「いえ、全然。人数が多い方が賑やかで楽しいですし」
「優しいなあ。ラギ、いつもカティにべったりだからな。一緒にいる、邪魔しないで、可愛い、……ああなったら意地でも離れないんだよね。こうなっちゃったのは仕方ないし、当日はなるべく二人の邪魔はさせないようにするから」
みんなの憧れ王子様のクズな……間違えた、ちょっと意外な面を、そんなに堂々と言ってしまっていいのでしょうか。
「本当に、うちの王子がすみません」
ユーリさままで申し訳なさそうに謝る。カトリーアさまにべたべたなあの殿下のお世話をする、二人の苦労が目に浮かぶようだ。
「大丈夫ですよ。いつもお疲れ様です」
苦笑いで私が言うと、彼らも苦笑いを返してきた。
すぐ隣ではピンクの甘々な空気が、こちらでは申し訳なく苦笑いするなんともいえない空気が漂っている。温度差がすごい。
そんなことを考えていると、殿下がふと思い出したように訊ねてきた。
「そういえば、花祭りでクローバーの花冠を作って願い事をする地方があるって知ってた?僕もこの間知ったんだけど」
「それなら聞いたことがある。確か、昔の慣習で、もうごく一部の地域だけにしか残っていなかったと」
流石ユーリさま。博識だ。
花冠に願い事をする慣習は、知らない人の方が多い。花を贈り合う部分は残っていても、わざわざ冠を作ってそれに願い事をするなんてこと、今では知っていてもやる人の方が少ないだろう。特に王都などの大きな街では、そもそもクローバーが生えている場所も少ない。
「それなら、私の家の領地はその文化残ってますよ。毎年、メイド達とお庭のクローバーで花冠を作ってました」
「本当か?!」
「はい。よろしければ、街に出たついでにうちに寄って行きますか? お庭にクローバーがあるんです。馬車ならお出しできるので、ご心配はいりませんよ」
「まあ、それならお邪魔してもいいかしら? 花冠に願い事なんて、ロマンチックだわ。ぜひやってみたい!」
「そうだね。それなら僕もお邪魔しようかな」
「俺も、花冠の作り方がわからないから、教えてくれるなら」
「僕も参加させていただきたいです」
「では、馬車を手配しておきますね」
「頼んだ」
今はもうほとんど作られていない、花冠。私の大好きなその文化を広められるのなら、手間も時間も喜んでかける。
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次話は今日の18時に投稿します!
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