114 ふたたびの、再会①
翌朝の朝食も、セシルさまの提案から始まった。
「ねえ、クローバーを見に行かない? 近くに、すっごく綺麗な群生地があるんだよ」
「わあ、行きたいです!」
昨夜の女子会で、カトリーアさまやセシルさまとさらに仲良くなれた気がする。私達の間には、以前よりも明らかに気安い雰囲気が漂っている。
「アリア嬢は花冠を作るのが上手かったよな。俺が以前ひとりで作った時は上手くできなかったから、作り方のコツを教えてほしい」
「あれ、どうして私が花冠作りが得意だとご存知なのですか? 私、言ったことありましたっけ」
ユーリさまの言葉に、私は首を傾げる。
彼らとは、仲良くなってまだ日が浅い。花祭りでの花冠は実家の領地に残る風習で、領主の娘である私も幼い頃から作ってきたからもちろん得意ではあるのだが、彼らと家や領地のことまで話した覚えはない。
「ああ、いや……ラティーア領では、花祭りの時期にクローバーで花冠を作るのだと聞いたことがあるんだ。それで、アリア嬢もきっと上手だろう、と」
「よくご存知ですね。あまり有名な話ではないと思っていたのですが」
「ラティーア領出身の友人から聞いたんだ。彼女の作る花冠は見事だった」
「女神様の象徴でもあるクローバーで冠を作ってお願い事をするなんて、ロマンチックで素敵よね。私も、久しぶりに作りたいわ。というかユーリさま、もしかしてひとりで練習していたの?」
カトリーアさまがにやにやとからかうような笑みで尋ねると、ユーリさまはなぜか慌てた様子で首を振った。
「いや、ただ、いつかラティーア領の花祭りにも参加してみたいと思っているだけで、深い意味は……!」
「ふふふ、私はひとりでも練習していたのか聞いただけで、『深い意味』があるかなんて聞いてないわよ。それにしても、ふうん、ラティーア領の花祭り、ねえ……一緒に行きたい人でもいるのかしら」
「っカトリーア!」
意地悪く畳み掛けるカトリーアさまに、顔を赤らめたユーリさまが叫ぶ。それから、急に失速した紙飛行機のように、俯いて、悲しげに呟いた。
「それに、彼女は……」
ユーリさまがちらりと一瞬だけ向けてきた視線に、私は首を傾げる。
「カティ、そのくらいにしておいてあげて」
殿下からの制止も入り、カトリーアさまもしゅんと俯いて「はい……」と言った。その声は、泣きそうに微かに震えている。
「ごめんなさい、ユーリさま。考えなしに色々聞きすぎたわ」
「いや、大丈夫だ。今更何を言っても、もう戻らない。なら、新しく築いていく方が早い」
「そうだね。カティも、そう決めたでしょ」
「……ええ、そうだったわ。変ね、今更懐かしむなんて」
カトリーアさまは、まだ少し淋しそうな、泣きそうな顔で、それでも微笑んだ。
そこに、今まで黙って会話を聞いていたヘレンドさまが声をかける。
「おーい、もう話は終わったか? あんまりしんみりした話をされるとせっかくの朝食なのに泣きたくなっちまうからやめてくれよ。あと、恋バナも。俺が参加できない」
「ならお兄様も恋愛したらいいじゃん。どうせ、学園にはかわいい人も綺麗な人もいっぱいいるんでしょ」
「だが、恋というのは、落ちようと思ってもそう簡単に落ちられるものでもないんだよ」
「じゃあ諦めるしかないね。お兄様にはまだ恋愛は早かったってことだ」
「言うじゃないか、セシル」
***
クローバーの群生地も、女神の山の中にあった。
列になって、てくてくとゆるやかな登山道を歩くこと二十分ほど。だんだん周囲の木が少なくなっていったと思ったら、小さな丘を登ったところで、突然目の前に現れた。
「ここのクローバーは、年中花を咲かせてるの」
セシルさまの言う通り、足元に広がるクローバー畑は、白い丸い花がぽこぽこと咲いている。
クローバーの花期は通常、春。花祭りが行われる五月はその真っ只中だ。
しかし、今は真夏だというのに、花が咲いていた。それも、一輪や二輪ではない。あちこちで、白い塊を作っている。
白と緑の絨毯が、辺り一帯に広がっていた。
「わあ……! やっぱり女神様のお力が関係してたりするのでしょうか」
「そうとしか考えられないな」
「これだけ咲いていたら、ボリュームのある冠が作れるわね」
「早速作ろ!」
セシルさまが、真っ先に絨毯の中央へ飛び込んだ。その後ろを、日傘を差したヘレンドさまが追いかける。
私とカトリーアさまも、二人の背中を追いかけて、絨毯の真ん中でしゃがみ込む。
冠を作るための花や葉をプチプチとちぎりながら、ふと思った。
「そういえば、この世界は四葉ばっかりだなあ」
幼い頃、領地に生えていたクローバーの葉っぱも四枚だった。この世界のクローバーは、三つ葉ではなく四葉なのだ。
前世では、『四葉のクローバーを見つけたら幸せになれる』というジンクスがあった。だから、クローバーが生えているのを見つけたら、よく足を止めてしゃがんで探したものだ。
「みんな幸せ。良いことだね」
誰に聞かせるでもなく独りごちた。
――――無意識にこぼれた、ただの呟きだった。だから、誰かが聞いているなんて思いもしなかった。
もちろん、まさかその人が、冠を作る手を止めてこちらを凝視しているなんてことにも、気がつかなかったのだ。




