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異世界でも凡骨は希う  作者: 日暮キルハ


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凡骨は運がいい

 説教臭いセリフと共に飛来した漆黒の火球は獲物を前にはしゃいでいたミノタウロスを呑み込むと一切の抵抗すら許さずにその全身を燃やし尽くした。

 塵すら残すことなくこの世から消え去った圧倒的な脅威。その最期に微塵の関心も見せずにこの状況を作り上げた件の教師は言葉を続ける。


「ま、理想を言えばもっとスマートであればなおのことよかったけどね。それ、相当痛いでしょ」


「……俺は後回しでも死にません。それより二人の方がたぶん重傷です」


 言いながらバキバキに折れた右足に回復スキルをかける先生。

 ありがたいが優先順位って意味だとどう考えたって俺は後回しだ。


「もちろん二人も治すけど大丈夫だよ。二人とも、見た目ほどは酷い怪我じゃない」


「……そうですか。それは良かった」


 右足から全身に移った光の膜が小さな傷まで綺麗に消し去っていく。

 どうやら二人も大事はないらしいことに安堵の溜め息をこぼすと頭にずしりと何かが載った。


「君が頑張ったおかげだよ。よくやった」


 見れば頭の上で手がお世辞にも丁寧とは言えない雑な手つきでくしゃくしゃと頭を撫でているところだった。褒められて悪い気はしないが、それはそれとして、もうそういう年でもない。恥ずかしいので小さな子供のような扱いは勘弁してほしい。


「……俺は、別に大したことは何もできてないです。……それより、先生は何をしてたんですか?」


 いつまでも撫で続ける手から逃げるように体ごと頭をずらす。

 そうして内心を隠すように言葉を紡げば、こちらのそんな意図などお見通しだとでも言うように小さく笑みを浮かべて先生はニトロさんとドールさんのもとへ足を進める。

 そして、二人の傷の治療をしながら少しの間をあけて冗談交じりに言葉を返した。


「大人は色々と考えることがあって忙しいんだよ」


「……教える気はないってことですか? いつものことですけど、秘密主義が過ぎますよ」


「別にそういうつもりはないんだけどね。話して聞かせるほど面白いことをしているわけでもないし、不確定要素を増やしたくないからさ。ま、皆にとって都合の悪いことはしてないから許してよ」


 人のやることにあれこれと口出しをするつもりはないし、先生が何やらこそこそと動き回っているのだって今に始まった話ではない。

 文句を言うつもりも無理に聞き出そうとも思わないけれど、もし先生が最初から居てくれたらきっと色んなことが違う結果になっていっただろうとは考えてしまう。


「別にそこは最初から疑ってないです。……じゃあ、質問を変えますけどここにはなぜ?」


「少し時間ができたからギルドに寄ってみたら白鷺君たちが迷宮(ダンジョン)に行ったって聞いてね。心配になったから来てみることにしたんだ。結果的に大正解だったね。まさかミノタウロスがいるなんて」


「…………そうですか。……それは、ツイてましたね」


「運がよかっただけでこうはならないよ。君が頑張った結果がこの結末に繋がったんだ」


 運がよかった。

 そう表現する以外にこの状況を説明する言葉がない。

 

 たまたま先生がギルドに立ち寄って、たまたまそのタイミングで緊急依頼が発生していて、たまたま先生がその気になって様子を見に来て、たまたまニトロさんもドールさんも俺もまだ殺されていなかった。

 一生分の悪運を使ったと言われてもおつりが来るレベルの豪運だ。


 …………本当に?


 紅帝君ならともかく、俺がそんなに運命的に運が良いことなんて本当にあるだろうか。

 正直、そんなことがあるわけがないと思ってしまっている。

 何かしらの思惑に載せられてしまった結果と言われた方が運が良かったと言われるよりもしっくりくる。


 幸か不幸か、しっくりくるだけでそこには何の根拠も動機もありはしないのだけど。


「…………」


「……何か考えごとかい?」


「……いえ。……考えても仕方のないことなのでもういいです」


 どういうわけか先生は俺が考え込んでいるのを見るのが好きっぽいので言葉を返すと残念そうな顔をしていた。

 何が先生にそうさせるのかは本当に意味が分からないけれど無駄なことに時間を使う趣味はない。


 そう。仕方のないことだ。結論なんて出るはずがない。

 憶測に憶測を重ねたところで得られるものなんてあるはずもない。


 とはいえ、じゃあ今の俺に他に何かできることがあるか。


「そういえば、他のパーティも一緒に来てたんだよね? 全滅したの?」


「…………あぁ。…………はい、全員ミノタウロスに殺されました」

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