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異世界でも凡骨は希う  作者: 日暮キルハ


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凡骨は詰め切れない

 俺は強い。

 その辺のカス共とは見てるビジョンが違うし目標に見合った実力だって持ってる。

 剣で俺に勝てる奴なんて少なくとも同年代では一人もいねえ。

 今の時点でこれだけやれるんだからあと数年もしたら白金級に昇格だって夢じゃねえ。

 祝福(ギフト)を持って生まれずに白金級にまで昇りつめた奴なんて歴代でも一人もいねえ。


 俺は、その最初に一人になる。


 だから、こんなところで躓いてる場合じゃねえんだ。

 こんな愚図共に足引っ張られてる場合じゃねえんだ。


 あのおばさんをヤるのを諦めるのは残念だが仕方ねえ。

 さっさと殺してここから脱出しねえと。

 今はまだ、あの化け物には到底勝てねえんだから。いつかまた殺せるようになってから殺しに来ればいい。


「だからよぉ、さっさと死んでくれよ。なぁ」


 血まみれのおっさんにそう呼びかける。

 右足の腱を油断して切られた。だからなんだ。

 その程度でいつまでも銅級で燻ってる雑魚が俺に勝てるとでも思ってんのか。


「……まだ……私は死んでいないぞ……」


 何度切り刻んでもその度におばさんが治しやがる。

 足をやられてるせいで瞬間的な速度が足りなくてあと一歩殺しきれねえ。

 だったら回復役から殺してやろうとしたらそれはそれでおっさんが間に入りやがるせいでうまくいかねえ。

 しかも、何がムカつくってあのおっさん、どう考えたって俺に勝てる訳ねえのに致命傷だけはギリギリ紙一重で避けてきやがる。


 雑魚共の分際で、俺の邪魔してんじゃねえぞクソが。


「……あーもう、うざってぇ……!」


 ここに居ねえもう一人の雑魚が言うにはミノタウロスがこの近くに来てやがるらしい。

 だから、あんまり派手なスキルは使わねえ方がいい。

 もしかしたらくだらねえはったりかもしれねえが、万が一本当だった場合、かなりだるいことになる。


 だが、このままじゃこいつらを殺しきれねえ。

 このままずるずる時間をかけちまったらそれはそれでミノタウロスがこっちに来ちまうかもしれねえ。

 ……そろそろ潮時だ。


「さっさとてめえら殺して入り口まで行っちまえば問題ねえよなぁ!!」


 今までこんな雑魚を殺せなかったのはミノタウロスに嗅ぎつけられるのがだるかったから。

 それに目を瞑っちまえばこんな雑魚いつでも殺せる。


「──ガッ!?!?」


 無数の飛翔する斬撃による圧倒的な物量の飽和攻撃。

 おっさんの小細工なんざこれの前には何の意味もなさねえ。

 それを証明するようにおっさんの全身からどう見たって致死量の血が噴き出しそのまま仰向けにぶっ倒れる。

 だが、これでは終わらねえ。回復役のおばさんを殺らねえとあんな傷でも塞いじまう。余計な手間を増やされる前にさっさと殺しちまおう。おばさん一人なら殺すのに剣すら必要ない。


「じゃあな、雑魚共!!」


 おっさんに駆け寄ろうとするおばさん。

 それに向かって斬撃を飛ばすために剣を構える。


 そこで気づいた。

 背後から忍び寄って来ていた小さな殺意に。


「──っ」


 反射的に半身を捻る。

 それと同時につい一瞬前まで俺の心臓があったであろう空間をナイフが突き刺した。


「……あーあ、なんで気づくんですか。普通当たりますよね、今の」


 もし気づかなかったら。最悪の想像に冷や汗が頬を伝う。

 声に視線を向ければ、そこには未だに消えない殺意を宿した黒い瞳で油断なく俺を見る取るに足らないはずの雑魚の姿があった。


◇◆◇◆◇


 甘く見ていたつもりはなかった。

 相手は圧倒的な格上で、正面切っての戦闘においてこちらの勝ち筋は限りなくゼロに近いものだと理解していたつもりだった。

 だから、殺すために利用できるものはすべて利用して、ほんの1%でもこちらの勝率を上げるためにできることは思いつく限り全てをこなしたつもりだ。


 しかし、結果を踏まえて考えるのであればそれでも足りなかった、考えが甘かったということになるだろう。


 いやほんと、なんであの不意打ちを躱せるのかが分からない。

 念には念を入れて、完全に意識がニトロさんとドールさんに向いているのを確認したうえで、さらにハイドで可能な限り気配を消したのにこのザマだ。

 素のスペックが違いすぎて嫌になる。


「……てめぇ、なんでここに……。コドエナはどうした……」


 完全に手がないわけではない。

 というか手がないならできるかどうかはさておいて愚痴なんて言ってないでさっさとニトロさん抱えて逃げてる。

 そうしないのは、まだそれよりはうまくいく算段のある策が残っているから。

 できることならあの奇襲で終わってほしかったのだけど、贅沢言っても仕方ない。


 状況把握に努めていると左足一本で跳躍し俺との距離をあけたセマカがそう問いかけた。

 たしかに当然の疑問だ。

 俺よりも圧倒的に強いコドエナがまだ戻ってきていないのに、俺だけが戻ってきているというのはセマカには理解ができない話だろう。


 策はある。

 必要なものも分かっている。

 逆算してすべきことも分かっている。


 だから、俺はできる限り自然な笑みを意識して答えた。


「……さあ? 今頃ゴブリンの相手に忙しいんじゃないですか?」

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