38話 『傷だらけの三人組』
狩場へと向かっている最中、昨日とはうって変わってモンスターに襲われることもなく、暇を持て余した私たちは各々チャットを見始めてしまった。
話題も尽きたし、なんとなくで見始めたのだが、どうやら焔ちゃんがそこで面白いというか、まさかの私たちに関する事が書かれているのを発見したのだ。
ただ、書かれていると言っても大して注目はされていないみたいだけど。
「いやー、あの酒場で話した研究者の人が書いたんだろうけど、逆にここまで話題にすらなってないと悲しくなっちゃうね」
「えっ? そうかな。私としては注目とかされたくないし、このまま私たちの事なんて話題に上がらない方が良いんだけど……」
「えー!? プレイヤーとして有名になりたいじゃん! あ、でも雫の性格を考えると、そっか。ま、色んな人に騒がれるのもめんどくさいしね」
焔ちゃんはゲーマーとして過去に色んなゲームで注目を浴びてきたらしく、この世界でも有名になりたいそうだけど、私が居る事でその願望を抑え込んでいるのだろう。
ただ、それは有難いことだけど、それで焔ちゃんのストレスが溜まってしまうのは嫌だ。
そう思う以上は私もいい加減引っ込み思案というか、人見知りな性格は直した方が良いかもしれない。
「うーん、でも、今すぐに有名とかはちょっと嫌だけど、焔ちゃんが一緒ならいつか人気者になっても良いよ? なれるかは分からないけどさ……」
「ホントに!? 大丈夫! 任せといてよ! 雫は可愛いし、私が絶対有名人にしてみせるから!」
「うー、焔ちゃんも一緒だからね!?」
ユニークアイテムを持っているだけの私たちがこうして話しているのは滑稽かもしれないけど、どうしてかこの先の未来で私たちはそれなりに有名になっていく気がしてしまうのだ。
それが焔ちゃんの自信満々な言葉を受けたからなのか、或いは私が自意識過剰からなのかもしれないけど……。
「ほ、焔ちゃん! この救援要請って、今向かってる場所じゃない!?」
「えっ? ホントに? ……あちゃー、ホントだ。雫、勿論助けに行くよね?」
「うん。こうして見つけちゃった以上、ここで見逃すわけにはいかないよ」
◇ ◇ ◇
助けて欲しいという情報を受けて、狩場へと急行した私たちが目にした光景は驚愕すべきものだった。
数え切れないほどの数のハーピィの群れが絶えず誰かを襲っているというものだ。
そして、その襲われている人物こそが私たちが何回か話題に出した人たちであり、話してみたかった人物である。
とはいえこの状況で呑気にお話なんて出来るわけもないし、三人の女の子の内、一人は倒れているようで動けていない。
遠目からでも分かるくらいの重傷を受けているみたいだが、回復する暇もないのだろう。
いや、ハーピィたちが回復させないようにジワジワと嬲り殺そうとしているのかもしれない。
「焔ちゃん、斬撃でとりあえずハーピィを退かせられる?」
「うん、退かせたらそのまま私が引き付けるから雫はあの子たちをお願いね」
「分かった、ごめんね。大変な役目をさせて……」
「大丈夫! こっちは任せといてよ!」
ひとまず女の子達を囲っているハーピィたちをどうにかしなければ助ける事すら出来なかった為に、焔ちゃんが注意を引くためも含めて斬撃を数発放つ。
すると、見事にハーピィたちは私たちに気付き、新たな獲物と判断したのか、或いは脅威と判断したのかは定かではないが、攻撃してきた獲物、即ち焔ちゃんを標的と定めて奇声を発しながら動き始めたのだ。
とはいえ、これで殆どのハーピィの注意を引きつけることが出来たのは好都合だろう。
問題は女の子達の容態と焔ちゃんの体力がいつまで持つかだ。
「あの、大丈夫ですか!?」
今まで囲まれていた女の子達に近づいてみれば、三人の内まともに動けそうなのは一人という絶望的な状況が目に入ってしまった。
正直、さっきまでもう一人も戦っていたからまだ大丈夫かと思っていたが、全身傷だらけで、今すぐに倒れてもおかしくない程だ。
「その、私は二人が守ってくれたのであまり怪我してないんですが、冬ちゃんと紅葉ちゃんが大怪我で……」
「分かった。分かったから一旦落ち着いて。今は私の友達がハーピィをなんとかしてくれてるから、その間に回復してあげて。ポーション持ってるよね?」
自分以外が傷だらけであり、かつ助けなんて来るわけもないと思っていたのだろう。
私が声を掛けた瞬間はビクッと怯えていたものの、今は気が動転したかのように泣きながら早口でまくし立て始めた。
しかし、今の状況で何もかもを聞いている余裕なんてなく、私はひとまずこの子を黙らせる事にした。
宥めるより先に彼女にはやるべき事を伝えなきゃいけないのだ。
私の言葉を聞き、黙っている彼女へと優先すべき回復をするように再度伝えるが、変わらず俯いて暗い顔をしているのを見るに、もしかしたらポーションがもう無いのかもしれない。
「あの、桜たちに残ってるポーションがあと紅葉ちゃんの一つだけで、でも、二人ともに使いたくて……」
「それなら、はい。私はまだ沢山あるから、これを使って回復してあげて。回復するまでは私たちが守るからさ」
「あ、ありがとうございます!」
ポーションを幾つか手渡すと、女の子は頭を一度下げて受取り、すぐさま二人へと飲ませ始める。
私はそんな光景を少し見た後に銃を構えてハーピィたちへと視線を向けた。
――この子たちが回復するまで守るために。




