36話 『情報交換』
「うわー、やっぱり人が沢山だ……」
「雫、私から離れないようにね。それと、飲み過ぎないように!」
「う、うん! 分かってるよ!」
いざ酒場に辿り着いてみれば、賑わっているというよりも人がごった返しており、満席に加えて外にまで溢れていた。
まさかここまでチャットの影響で人が集まっているとは思わず、一瞬唖然としてしまったが、意を決して私たちは中へと入っていった。
「ねぇねぇ、君たち二人? 俺たちも丁度二人でさー、どう? 一緒に飲まない?」
「んー、今日は先客が居るのでやめときます。ごめんなさい」
「そっかぁ、こんな可愛い子たちだし仕方ないか。それじゃ!」
お酒を手に持ち、壁際で聞こえてくる会話内容から情報を入手したり、焔ちゃんと楽しく話していたのだが、これだけ人が多い影響なのか私たちへと声を掛けてくる人は絶えなかった。
それも、当然の如く話しかけてくる皆が皆ナンパみたいなものだし、その度に焔ちゃんが追い払ってくれている。
「さっきから追い返してくれてありがとね」
「良いの良いの! そういうのも私の役目だからさ! ってかもっとナンパじゃなくて普通に情報交換しようっていう人は居ないものなのかね」
「うーん、私たちの見た目が問題なのかもね……。子供みたいに思われてるとか、何も良い情報持っていないと思われてるとかさ」
子供だと思われて話しかけられないのはまだ分かるのだが、それでもナンパはやってくるし、そう考えると後者の情報を持っていないという理由が情報交換を持ちかけられない理由だろう。
まぁでも誰かが話している会話を盗み聞きするだけである程度は情報を得られるし、人見知りであまり話せないから私としては有難い事に違いない。
「そっかぁ、まぁ確かに私たちの持つユニーク武器の情報を渡した所でもう意味ないもんね」
焔ちゃんが自身の武器を見ながら呟いたその瞬間、武器を見たのか声が聞こえたのか、一人の男が凄い勢いで私たちへ話しかけてきた。
「き、君、その手に持っているのはユニーク武器で間違いないのかい? 少し話を聞かせてくれないかな?」
「え、えっと、その、まぁ良いですけど……」
あまりにも突然の出来事に焔ちゃんすらもびっくりしてしまい、勢い流されるように話をする事になってしまった。
まぁナンパでもなさそうだし、ようやく情報交換が出来るのかもしれないから、悪くない選択だ。
……私が話せるかは別だけど。
「あー、すまない。確かに怪しすぎたね。僕はしがない研究者さ。ユニーク武器もそうだけど、どちらかと言えばイベントの情報を集めて研究しているんだ。だから、けして君たちの武器を奪おうとかいう気持ちはないから安心してくれたまえ」
「分かりました。……雫も大丈夫?」
「う、うん。そんな怖くないし、多分大丈夫」
「感謝するよ。それじゃ詳しく聞かせて貰っていいかな?」
話をすると決まった以上、まずは私たちがユニーク武器の性質や、どこで入手したのかを詳しく話すことになった。
そもそもユニーク武器を所持している事も特段隠す事でもないし、盗んだりも出来ないことから詳しく話した所で特に問題はない。
それに、結局のところ例えイベント条件を満たしたとしても特殊なイベントである以上、もう同じイベントは発生しないだろうし、武器だって入手できないだろう。
「へぇ、君の武器は斬撃を、それも色んな属性で使えるんだね。それで、そっちの子のは……」
「えっと、その……レベルを消費してちょっと強い弾を放てます……」
「そうなのか! それは珍しい! レベルを消費するなんてこともあるのか! これは良い事を知ったよ。感謝する。それと、イベントについても他のユニーク武器も季節なんかの特定条件の可能性が考えられるし、素晴らしい情報だ。ありがとう」
凄い勢いでブツブツと呟きながらメモを取った後、自分の中で考えが纏まったのか、私たちへと感謝を述べた後に「次は僕が良い情報を渡す番だね」と言って、まだ二層であまり知られていないモンスターの良い狩場を教えてくれた。
しかし、どうやら狩場に存在しているモンスターについて聞いてみれば、どうやらハーピィらしく、正直違うモンスターであって欲しかったのが本音だ。
「ハーピィかぁ。どうせなら最近多く倒してる蟹とかの方が良かったな。大きい分当てやすいしさ」
「そうだね、確かにハーピィは人間に似てて抵抗あるし、私も出来る事なら違う鳥型のモンスターの方が良かったかも」
「あはは。そうかそうか、この二層に来て未だモンスターを殺すことに抵抗を感じる人が居るとは思わなかったよ。ま、この狩場に行くかどうかは君たちが決めたまえ。僕はここら辺で失礼するよ」
お互いに情報交換も終わり、私たちからこれ以上聞く事はないと判断したのか、研究者の男はそれだけ言って去っていった。
残された私たちもひとまず狩場へと行くかどうかを決める為に、騒がしい酒場を出て、宿屋へと向かう。
「さてと、それじゃどうする? 抵抗あって嫌なら行くのやめる? 別に狩場じゃなくてもレベルは上げれるしさ」
「いやーさすがに勿体ないし、行ってみようよ。やっぱり嫌だったら途中で帰れば良いしね」
ハーピィを殺しづらいというのも勿論あるいが、そもそもとしてハーピィというモンスター自体の強さが未知数なのだ。
空を飛んでる以上戦いづらいだろうし、狩場である以上数が多いだろうから、逆に殺されてしまうのではないかと考えてしまう。
とはいえ、実際に戦ってみないとそれは分からないし、リスクはあるにしろここで逃すのは勿体ない。
「よし分かった! じゃあ行こっか! あ、ついでに噂のオアシスってのも見つけてみようよ!」
「うーん、そう簡単には見つからないと思うけどね」
「良いの良いの、見つかったらラッキーくらいに考えてさ!」
「まぁそれなら……ふぁーあ、ふぅ。なんだか眠くなってきちゃった。明日は大変そうだしもう私は寝るね」
「うん! おやすみ! 私ももう少ししたら寝るよ~」
この世界に来て初めて狩場へと向かう事を決めた私たち。世界に順応するにつれて生き方を学び、生きる為には強くなるのに加えて、生きているモンスターだって嫌でも狩らなきゃいけない。
今回の狩場に行くのだって自分達が生き抜くために必要な事なのだ。
――例え人のようなハーピィが相手だったとしても。




