31話 『一層終幕』
身動きが取れない状態で銃を押しあてられているゴブリンリーダーは、まるで死にたくないと言っているかのようにジタバタと暴れ始めたが、どんなに暴れても私が離れる気がない事を察したか、或いは単純に諦めることを選択したのか、すぐに大人しくなった。
「ねぇ、今どんな気持ち? 折角あの時生き延びたのに、今こうして殺されそうになって悔しい? 私を殺したい?」
「――! ――!」
「そうだよね、君はモンスターとして普通の行動をしただけだもんね。でも、残念ながらそれじゃ私の心は晴れないんだ。君を見逃したり出来ないし、もう殺す以外あり得ないんだよね」
そもそボス部屋からモンスターが出られるのかはさておき、最初から私に見逃すという選択肢はない。
ただ、私の口から一度見逃すという言葉が出てきたからなのか、まるで人間の様に涙を流し、首を横に振り始めてしまった。
死にたくないとでも言うかのように。
「また暴れる気なの? 最初に言ったよね、簡単には死なせないってさ」
「――!」
こうやって会話を続けることで、きっとゴブリンリーダーからすれば生き永らえる可能性が少しでもあると思っているのだろう。
だがしかし、元々私は少しの希望を与えてから殺す気だから、こうやって生きようともがいてくれるのは実に有難い。
希望が絶望へと変わる様を見る為にまだ殺していないのだから。
「んー、そんなに死にたくないなら見逃してあげようか? なんか哀れすぎて怒りもなくなってきたし」
ゴブリンリーダーの上から退くように立ち上がろうとすれば、本当に私が見逃してくれると思ったのか、歓喜の涙を流しながらボソボソと呟き始めた。
「ありがとう」とでも言っているのだろうか?
「ごめん、やっぱ怒りが収まらないわ。てかお前たちの言葉なんて理解できないし、さようなら」
「――!」
私からしてみれば全く言葉を理解できないものの、やっぱりゴブリン側は理解しているのか、嬉しそうな顔は一気に絶望へと変わり、私はそれを見届けた後に笑顔で銃弾を撃ち込んだ。
「ふぅ。あんまり良い気分にはなれないや」
今までの一連の行動は全て怒りによるものからの行動で間違いなく、少なくとも殺したことで私の怒りは収まったが、さすがに清々しい気分とは言えない気持ちになっていた。
ここまでせずにあっさり殺してあげた方が良かったのでは? っと、どうしても思えてしまうのだ。
……例え相手がモンスターだとしても。
「あーダメダメ! さっさと切り替えないと!」
怒りや憎悪に身を任せれば正常な判断など出来ないのだから、今更どう考えたって仕方がない。
だからこそ今は心を切り替えて、ここで立ち止まって考え込むなんて無意味なことをするよりも、ゴブリンキングと死闘を繰り広げている焔ちゃんへと援護しに行くのが先決だ。
「あー、これもしかして私の援護要らないんじゃ……?」
戦いを楽しむように笑っている焔ちゃんへと目を向ければ、どうやら炎を纏っているゴブリンキングに対して水属性の斬撃を飛ばしまくったようで、びしょ濡れになっているゴブリンキングは既に炎を纏えていない状態へと陥っていた。
そうして炎を纏えていないゴブリンキングはもはや焔ちゃんの動きに追いつけておらず、一方的に全身を切り刻まれている。
正直言ってここまで一方的な戦いになっているとは思わなかったし、援護してしまえば逆に邪魔になってしまう可能性を考えれば、集中力を途切れさせないように危なくなるまでは傍観しておいた方が良いのかもしれない。
まぁ、今から焔ちゃんが危ない状況になるとは思えないけど……。
それから私が傍観を続けている間、一切危なげなく攻撃を繰り返していき、勿論ゴブリンキングも抵抗してないわけではないが、取り巻きも殺され、目で追う事すらままならない状況ではどうしようもないらしく、次第に諦めるように動かなくなってしまった。
そして、焔ちゃんによって動かずともどんどん体力が削られていき、やがて残り一撃となったところでゴブリンキングはモンスターにあるまじき行動に出た。
『ご、ごめんなさい。殺さないで下さい。あそこの扉は開けますから……』
「へぇ、あんたは喋れるんだ。モンスターなのに結構流暢なんだね。でも、あんたを倒さないままで本当に扉は開くの?」
ゴブリンキングが土下座のような体勢をとり、縋るように焔ちゃんへと話しかけた事で一旦攻撃の嵐は止まった。
ただ、ここからだと会話の内容までは聞き取れないし、一体何を話しているのだろうか?
まさか本当に情報通り、ボスでもあるゴブリンキングが命乞いしてのかな?
「焔ちゃん! そっちは終わった?」
「あ、雫! もう遅いよ! あ、でも取り巻きの対処ありがとね。こっちはまぁ、見ての通りかな」
「あー、うん。やっぱり情報通りなんだね」
私が焔ちゃんに走り寄った直後は怯えたような挙動をしていたものの、すぐに私にも縋るような視線を向け始め、必死に命乞いをし始めた。
「それじゃそろそろ終わらせよっか」
「うん、そうだね」
『ま、待って下さい。お願いします、命だけは!』
「――そうやって命乞いして何人も殺してきたんでしょ? 私たちは騙されないから」
必死な命乞いも意味はなく、私が冷ややかな視線と言葉を放った直後、焔ちゃんが一閃し、ゴブリンキングの首は飛んでいき、ようやく私たちの一層攻略は終わりは幕を閉じたのだった。




