30話 『芽生える怒り』
私が一人で炸裂弾の事を考えていた頃、ゴブリンキングは致命傷とはいかずとも、未だに体の中で暴れている弾によって動きが止まっていた。
残っていた最後の取り巻き、ゴブリンリーダーもそんなゴブリンキングの姿を見て呆然としている。
けれど、そんな中で唯一焔ちゃんだけは膝をついて止まっているゴブリンキングを攻撃しており、私も参加しようと思った矢先――突如としてゴブリンキングの体が炎に包まれた。
「あちゃー、もう二段階目きちゃったか。雫、どうする? 役割交代する?」
炎によって近づく事が出来ない焔ちゃんは、私の近くに戻ってきた後、息を整えながら訊ねてきた。
確かに、元々ゴブリンキングが炎に包まれたら遠距離で戦える私が前線に立つ予定ではあったが、それも取り巻きを全員倒していたらの話だ。
そう、まだこの場には取り巻きのリーダーが残っているのだ。
つまり、ここで戦う相手を入れ替えるのは悪手でしかない。
「うーん、あっちの取り巻きは私が出来る限り手早く倒すよ。大体の攻撃は他の取り巻きと変わらないだろうし、初見の焔ちゃんじゃ戦いづらいでしょ?」
「あー確かにそうかもね。それじゃ雫に任せちゃおうかな! こっちはまぁ適当に攻撃しつつ雫に注意が向かない様にするね!」
「ごめんね、強い方を任せちゃって。こっちもすぐに終わらせるから!」
「大丈夫! 任せといてよ! それじゃそういう事で、第二ラウンドと行こっか!」
焔ちゃんの言葉に頷き、走っていく背中を見届けた後、私はゴブリンリーダーへと目を向ける。
ずっと呆然と立ち尽くしていたから念のため警戒していたが、どうやら私たちが動き出すと同時にゴブリンリーダーも我に返ったようだ。
自分達の王を傷付けた私へと敵意と憎悪の込もった視線を向けてきている。
「ふぅ。よし、約束通り早く終わらせないといけないし、最初から全力で行くよ!」
息を整えて走り出そうとしたその瞬間、ガシャンという音が聞こえ、私は慌てて急ブレーキをかけて立ち止まる。
そして、地面へと落ちている鎧を見た後にゴブリンリーダーへと再度目を向けた。
そうして視界に映る物を見た瞬間、私の心は一気に怒りへと支配されてしまった。
「なんであんたが生きてるのよ! あの時逃げてった奴って事でしょ!? 怖がって逃げるくらいなら一生隠れて生きろよ! それともなに? 私へのリベンジってわけ? ふざけんな!」
怒りに身を任せて叫び散らす私を他所に、ゴブリンリーダーは盾を捨てて、腰に下げていた短剣をその手に持ち、更にはポーションを懐から出して飲みだしている。
その両方に私と焔ちゃんで無くしたり、取られたりしないようにと考えて付けられていた印があった。
そんな物をわざと見せつけるようにしながらニタニタと笑っているのは非常に不愉快であり、怒りは更に増していく。
こうして見せつけたりしているのはどう考えても私を煽るためだろうけど、それはあまりにも私に効きすぎるのだ。
「許さないから! 倒れたほむらちゃんを痛めつけた事、盗んだこと、ましてやそれを私に対して見せつけるなんて絶対に許さない!」
ここで煽りに乗ってしまうのは絶対にダメだと理解している。
が、私の怒りは留まる事をしらない。
むしろ、まだ飛び掛かっていないだけ理性が働いているのだから良い方だろう。
「……お前だけは絶対に簡単には死なせないから」
鎧を脱いだゴブリンリーダーが強くなったかどうかとか、作戦とかそんなものはもうどうでもいい。
今なら負ける気はしないし、どう足掻いても殺す事に変わりはない。
弾を込め、銃を構えながら走る私を迎え撃つ様に剣を構えているゴブリンリーダー。
どうやら完全にこっちの出方を伺っている様子であり、あくまでも自分からは攻撃を仕掛けようとは思っていないようだ。
「良いよ、それじゃ力勝負しようか」
ゴブリンリーダーと私では明らかに体格差があるものの、この世界ではステータスという概念があり、見た目上ではどちらの方が力があるかなんて分からない。
それに、わざわざ私から力勝負を挑むのは下策でしかないだろう。
でも、早急に仕留めるにはどうしても接近戦に持ち込まなければいけないのだ。
ゴブリンリーダーの間合いへと足を踏み入れた事により、剣を思いっきり振り下ろされるが、私は銃も短剣も壊れないという特性を利用し、二つをクロスさせる形で剣を受け止める。
まるで鍔迫り合いのような形にはなっているものの、思っていたよりも振り下ろされた剣に力が籠っておらず、弾き返すのは容易い。
しかし、そのまま銃で追撃しようとしたが、態勢が崩れているにも関わらず簡単に避けられてしまう。
「へぇ、やっぱり鎧を脱ぐと動きが速くなるんだね」
焔ちゃんなんかと比べたらそこまで速いわけではないが、それでも至近距離で銃弾を躱してくる以上、厄介な事に変わりない。
けど、普通に撃って避けられてしまうのなら確実に当てる方法を探せば良いだけの話だ。
そうして、暫くの間お互いに避けては攻撃するというのを繰り返していたが、大振りの攻撃を私が短剣で受け止めた事により、状況は一気に変わっていった。
「うぐぐっ、さすがに片手じゃ厳しいけど、これなら!」
短剣一本で抑えておくのは無謀に近く、徐々に刃が私へと迫ってきているが、今なら確実に避けられることもない。
刃が到達するよりも早く、私はゴブリンリーダーの腹部目掛けて何発も銃弾を撃ち込んだ。
既に鎧を脱ぎ捨てている今、銃弾を阻むものはなにもなく、ゴブリンリーダーは絶叫しながら剣を手放している。
あまりにも呆気ないが、剣を手放した以上私の勝利は揺らぐことはあり得ない。
「っ! ポーションなんて絶対に飲ませないから!」
手放した剣から離れさせるために、ゴブリンリーダーを蹴り飛ばしたのは良いものの、私との距離が少しできた事によってポーションを飲もうとし始めた。
ただ、それを私が許すはずもなく、走りながら短剣を投げてポーションを破壊し、その勢いのまま膝蹴りを繰り出した。
渾身の膝蹴りをくらったゴブリンリーダーは地面へと倒れ、私はその上に乗って拘束しながら口へと銃を押し当てる。
殺意を込めて、後は引き金を引くだけだ。




