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我らが行くは未知なる海原

「リギース帝国にテイリュバリー‥‥これかな?」


 シャーロックさんは何枚かシワシワの紙とにらめっこしていたが、やがて地図の一か所を指差す。海水に浸ってしまったので物凄く読みづらいがそれっぽい都市名が書いてある。

この紙が読めるようになるまで時間がかかった。紙を甲板で乾燥させてしわを伸ばして、言語を翻訳して、バラバラだったものはパズルみたいに組み合わせて糊の代わりに米粒を使って貼り付けて、俺が間違えて死にたくなったりと紙一枚読めるようになるためにおびただしい努力の末に何とかここまで来た。


 本当なら解読にミアさんが加わる予定だったのだがミアさん本人は文字の読み書きが出来ないと言っていたので戦力にはならなかった。幸いにして地図の文字は英語に非常に酷似した文字体なので何とか解読できている。これが全く未知の言語だったら積んでいた。


「多分そこですね。そこがミアさんの住んでいた場所らしいので、ミアさんを送るついでにこの世界がどんな世界なのか町に降りて情報を集めようと思っています」

「なるほど。ただ現在位置が分からないんですよね…。コバンザメがサルベージした物品の中に航海日誌っぽいものがあったので翻訳と同時に現在地の割り出しを行っています。なので、出発にはもう数日かかると思います」


 流石に文章程度なら何とか翻訳できるので他の人達を総動員して翻訳を進めているが、異世界独自の単語とかスペルミスなどによって翻訳スピードは速くはない。俺も英語は得意ではないのであまり文句もない。ミアさんも協力してくれているが俺達の言葉を憶えながらの同時翻訳なのでまだ即戦力にはならない。


「わかりました。自分はこの後、少し用事があるので後はお任せして大丈夫ですか?」

「大丈夫です。見ての通り他の皆さんは色々しているようですし、私自身何とか海図の見方とか知っておかないといけませんから」

「ではお願いします」


 そうして数日後、梵天丸さんとその他乗組員の努力によって現在地の割り出しに成功、同時にリギース帝国の航路の設定も完了した。翻訳が間違っていなければの話であるがこれでとりあえず進むことは出来る。場所が分かれば進む。ここでいつまでも止まっているわけにはいかない。


「機関出力上昇」

「戦闘管制システム問題なし」

「レーダー異常なし」

「航行システム問題なし」

「発進準備完了しました艦長」


 発進準備が完了し、スーシアが報告をする。あとは俺の掛け声で信濃が発進する。


 正直な所まだ俺達が異世界に転移したという実感が湧かない。何かその内視界が暗転して元の世界に戻れるのでは?と楽観した考えが心のどこかにある。もしかしてこれは夢なのでは?とも。とはいえ、もうゲームにログインして最低でも一週間は経っている。強制ログアウトも起きていないし、強制ログアウトが起きる気配もない。これだけログインしているのに家族がゴーグルを外さないことからも、やはり俺達は異世界に転移しているのは間違いない。

俺達がどうして転移したのか、元の世界に戻る方法を探すためにもリギースに行って情報を集める。


 あと早く戻って妹に構いたい。


「目標!ギリース帝国の都市テイリュバリー、信濃抜錨!!」

「抜錨!信濃発進!」


 錨が上がり青い海を切り裂いて信濃が進み始める。目的地であるテイリュバリーも地図とコンパスをにらめっこして、皆で星空を見上げて現在位置を割り出してなんとか航路を決めることが出来た。星の角度から現在位置を割り出すことが出来るのはゲームの豆知識で知ってはいたがこの世界でも何とか通用してよかった。そして現在位置の割り出し方を教えてくれた梵天丸さんには頭が上がらない。というか何で知ってたんだ?


「ところで目的地が決まったのはいいんですけど、上陸する人たちはどうしますか?流石に全員で乗り込むのは無理ですよ」


 梵天丸さんが出航後に話始める。確かにテイリュバリーのたどり着いたとして、全員で行く訳にもいかない。誰かは留守番をしてもらう必要がある。俺は最初みんなが行きたがるものと考えていたがそうでもなかった。


「私は嫌よ」


 まずは当然だが黒雪さんは参加を拒否した。まだ、本人は男の体になっていることに慣れていないので行きたがる訳なかった。続いて漆捌さんも言葉の通じない所にはいきたくないと許否、扶桑さんはコバンザメに残ると言った。ここは俺が行った方が良い気がする。


「自分、行ってみたいなぁ…って」

「「「春雷さんは絶対駄目です!!!!」」」

「そんなに否定しなくても良くない?」


 手を挙げた直後に全員から駄目だと声を揃えて言われた。泣くよ俺?


「自分の見た目は剣と魔法の異世界だったら殺される対象でしょ。討伐されたくなかったらここにいた方がいいと思うぞ」

「そうですよ。異世界でスケルトンは大体敵側です。その姿で町に出て見てくださいよ!殺されますよ!だって見た目骸骨なんですもん!」

「その通りです。骸骨が町中を歩けば不審者一直線、大人しく椅子に座っていてください」


 漆捌さんシャーロックさん梵天丸さんと三連続で駄目だしされて心に傷が付く。しかし、折れずになんとか食い下がる。


「だって、初めての異世界の町だよ?見てみたいじゃん。聞きたいじゃん。楽しみたいじゃん。俺も行ってみたい」

「駄目です」

「でも、行ってみたいんですよ…艦長として頑張ったので、ご褒美にしたいんですよ異世界観光を…」


 慣れてないのに頑張った。俺自身が骸骨になって割と混乱している中で頑張ったから、ちょっとご褒美が欲しいなって思う。


「えぇ…えぇ…えぇ…気持ちはわかりました…でもその姿だと大分問題があるのでなんとかしましょう」


 頭を押さえながらなんとか言葉を発した梵天丸さんに頷く。流石に骸骨姿で出歩きたいわけでは無く、ちょっと町をブラブラしたいだけだ。流石にこの姿が怖がるくらいは分かっている。


「アウターパーツでも付けますか?こうゴツゴツしてメカメカしい感じにしませんか?」

「それだと見た目が完全に二足歩行ロボになってしまい余計に目立ってしまいます。ここは布に肌色の塗料を塗って誤魔化せばいいんです」


 どっちも十分に目立つと思う。というか、目立たないようにするはずなのに余計目立ちそうなのだが?


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