告白
ガチャン
艦長室の扉が閉まり俺と監視としてスーシアが部屋に残った。
窓の外はまだ祝勝会が続いている。見える限り信濃のメンバーは見えない。全員信濃に戻っているんだろう。
「抵抗しないでください」
「わかっているよ」
ベッドに腰かけてスーシアの方をチラリと見るがスーシアは扉にもたれかかったまま目を合わさない。銃はまだ両手に持っている。今奪おうとしてもスーシアに返り討ちに合うのでやめよう。それよりも確かめたいことがある。
天井を見上げ少し口角を上げる感覚で口を開く。
「ちょっと悲しいな。俺はここまでスーシアに嫌われていたのか」
「え?」
「だってこんなことまでされるとは思ってなかったさ。ここに来るまで考えたけど、何でスーシアがこうしているかさっぱりわからなかった」
そう、俺にはスーシアを裏切る理由が全く分からない。梵天丸さんも、そうだが今までなんだかんだ仲良くやっていけていた自信があった。毎朝のプチお茶会とか、赤道祭とかいろいろな出来事を通じて気心が知れた中に慣れたと、それがこのざまだ。俺は艦長に向いていないな。
自然と乾いた笑いがこぼれる。それだけ不満がたまっていたんだろう。
「いえ……いえ!艦長は悪くないです。悪いのは私たちだとわかっているんです」
「なら、なんで俺を裏切るようなことを」
スーシアは俺よりも頭がいいし、回転も速い。そのうえで俺と裏切った事には理由があるはずだ。
「艦長達は元の世界に帰りたいんですよね。それを目的にここまできましたし」
「ああ、そうだ」
転移した時からの目的、『元の世界に帰ること』それは最初からずっとかなえるために行動して来た。それは今も変わらない。このタイミングでの裏切りだ。
「でも私たちは戻りたくないんです。あの世界に……。あの自由のない世界に」
「自由がない?」
「この世界に来るまで、あの世界が当たり前でした。けれどこの世界に来てから私たちは自分から行動できるようになりました。もっと艦長達の役に立てる。あの世界とは違う自由に動くことができる!!そう思っていました」
ああ、そうか。スーシア達も向こうの記憶を持っている。ただ、映像を見ているかのように自分では動かすことも話すこともできなかった記憶しかないと聞いた。ゲームのシステム的に自発的に動くことはできない。それがこの世界では自分の意志で行動することが出来る。
「最初は何とも思いませんでした。艦長達が帰ることをお手伝いする。そのことだけ考えていました。でも、ナイル川で艦長が沈んだ時に、いなくならないで欲しいと、いなくなったらと思うようになりました」
視線をスーシアに向ける。
いつの間にかスーシアは顔を下に向け唇もかみしめている。銃を持つも震えている。
「か、艦長が白い光を見て進もうとしたときに、私は行ってほしくないと思いました。帰らないで欲しいと。その時に気が付いたんです私は艦長に帰ってほしくなかったと」
今ならと思うが、俺はベッドに腰かけたまま話を聞く。
「私たちは艦長達の役に立つことが一番幸せです。クロトリは漆捌さん、機関室の子たちは黒雪さんに、それは私以外全員同じです。でも、この世界で生きていくうちに、もっと艦長達と話したい、もっと航海をしたい、一緒に生きたい。……そういうことばかり考えるようになりました。でも一緒にいるということは艦長達が戻れなくなってしまいます。それは嫌、でも戻ってまたあの動けない世界に戻ってしまうのも同じくらい嫌でした。そうして悩んでいたところに」
「梵天丸さんから話が来たと」
スーシアは力なくこくりとうなづいた。
なるほど、そこで梵天丸さんがここに残るという案を出し、俺達といたいスーシア達を説得したということか
「私は艦長に帰ってほしくないです。ずっとここにいてほしい。でも艦長は帰りたい。なら諦めてもらうしかない」
そのためのクーデター、ここで俺らとずっと暮らしていたいという。
「私自身最低なことはわかっています。でもこうするしか方法が……」
「なんでそこまで」
役に立てなくなるからと言って、会えなくなるわけでもない。話せないからと言って忘れるわけでもない。スーシアが戻りたくないなら俺まで巻き込む必要はないはずだ。
「私は」
それを知りたい。
…いや、多分わかっている。でもスーシアの口からちゃんと聞いた方がいい。
「私は艦長が好きなんです。愛しているんです」
潤んだ目で、けれど何かを決めたように目線だけは俺に向けてスーシアが告白した。
「艦長を元の世界に帰したくない。信濃の航海は好きです。でもゴールも確証もない旅を続けるより、私とずっと…だからここにいてください。艦長!他の誰かではなく私だけを見てください!」
そうか、俺自身何となくわかっていた。だが、それを聞けば『はい』か『いいえ』を選ばなくてはいけなくなる。そして『いいえ』を選んだ場合に今の関係が壊れるのではないのかと思い聞くことが出来なかった。でも、スーシアが震えながら泣きそうになりながら勇気を出して告白したんだ。俺も答えないと
「ありがとうスーシア、そう言ってくれて、俺のことを想ってくれて。俺の事を好きになってくれて」
元の世界じゃそういう色恋に疎かったし、もてたかった気持ちも確かにある。だからスーシアがこう言ってくれた時、こんな状況ではあるが嬉しかった。
これは嘘ではない。
「スーシア、俺は君を妹と重ねていた。可愛い俺の大切な妹でも、だからそんなわけないと勝手に思っていた。すまない」
俺はスーシアを見ているようで見ていなかった。妹と重ねて自分を慰めていたにすぎない。だからスーシアの思いに気が付かなかった。
「そして、君の告白にこたえよう」
一呼吸おいてスーシアの目を見て答える。
「すまない。俺は君の思いにこたえることが出来ない」
俺の返事を聞いたスーシアは一瞬目を見開いた後に目をつぶってかぶりを振る
「俺は戻らなくちゃいけないんだ」
「なんで!この世界で私といてください!!一緒にここで過ごしましょう!ここならリギースも簡単には来れません。あの蛇ロボットも三笠達とならどうにでもできます」
「俺もスーシア達といた時間は楽しい。ゲームの頃は想像もできないほどに、いや実際ずっと信濃と航海できたらとは思ったが、ここまでとは思っていなかった。そう思わせてくれたのはスーシアといたからだ」
「艦長」
「でも、これは夢であるべきだ。人の生き死には俺には重すぎる。例え異世界であっても未来でも信濃は強大すぎる。例えここで沈んでもこの世界に何かしらの強い影響を残す。なら、信濃は、俺たちはこの世界に飛ばされた皆は帰るべきなんだ。この世界に俺たちは必要ない」
夢は覚めるから夢なんだと思い知った。
俺は立ち上がりスーシアの背後のドアへと歩みを進める。一瞬ひるんだスーシア、目じりに涙を残したまま銃を向ける。
「止まってください。止まらないと」
「撃てよ」
銃口が胸に当たる距離まで近づくと、スーシアの銃を掴んで胸に銃口を突き付ける。この距離引き金を引けば、確実に背骨に直撃する。流石に背骨が無くなれば支えの無い俺の体は崩れ落ちる。最悪死ぬかもしれない。
「止めたいんだろ?撃てよ。撃たなければ俺は行くだけだ」
正直こんな威圧的な言い方はスーシアに言いたくなかった。でもここから出るためには何よりスーシアのためにも使わないといけない。
手に持つ銃が震える。俺が揺らしているのではなくスーシアが揺れている。いつも俺が見ている、落ち着いて冷静なスーシアとは違い、目に涙をためて歯を食いしばて焦点の合わない目で銃口の先をみている。
そして震えながらも引き金から手を離さないでいる。
「う……うぁぁぁあ!!」
何かを吐き出すように出した声は、他の音に遮られることなく。最後に銃が地面に落ちる音と一緒に収まる。
「ずるいですよ」
力なく地面にへたり込み顔を伏せたままのスーシアがつぶやく。俺はそれには答えず銃を拾いドアを開ける。そして閉じる前に少しスーシア背に語る。
「すまない、ありがとう」
スーシアは何も言わない。ただ嗚咽と呻くように泣く声が聞こえるだけだ。




