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調理師たちの修行

「フワフワのパンを?」

「はい。」

「金なら無いぞ!」


 男は疑心を抱いているようだ。心配するのは当然だろう。普通ならノウハウを教えるだけでお金を請求するところである。だがラウルはノウハウは無料で提供するつもりである。代わりにパンの材料を購入してもらうつもりだ。その方が、定期的に収入が入るだろう。


「お金はいただきません。ただ、パン作りに使用する材料を買ってもらいます。」

「材料を?」

「はい。今までの小麦を減らして、指定する小麦と他にも数種類を買ってもらいます。値段は今までの仕入額とそれほど変わりはないはずです。」

「それなら・・・。」


 男は納得したようだ。ラウルは早速修行に来るように伝えた。


 数日後、修行にやってきた二人の男女がいた。ひとりは王都の食事処の料理人、名前はエラという。もうひとりは近くのパン屋の店主、名前はヘンリーといった。手伝いとして、娘の猫獣人も来ている。名前をカミラといった。手伝いといっても何もできることはないと思うのだが。手伝いというより、託児所として利用されている気もする。


 ヘンリーは見た目は人族と同じである。違うのは猫耳が付いていて、尻尾も付いている。それ以外は人にしか見えない。獣化したときはキジトラ柄の毛並みをしているらしい。娘のカミラも同じくキジトラ柄だという。ごく普通のよく見る猫の毛並みである。

 エラは人族の普通の女性であった。貴族の店で働くだけあって、礼儀正しくマナーも教育が行き届いている感じである。


「それでは、今日からパン作りの指導をするラウルと申します。よろしくお願いします。」

「よろしくお願いします。」

「よろしくお願いします。」

「よろしくなのにゃー。」


 語尾に『にゃ』が付くのは子供の頃だけなのだろうか? 父親の方は普通に話している。しかし、子猫の可愛さだろうか、憎めない。つい、口元が緩んでしまう。

 ヘンリーもカミラも人族の姿をしている。獣化をしていると、パンに毛が混入してしまう恐れがあるため、パン作りのときはいつも人の姿をしているらしい。確かに、獣化してパンを作るとなると、全身防護服を着て作業をする必要があるだろう。


 数日間、ラウルは指導に専念した。マインも助手として手伝って貰っている。カミラはというと、店番をしてもらっている。会計などは無理だが、お客さんが来たときに声をかけるだけの仕事だ。しかし、これが結講バカにならない。『いらっしゃいなのにゃ!』と、声をかけてニッコリと微笑むそれは、まるで天使の微笑みである。お客さんによっては、その笑顔でしばらく立ち止まる者もいる。そして、笑顔が伝染していくのだ。メニューにスマイル0円の文字を追加した方がいいかもしれない。


 エラとヘンリーはパン作りに夢中になっていた。今までの常識がまったく通用しないラウルの指導は、理解するまで困難を極めた。とくに発酵段階で生地が膨らむのを見て目を丸くしていた。


 ラウルは知らなかったのだが、この世界でもオーブンは普通にあるそうだ。貴族の調理場にはもちろん、平民でも比較的裕福な家にはオーブンが設置されている。なので、パンを焼くのはどの店でも問題はないだろう。


 修行の日程が終わり、エラとヘンリー達はそれぞれの店へと帰っていった。ヘンリーは材料をすぐに送ることができるが、王都の食事処までパンの材料を送るとなると少し問題がある。小麦粉はそこそこ長期間保存ができるが、パン酵母はそうはいかない。

 パン酵母は現在はリンゴを使った天然酵母を使っているが、酵母の働きを抑えて輸送する必要がある。その為には温度を5度以下に保つ必要がある。この世界の荷車にそのような機能は当然付いていない。

 当分の間は、ラウルが転移で王都まで運ぶことにした。ラウルが運ぶ場合は、神様から貰ったスキルであるインベントリ内に、そのまま入れておけば時間が止まっているので品質に変化はない。酵母の需要が増えてくれば、酵母を作る専用の工場を王都に建設した方がいいかもしれない。


 翌日、ラウルは商業ギルドへと来ていた。強力粉を仕入れるためである。ギルドに併設されている倉庫へ行くと、強力粉一袋25kgの商品が50袋は積まれていた。それをそのまま収納する。それを見ていた案内役のビシネルさんは、呆れたような顔でいう。


「はぁ、もうラウル様のやることは驚きを通り越して、呆れてしまいますね。。」

「何度も見せているので、いい加減慣れてくださいよ。」

「はい。ラウル様、うちで働くつもりはありませんかね・・・?」

「ありません。」

「はぁ、そうですかぁ。」


 確かに、無制限で入ってしまうインベントリを持っている人間は、喉から手が出るほど欲しい人材だろう。ましてや魔法ではなく、スキルによって収納をおこなっていると知られたら、確実に驚かれるだろう。加えて、実は転移もできるなんて知ったら、最悪、誘拐されて奴隷にされ永遠とこき使われるかもしれない。まぁ、ビシネルさんがそんなことをするとは思わないが、ラウルの価値を知ると、人間は変わってしまうかもしれない。


 帰りに奴隷商人のお店に立ち寄った。王都の倉庫の管理者として、人を雇う必要がある。奴隷をひとり購入するつもりである。直接倉庫へと転移することもあるかもしれないので、秘密を口外しない人間が必要だと考えたからである。


 久しぶりに、ラウルは奴隷商人の店へと入っていった。




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