お嬢様、冒険者になる2
防具屋を後にして、ラウル達は冒険者ギルドへと向かっていた。
先ほどの盾を左手に装備し、魔力を流してみる。しかし、何も変化は見られない。ただ、少なくとも魔力は盾に吸収されているのはわかった。
(あれ、これも魔法の武器かと思ったのだけど。魔力がまだ足りないのだろうか?)
ラウルはそのまま冒険者ギルドへ行くまでの間、ずっと魔力を盾に注ぎ続ける。盾は底が無いバケツのように魔力をドンドンと吸収していった。しかし、やはり何の変化もなかった。
ラウルは、嫌な予感に襲われる。
(おっかしいなぁ。。確かに鑑定では最高品質だったのだけど。壊れてるのかな。もしかして、銀貨50枚の価値もなかったりして・・・。)
ラウルの魔力が半分ほど減った頃、冒険者ギルドへ到着してしまった。ラウルは一旦魔力の供給を止める。これ以上放出し続けると、ニーナの住居も消滅してしまうかもしれないからだ。
冒険者ギルドはいつにも増して騒がしかった。おそらく、緊急討伐依頼のために冒険者達が集まっているのだろう。ラウル達が依頼が貼ってある左手の壁を探してみると、ゴブリン集落の緊急討伐依頼が貼り出されていた。旦那様の予想通り、参加ランクはCランク以上となっていた。
「さて、お嬢様の冒険者登録を済ませましょう。」
「ええ。」
ラウル達はギルドの受付へと並ぶ。しばらく待っていると、ラウル達の順番が来た。
「冒険者ギルドへようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか。」
「はい、冒険者登録をお願いします。」
「畏まりました、こちらの用紙に記入してください。」
ラウルは小さな声でお嬢様にアドバイスをする。
「お嬢様、名前は家名を書くと、貴族だとバレてしまいます。シルフィとだけ記入すればいいですよ。」
「わかったわ。」
お嬢様が記入している間も、ニーナは周囲に気を配っていた。しっかり、護衛の仕事をしている。
しばらくすると、お嬢様の分のプレートができあがった。今日は依頼を受けるつもりはないので、そのままギルドを後にする。
これで、お嬢様も冒険者となった。
さて、問題は拠点である。
三人にもなると、ニーナの部屋は良いとして、ラウルとお嬢様の分、二つ部屋を毎回とるのは資金の面でも大変であるし、無駄である。ラウルは、思い切って異次元空間に俺達の家を建てようと決心していた。
しかし、問題もひとつある。空間が広がって物が増える度に、消費MPは増えていく。三人が住める家を建てるとすると、MPの自然回復量は減少量を上回ることができるのか・・・? 減少が回復量を上回れば、時間とともにラウルのMPは減っていき、いつかは枯渇するだろう。
こればかりは作ってみなければわからなかった。
ラウル達は、領都を一度出ることにした。家を異次元につくるならば、宿屋は必要なくなるからである。人目の付かないところで、ラウルはニーナの部屋と空間を繋げる。
「ニーナ、引っ越しするので、荷物をまとめてくれる?」
「はい、ご主人様。」
ニーナが居なくなると、お嬢様は話しかけてきた。
「ラウル、もう婚約したのですし・・・、そろそろ私のこともシルフィと呼んでください。」
「あ、そうですね。。わかりました。シルフィ、これからもよろしくお願いします。」
「はい。でも、なんで敬語なの?」
「いきなりは無理ですよ。。長いこと主従関係にあったのですから。それに、今でも身分としては、平民と伯爵令嬢ですからね?」
「んー、私は身分なんて気にしないのに。」
そんな話をしていると、ニーナが戻ってきた。
「ご主人様、荷物をまとめました。玄関に置いてあります。」
「わかった、一旦収納しておくね。」
「はい。」
そう言って、ラウルは玄関に入っていき、ニーナの荷物を収納していった。
「それじゃ、ニーナの今までの部屋を消滅させるよ。」
「はい。」
ラウルは空間の一つ、ニーナの部屋を消滅させた。
「とりあえず、三人が住める家を建てないとな。。」
「そんなことできるの?」
「お嬢様、ご主人様の作る家はとても快適なのです。」
「そうなの?」
お嬢様はとても不思議そうな顔をしている。
ラウルは三人が住める家をイメージしようとして・・・、やめた。
(ちょっと実験をしてみるか。)
始めは空気だけが存在する、ただ広いだけの空間をイメージして創造する。使用するMP量は全体の半分を使用した。だが、すごい勢いでMPが減っていく。とても自然回復量だけでは追いつかない。これは維持できないのですぐに空間を消滅させた。
次に、自然回復量と、MP減少量が等しいサイズの空間を創造した。MPは減っていくが、ある一定量減ると自然回復する。この空間をベースに実験を続けていく。
先ほどの空間に四角い立方体を創造する。創造したときに多くMPが減少したが、その後は一定量ずつ減っていく。つまり、物を創造した時はその物体に応じたMPが消費され、その物の維持に必要なMP量は少ないのだろう。なので、物を創造した時を基準とせず、維持に必要なMP量を基準にMPが減っていかないところで創造を終わらせれば良いことになる。
続いて、生物を創造しようとしたが、不可能だった。創造できるのは、生命ではないものだけらしい。木を創造してみた。これも不可能だった。生きていると判定されるらしい。今度は、製材された木材をイメージしてみた。創造できた。やはり、生命を作ることは神を冒涜する行為だからかもしれない。
そして不思議なことに、創造してできた物質はその空間のみでしか形を維持できなかった。『クリエイトエリア』で創造した物は、現実世界に持ち出そうとすると境目で消滅した。しかし、現実世界の物を『クリエイトエリア』内に持ち込んだ場合、そのまま現実世界に持ち出すことが可能だった。あくまで、『クリエイトエリア』内で創造された物質は、その空間の中だけで存在できるようだ。
『クリエイトエリア』の仕組みが少し理解できたので、実際に家を作ることにした。
先ほどの実験で、エリア内での創造も可能だったので、まず空気のある空間で、底に土が敷き詰められているイメージで空間を創造した。そして、その中に入って家を建てることにする。
家は2階建てで、一階が俺の住むエリアである。二階は、ニーナとシルフィが住むエリアにした。トイレはどちらの階にも設置する。風呂は一階のみ。リビング、キッチンは一階。それぞれの個室には照明と、ベット、机、椅子を設置する。そこまでイメージして前方に作成と頭の中で念じれば創造できた。
「シルフィ、家ができましたよ。」
「なっ!?」
シルフィーは驚愕な顔をして固まっている。突然目の前に現れた家に驚いたようだ。
「初めて見るのなら、驚いて当然ですね。」
ラウルは現実世界との接続を切り、シルフィとニーナを家の中へ案内した。ニーナは二度目なので、彼女の部屋が二階になることを告げるとそのまま荷物を二階に運んでいった。
(お嬢様もそのうち慣れるでしょう。。)




