第83話 第一章終幕
少し長め(2話分の分量)です。
じいさんが死んでから――高校に入学してからは、休みの度に警察の道場に厄介になっていた。
元々、じいさんは警視流という謂わば警察風古武術の外部講師として招かれることが多々あり、俺もそれに合わせて顔を出していたのもあって顔がきいたのだ。
そこで習ったことの中に、ホウレンソウというものがある。
葉物野菜のことではない。
報告・連絡・相談のことだ。
社会人の心得として、先達から習った言葉は重い。
――ということで……
「シンシア、王女のところに繋いでくれ」
仕事の完了報告を。
「ようやく終わりね……たった一日のことなのに、1ヶ月くらいかかった気がするわ」
「そうだな、さすがに疲れたし、とっとと休みたいよ」
戦っている間は気にならなかったが、いざ戦闘から離れてみると、ステータスに現れない疲労感が出てくるものだ。
ザザザザ……
っと、繋がったみたいだな。
「もしもし、王女、聞こえるか? こっちは片付いたぞ」
『(ガタッごちん)。っ痛つぅっ』
返事の代わりに、急に立ち上がったおかげで、膝でも打ち付けたかのような音が聞こえてくる。
天丼。
という単語が浮かんでくるが、無視して続ける。
「ちょっとばかり面倒なことになったけど、概ね問題ない。ゲルベルン王国は兎も角、勇者召喚の施設は無事のはずだ」
「そうですか……ありがとうございました。状況はすぐにでも前線基地内で共有します。その後、斥候兵の帰りを待って国へ報告します」
そうだな。情報の裏を取るのは大事なことだ。
前線基地内ではすぐに報告するようだし、一応信用はされているようだ。
「まぁ、さすがに俺も疲れた……これから帰って――」
「ちょっとちょっと、恭弥っ! あれは、ちょっとマズそうよっ!?」
俺のセリフを遮って、シンシアが大声を上げる。
一体何が……? って、おいおい……確かにアレはヤバそうだ。
俺が乗ってきた劣飛竜は、俺たちが飛び降りてからずっと空中を旋回し続けていた。しかし、それが今にも墜落しそう……というか、今まさに墜落を始めるところだった。
慌てて重力魔法で落下速度を調整し、ゆっくりと地上に降ろしてやる。
「王女っ! 魔物の大量発生には関係ないけど、ちょっとトラブルが発生した。ちょっと急だが通信を終了する。他の連中にはよろしく言っておいてくれ。じゃあな!」
『えっ!? あのっ――』
ぷちっ。
と、問答無用で通信を終了し、不時着した劣飛竜に駆け寄る。
「見るからに虫の息だな……『ダイグネス』」
『診断の魔術』は人間向けの魔術で劣飛竜に効くかどうかは正直わからない。
しかしながら、今頼りになる魔術はこれくらいだった。
──────────
状態:
疲労、衰弱、空腹、栄養不足
──────────
おっ、おう……
ちょっと無理をさせすぎたか?
慌てて、アイテムボックスからアスドラ用にと用意した水桶を取り出して水を張り、同じくアスドラ用の餌をだして目の前に置いてやる。
「おい、しっかりしろ! 食えるか?」
劣飛竜は一度、
「ぐるる……」
と軽く唸ってから、まず水を飲み、それから餌を食みはじめた。
こいつで元気になってくれればいいんだけど……
†
事前情報では、やれミレハイム王国が滅ぶだの、やれA級越えの魔物がうじゃうじゃだのと色々あったが、実際に始まってこうして終わってみると、結局今回の魔物の大量発生は過去最高の早さでの終結となった。
しかしながら、怪我人や死者の数もまた過去最大のものとなった。
ミレハイム王国側はもちろんのこと、3大都市の一つがまるまる壊滅したゲルベルン王国に至っては、もはや国家の運営は不可能だろう。
もともと、健全運営とは言えなかったわけだしな。
今回の魔物の大量発生においてゲルベルン王国があれこれ暗躍していたことは、研究所で俺が手に入れた証拠や、詳細は不明だが咲良や王女が手に入れた証拠もあり、言い逃れできない状態のようだ。
それに加えて、ハインツエルン王国への宣戦布告は有効なままだろうし、あの国の受難はまだまだ続くだろう。
全部自業自得だし、正直言って勇者召喚の施設さえ手に入れば、あの国行く末には興味はない。
今後は国際法に則って粛々と裁かれ、最低でも王家は当然取りつぶし、貴族も廃爵、それぞれ処刑されるとのことだ。
ゲルベルン王国は事実上解体されることとなる。
ミレハイム王国としては、俺を含む冒険者たちに支払う謝礼金や、教会への寄付金をなんとしてでもむしり取る必要があるのだから、その前にハインツエルン王国と一緒にむしり取れるだけむしり取るだろう。
まーゲルベルン王国にそこまでの資産があるとも思えないけどなぁ。
せいぜいが、獣人国を通らずかつ遠回りもしない、ハインツエルン王国とミレハイム王国の移動経路が一つ増えるくらいだろう。
後は……まぁ、劣飛竜とかか。
何にせよ、そんな実りの無さそうなところに出向いていって出しゃばるよりは、専門家に任せて置けばいいだろう。
「駄目だったときが怖いから、何を差し置いても、キョウヤ・トウドウの依頼事項を優先する」
とデルリオ公が割と真剣な顔で言っていたし、任せても大丈夫だと思う。
また、ゲルベルン王国民は現状受け皿がなく、移民を受け入れるにしても国家間での調整が必要とのことだが、ハインツエルン王国国境は重力壁で通ることができず、ミレハイム王国側の国境も現在は厳重警備中で、一切の通行ができなくなっている。
実際、無理矢理越境しようとして、『やむを得ず射殺』されるケースが頻発しているようだ。
対して、ミレハイム王国側の死傷者も決してゼロとは言えない。
しかしながら、結局一切休憩を取ることなく、聖光で治癒を続けたマリナさんのおかげで、最終的な怪我人はほぼゼロ人となった。
俺の魔力をその身に宿し、トランス状態で聖光をかけ続けたマリナさんは、『女神の巫女』という肩書きとは別に『聖女』と呼ばれ始めているとかなんとか。
それでも、死んでしまえばどうすることもできず、死体が残っている者も残っていない者も合同葬儀で丁重に送られることになった。
ちなみに、帰ってこなかった者の中には、俺が戦場に送った貴族や貴族の私兵たちも含まれる。
結局誰一人として生き残ることはなかったらしい。
死亡原因の8割は誤射だったそうだ。
誤射なら仕方ないな。
恐らくステータスの犯罪欄も綺麗なままだろう。
俺が王女にもたらした情報は、王女の言葉通り速やかに伝えられ、すぐに前線基地ではささやかな宴が行われ始めたらしい。
最初は冒険者たちのみで始まったようだったが、すぐにその波は兵士や教会関係者にも伝搬し、斥候兵が魔物の大量発生完全終了の知らせを持ってくる頃には大宴会にまで発展していたそうだ。
ある者は、勝利を祝って。
ある者は、遅れてやってきた恐怖を飲み下すように。
ある者は、仲間と無事を祝って。
ある者は、仲間や恋人を失った悲しみを呑み込むように。
ある者は、家族を守ることができた喜びを胸に。
この世界では真夜中と言ってもいい時間から始まった宴は夜通し続き、夜が明けたあと一足遅れて宴会の波は都市セーレに伝搬しバカ騒ぎとなった。
そこに、前線基地から戦士たちが戻り、さらに三日三晩の狂宴が行われた。
随分と長い間騒ぐものだと思ったが、間に合同葬儀が挟まっていたのもあって伸びたのだろう。
葬式のときには、日本でも大人は宴会をするもんな。
そして、その合同葬儀には、アンナロッテ王女は王族として、マリナさんは公爵令嬢として参加したようだ。
国王の姿やデルリオ公爵の姿は勿論あったのだが、王子二人とその取り巻き貴族の姿はなかったようだ。
こちらも、どんな罪かはしらないが、裁かれるのを待っている状況のようだ。
まぁ、王女暗殺未遂やら何やら、罪状には事欠かないことだろう。
一番マシな状態で一生牢屋暮らし。
次点で鉱山送り。一番罪が重い状態では処刑台送りとなるそうだ。
本当にギリギリのところで、自浄作用が働いたミレハイム王国だったが……まぁ、今後の方向性に期待と言った所だろうか?
ちなみに、すべて伝聞だ。
俺はそのどれにも参加していない。
いくら王族専用機の劣飛竜とはいえ、さすがに無茶をさせすぎたせいで完全にへばってしまい、結局あの後戻るに戻れなくなってしまったのだ。
そりゃあ、見捨てて一人で帰るなり、無理をさせて転送させれば帰ることもできただろうが、劣飛竜には世話になったからな。
一日一食でいい地竜と同じ感覚でいたけど、劣飛竜はきっちり一日四食食べさせる必要があったそうだ。
俺は必要な食餌を与えることなく、働かせまくってしまった、とんだブラック飼い主だった……と言う訳だ。
――反省。
それに、魔物の餌には魔力を含んだ餌が必要なのだが、劣飛竜には、アスドラ以上に魔力を含んだ食餌が必要らしい。
だが、魔力の固まりとも言える魔物はすべてリキッドメタルドラゴン・レインボーが平らげてしまったので、周りに手頃な餌もなくそれも快復を遅らせる原因となった。
ゲルベルン王国には人間が今日食べるものにも事欠くレベルで何もないし、手元に残っているホーンラビットの肉やら内臓、それに旅の途中で倒したビッグベアーの肉などを放出しつつ、ゲートを使い都市セーレから食料を仕入れて少し動けるくらいまで回復させた。
なんとか回復させたあとは都市セーレのアスドラを譲ってくれた店に送って治療を続けているが、そうなる前までに3日かかり完全に出遅れてしまった……という訳だ。
それにしても、劣飛竜の治療は戦闘より余程疲れる戦場だった。
皆も手伝いを申し出てくれたが、すべて断った。
最低限の回復をさせるまでは、俺の責任としてやり遂げたかったからな。
といっても、専門家の指示に従っていただけだけど。
その際に、正しい餌のやり方や、正確な餌の種類なんかを聞いた。
ペットを飼う時は、必ずプロから話を聞くか、本などで勉強するべきだというよい教訓になったな。
専門家がいない、リキッドメタルドラゴン・レインボーはどうしようか……
劣飛竜と同じタイミングで同じように餌を与えているが、今のところ問題はないようだ。
『腹が減ったり、体調が悪かったら教えるように』と命令はしているので、何かあればしらせてくるだろう。
「ようやく一段落ついたな……」
俺は、火で肉を焼きながらため息をついた。
以前のような骨ごと炙るだけ……といった原始的な方法ではなく、石を組んで作った簡易的な竈と、【錬金】スキルで作り出した網を使ってのバーベキュースタイルだ。
「それに関しては、恭弥が悪いんだけどねー」
炎魔術で熱したフライパンで、野菜とパスタに似た麺を炒めながら咲良がジト目を向けてくる。
曰く塩焼きそば……ということらしい。
「でっですが、あの劣飛竜の頑張りがなければ、ゲルベルン王国は完全に消滅していましたし、キョーヤ様の行動が一概に間違っていたとも……」
「それに咲良、貴女も劣飛竜に無茶をさせて墜落しそうなところを、主様に救われたと記憶しているが……?」
「ぐぬぬ」
王女の擁護とイリスの口撃に沈没する咲良だったが、調理を続ける手だけはしっかりしている。
現在の時刻は昼。
天気は快晴。
相変わらずの殺伐とした雰囲気がなければ、絶好のバーベキュー日和だ。
今俺たちがいる場所は魔物の領域のど真ん中だが、ゲルベルン王国では夜にしか魔物が出ないようなので、こうしてバーベキューと洒落込んでいるというわけだ。
劣飛竜は病院送りとなってしまったので、転移ゲートを使って皆を呼びよせる形で。
とはいえ、この場にいるのは、俺、咲良、イリス、マリナさん、ヤスナ、王女、シンシアだけだ。
まぁ、他の冒険者を呼ぶわけにもいかないしな。
大体が飲み過ぎでぶっ倒れているようだけど。
「それにしてもアタシが行き倒れていたところを助けてくれたのがキョーヤさんで本当に良かったです」
「そうですね、そこで縁が繋がらなければどうなっていたことか……想像するだけでぞっとしますね……」
俺や咲良がいなければ、ゲルベルン王国の野望が成就していたであろうことは、想像に難くない。
もしかすると、王女が一念発起してデルリオ公と共に魔物の大量発生とゲルベルン王国に対処し、そしてミレハイム王国に反旗を翻す未来があったかもしれないが、それこそ“たられば”の話だ。
ちなみに、俺が冒険者ギルドを通さずに受けたマリナさんからの依頼料は、彼女からではなく王女に「ゲルベルン王国に行くふりをして、身を隠してはいかがか?」などと話し、ゲルベルン王国へと行くきっかけになった貴族の家を取りつぶし、そこが溜め込んでいた資産から出ることになったらしい。
それでも、マリナさんは個人的にお礼を……と、1週間分の護衛費用として、白金貨14枚を包んできてくれた。
はっきり言って二重取り状態なのだが、貰えるものは貰っておく主義なので、問題ない。
また、まだ確認はしていないが、冒険者ギルドに国から依頼料の支払いがあったそうだ。
金額が金額であり税金額も膨大だ。
しかしながら、国が大金を払ってギルドが税金を納める。そして国が税金としてそれを受け取る……
という構図は無意味きわまりないことであるので、国からは税金が控除された金額が支払われ、その分減ることになったギルドの取り分は、半年間税金免除ということで話がついたようだ。
アヒルを持ったイオさんがゲートで現れ、俺の名義で口座を作った旨と、そこに依頼料を納めておいたので、大陸全土どこの冒険者ギルドでも引き出すことができると説明を受けた。
税金云々の話は、アヒルが嬉しそうに語ってくれていた。
なんでも、半年間無税という方が利得が多いらしい。
それに、固定で決められた収入より、いくらでも収入の調整がきくからな。
元を取ったら、冒険者への還元祭も考えていると言っていたので、そこら辺はアヒルの手腕が光るところだろう。
ところで、ギルドランクを決めるギルドポイントは基本的に冒険者ギルドに対する貢献度によって増える。
ミレハイム王国内で半年間の税金免除を勝ち取った俺は、Aランク冒険者となった。
手に入れた特典で最も大きそうなのが、「Dランク以下の冒険者を5人まで連れて迷宮に潜ることができるようになる」ということだろうか?
「それで、キョーヤ様はこれからどうされるつもりですか?」
「勇者召喚の解析やら、資料の調査は約束通りミレハイム王国に任せることになったし、俺は俺で帰る方法を探すことにするよ」
「やはり、元の世界に戻られるのですか……?」
イリスが眉をひそめる。
「正直決めてない。せっかく受かった大学も駄目だろうし、元より俺は天涯孤独の身だからなぁ。あっちには世話になった人が多いから、戻りたいとも思うけど……」
「ではどうして……?」
「帰れるけど帰らないのと、帰れないってのは違うからな。それに、俺は兎も角、咲良は帰りたいだろ?」
「ふぇ? …………(もごもご、ごくん)私は、恭弥が帰らないなら帰らないけど?」
口に含んだ焼きそばを慌てて飲み込むと、咲良は首をかしげながら、そんなことを言い始めた。
「いや、だって、日本には両親もいるだろう?」
「うーん、大学が駄目になったのは私も同じだし……それに、就職したり結婚したり――永久就職したりで親元を離れることなんて、普通のことじゃない?」
「なんで、結婚を意味する単語を二回言ったのかはわからないけど、そんな軽いものか?」
「まぁ、寂しいことは寂しいけどねー。でも、帰る方法、探すんでしょ? こっちに残るなら、それとは別にまた来る方法も考えないとだし、2倍大変だね?」
「残るとも残らないとも決めてないっての」
「それで、これからどうするの? ミレハイム王国に帰るのかしら?」
シンシアの質問に俺は首を横に振る。
「それ、絶対面倒なことになるだろう。新しい、ペットもいることだし」
「ねぇ、恭弥? その子の名前ってもう決めたの?」
咲良はそう言って、俺たちの後ろでとぐろを巻いているリキッドメタルドラゴン・レインボーに視線を向ける。
「まぁ、虹色だし、レインボーだしで、リッチーにしようかと……」
「ええっ!? 何それ?
なんでリッチーなの? 全然関係ないじゃない。
そうねぇ……タマムシ色だし、タマちゃんでいいじゃない?」
リッチーを知らないのか……
まぁ、俺もじいさんのCDがなければ知らなかったかもだけど。
「いや、お前そんな……タマって……猫じゃあるまいし……
おい、お前も、リッチーのほうが……」
と言うと、顔からヒゲのように触手を二本伸ばして、器用にバツを作った。
「ねーっ? 君も、タマちゃんの方が良いよね?」
と言う咲良のセリフには、これまた器用に丸を作って答える。
「おい。てめぇ……」
睨みを利かせると焦ったように、咲良の方を向いてバツを作り、俺の方を向いて丸を作る。
ふっ、誰が飼い主が思い知らせないとな。
「ちょっ!? 脅すのはかわいそうじゃない!?」
――何のことやら?
「ちょっと、いいかしら?」
「どうした? シンシア?」
「リッチーって男性名よね?」
「まぁ、そうだな」
「その子……雌じゃない?」
いやいや、そんな……ねぇ?
こんなの、どう見ても、両性具有……
「お前、雌なのか?」
触手が丸になる。
「女の子にリッチーはかわいそうよねぇ……?」
と、咲良がニヤつきながらにじり寄ってくる。
「だからってタマもないだろうに……」
触手が丸くなる。
お前もそれでいいのかよ……
「じゃあ、タマなタマ」
と投げやりに命名するが、当の本人と咲良は嬉しそうだ。
「よかったねー♪」
「ぐるぅ♪」
仲良きことは美しきかな……
と言いたいところだけど、テイムによってまるで性格が変わったかのように大人しいタマだけど、ヴァルバッハを消滅させたり、別な個体はミレハイム王国側で俺と戦闘を繰り広げたりと、色々やらかしてるんだよな。
さっきも言いかけたとおり、このまま都市セーレに連れて帰ったら色々面倒なことになるだろう。
少なくとも、しばらくはほとぼりを冷ます必要があるだろう。
少し時間をおけば、タマは無関係ですよーと言ういいわけができるかも知れない。
「で、これからどうするか……だけど、飛竜が使えない以上、アスドラか徒歩での移動しかない訳だけど、ゲルベルン王国が面している国境は3つ。その内2つ……すなわち、ハインツエルン王国方面と、都市セーレ方面は使えない。となると選択肢は一つだな」
ミレハイム王国側の国境は完全に封鎖されているし、ハインツエルン方面は咲良の重力魔法によって完全に分断されている。
咲良によって作られた重力壁は、常時魔力を注入して継続するタイプではなく、期間を指定して使い捨てるタイプだ。
話によると、1ヶ月は解除されることはないそうだ。
無理矢理破って通ることもできるだろうが……そんなことをすれば、今度はハインツエルン王国と戦闘になる可能性があるからな。
「迷いの森から、ドワーフ王国を越えていくルートですか……? ですがそのルートは……」
イリスが懸念を示す。
「冒険者ギルドでも近づくなって言われていたしな。危険だって言うんだろ? でも、ここでこうして野宿を続けているよりはよっぽどいいと思う。まぁ、俺とシンシアの二人でも――」
「「「「私(私)も一緒に連れて行って(くださいっ)!」」」」
咲良、イリス、王女、マリナさんの4人が見事にハモった。
そして、遅れてヤスナが、「アタシは、アンナロッテ様の護衛ですから」とだけ言って、再び肉に集中し始めた。
「イリスと咲良は兎も角、マリナさんと王女は一体どういうつもりだ?」
「……っていただけると、おっしゃってくださいました」
「ん?」
「護っていただけるとおっしゃってくださいました。それに、王女の立場を捨てて、帰る手段をともに探すという約束ですから」
「王子や貴族は粛正されたんだから、もう安全だろう? ……まぁ、そうだな。帰る方法を探すのを手伝えって言ったのは俺だからな。
――で、マリナさんは一体?」
「それが……」
そう言って何やら言いよどむ。
「なんかね、マリナちゃんに最近変なファンみたいな人たちがついちゃって大変みたいなんだ。『聖女サマー』って。なんか、恍惚とした表情で、聖治癒を使い続けてたのが原因みたい。
ってわけで、私からもお願いっ! 連れて行ってあげてくれないかな?」
目の前でパンッと手を合わせ、拝むようにして頼んでくる。
うーむ。
「(っていうか、それが原因なら大体恭弥が悪いじゃない? 手加減しないから……)」
ぐ……シンシア、お前もか……
「わかった。マリナさんもほとぼりが冷めるまでは一緒な」
「よかったね! マリナちゃん」
「ええ……」
心底ほっとしたような表情だ。
「でも、もうお客さんじゃあないからな?」
「はっはい! それは勿論! やはり、冒険というものはそうでなくてはなりませんしね!」
単に、冒険癖が抜けないだけってことはないだろうな?
「じゃあ、予定も決まったことだし。食事が終わったら、迷いの森方面に出発だな」
「「「「「「はーい」」」」」」
こうして、俺たちは迷いの森へと向かうことになったのだった。
シンシアのメタ発言が冴えますね。
宣戦布告からこちら、たった一日の出来事を書くのに約1ヶ月かかりました。
ペットの名前は、幼なじみが決めるのが鉄板かなと。
ちなみに、私はいつもプックルにしていました。
ひとまず、これで魔物の大量発生編は終了です。




