↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【祝!日間総合8位】白い結婚!?それなら、私の戸籍をあげちゃいます!〜え?拾った彼は公爵様でした!?  作者: しぃ太郎
第二部 公爵家で頑張るお嬢様

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/79

SS【IFルート】クロエを失った俺は、お嬢様を救えなかった。彼女は他の男の妻になった(前編)

※本編とは異なるIFルートです。

馬車事故で家族を失い、ジェイドが復讐を選ばなかった世界線になります。

※クロエが存在しない分岐となります。

※侍従として生きることを選んだジェイド視点の、やや切ないお話です。

※大人向けの雰囲気を含みますので、苦手な方はご注意ください。


「大丈夫かい?少し無理をさせたかな」

「いいえ、大丈夫です。少し休みたいので……今日はもう寝させてもらいますね」


「ああ、今日はこれで終わりにしよう。また明日」


 旦那様は私の額にキスを落とし、部屋を出て行った。

 耳が痛くなるほどの静寂が訪れる。

 扉の前で、人の気配がしている。何度も足音が止まった。


 何となく彼のような気がして、微かな声で呼んでしまう。


「……ジョン」

 思わず口に出していた名前。

 後悔はしないと誓ったのに。

 私が嫁いで来た理由を思い出さなければ――。


 でも今だけは……。


「……でも。抱きしめてほしいわ……」

 その声は妙にぐぐもっていた。


「お嬢様……」


 耳元で、一番聞きたかった声が聞こえた。


(やっぱり。外に居てくれたのね)


 そして――。

 気づいた時には遅かった。


 厚い胸板。私を優しく引き寄せる力強い腕。

 抜け出す気力も出ないほどに、安心させてくれる人。

 そんなの、彼しかいない。


「ジョン。来てくれたの……?今は、酷い格好なのに……」


 耳元にジョンの息がかかる。

 低い声が胸を騒がせる。


「いいえ……。お嬢様はいつだって綺麗です」


 その言葉につい苦笑が漏れる。


「私……もう戻れないのね。そして、愛されている女でもないのね……」


 旦那様には愛する人が居る。私は形だけの妻のはずだった。でも、彼の優しさからか。それとも彼の罪悪感からか。


 優しく抱きしめてくれた。

 丁寧に接し、よく気遣ってくれて、知らない感情すら与えてくれた。

 それでも涙が流れる。何故かしら。


「お嬢様」

 ――ああ、ジョンも泣いているからか。

 彼の息が乱れて、私の頬に温かいものが落ちてきた。


「俺の大切なお嬢様……」


 ふふ。まだ裸なのに。

 ジョンに抱きしめられる。そんな状況でも、彼の広い背中に腕を回した。

 顔を預けると、少し速い鼓動が聞こえた。


「結婚したんだもの。妻の体裁を守ってくれたのよ……。夫に抱かれもしない妻なんて軽んじられるでしょう」


 ――夫に他に愛する人がいても。生涯、愛されなくても。


 でも、もういいかな。

 耐えなくてもいいかしら。

 ジョンが泣いている。私を憐れんで泣いてくれている。


 彼の視線の先を追った。乱れたシーツ。そこに脱がされたシュミーズが散らかっている。


 触れている彼の身体が、どんどんと強張っていくのを感じる。

 その手に触れた。

 ジョンの体温が伝わる。


 見ると、彼の拳は爪が食い込んで血が滲んでいた。

 それを、そっと包み込む。


 ――ジョン。

 こんな時くらい甘えてもいいかしら。


「ねぇ、ジョン」


 その涙に口づけながら、彼に残酷な言葉を告げる。

 でもそうしなければ耐えられそうにない。


「私が可哀想ならあなたが忘れさせてよ。他の男性の妻になってしまったけど、あなたなら愛して満たしてくれる?」


 目の前で、ジョンの喉仏が上下した。

 それでも視線をそらされる。


 ――でもね。お願い。私だって好きな人に愛されてみたい。


「……いいですよ。でも、逃がせられなくなる」

「いいの。……その翡翠に包まれたいの」


 耳元をくすぐる、その低い声に身体が震える。


「あなたに、俺の気持ちを溢れるほど伝えます」


 ゆっくりと、乱れたシーツに沈められた。

 私を支える筋張った腕が顔の近くに置かれる。


 これから私は裏切るのね。

 旦那様も、ジョンの気持ちさえも……。

 私は、反射的にジョンの首にしがみついた。

 固くて力強い。

 彼の体温に、身を任せてその温もりに身体を預けた。


 ――ああ。どうせ壊れるなら彼と一緒がいい。

 涙が頬をつたっていく。


 そして、ゆっくりとその頬を、ジョンの唇がかすめた。

「……んっ」

 思わず声が漏れる。くすぐったい。

 胸の奥が熱を帯びていくみたいだ。


 身体は、限界に近い。


 ――でもいいか。ジョンになら全てを任せられる。

 このまま溺れて沈んでしまいたい。


 ◇◇◇


「……もう後戻りできなくなるよ、俺が」

 いつもと違う声と、熱を帯びた声。


 私は下からジョンを見上た。


 彼の硬い身体がゆっくりとのしかかる。

 肌に触れる体温が彼のものだと思うと、愛しくて腕を伸ばした。

 しかし、その手首を取られてしまう。


「……ねぇ。俺なんかが君に触れていいの?」

 私の大好きな緑の瞳。

 伏せ目がちにその輝きが揺れている。


「ジョンがいい……。あ……んっ」

 それを聞いた彼が、そのまま口付けてきた。

 素直にそれを受け入れる。


「ゆっくり……。うん、上手」

「……んっ」


 ジョンが一瞬動きを止めた。


「もう本当に人のものなんだね……」

「……言わないで」


 耳をくすぐるようにゆっくりと囁かれる。

 その低い声。

 私の大好きな人だ。


「あ……ジョン……」

「こうやって、誘っちゃったんだ?」


 やわやわと下唇を弄られ、意地悪な質問をされてしまう。


「言わないで、ん」


「ははは……あぁお嬢。俺の天使。ずっとずっと、この時を夢描いてたのに」


 そのまま濃厚な口付けに変わる。

 頭が真っ白になって思わずしがみついた。


「俺の大切なお嬢様だったのに……。なんで他の男に触れさせないといけないんだ……」


 いつもより低くて静かな口調。

 背中にぞくりと何かが這っていく感触がした。


「……何度でも伝えます。……お嬢様。俺を忘れられないくらい。何度でも――」


 息を弾ませた低い声が、耳朶をかすめる。


「ねぇ。言って?今、誰に抱きしめられているのか」

「……ジョン!私のジョンよ……。愛してる……」


 一瞬、彼の翡翠の瞳が潤んだように見えた。


「……もう一回」

 震える声が、そして必死な声が私を追い詰める。


「言って?」

「ジョン……!ジョン!」

「そうだよ。俺だったはずなんだ……」


 闇に溶け込むように、彼が耳元で囁やいた。


「……本当に。浮気者のお嬢様だ……愛してる。俺のほうが……!ずっと、愛しているのに……!」


 一瞬、ジョンの肩が強張り動きが止まる。


「俺が……」


 ぐっと、彼の喉がなった。ここからでは、影になった表情がわからない。


「俺が手に入れたかったのに」

「ジョン……私の宝石。いいわ、全部あげる」


 でも、その声があまりにも揺れていて――。

 大きな身体に包まれて、何度も伝える。


「あいしてる……愛してる……ジョン……。ジョン!」



 ◇◇◇


 空が白み始め、部屋が明るくなってきた。

 これ以上、ここにいるわけにはいかない。


 最後にまた、愛しい髪に口づける。暗いなかでも眩しく見えるその金髪に。

 そして、その小さな額に自分のものを合わせる。

 小さな吐息が顔にかかった。


 俺にもっと力があれば何かが変わっただろうか――。


「愛しています。……奥様」


 俺はそっと瞳を閉じた。

 

後編に続きます。

もう少しだけ、このルートの結末にお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。