6話
今日も外は快晴であった。
嵐は外を見て、体一杯に日を浴びていた。
「いや~今日もいい天気だね」と、言いながら、両手を大きく横に伸ばしていた。
そこへ恭弥が起きてきた。
「兄ちゃん。おはよう」
恭弥は少し眠そうに言った。
「ああ、おはよう」
嵐もそれに応えた。
「あ、そうそう」
嵐はウエストポーチから徐に何かを取り出した。
そして、それを恭弥とに渡した。
「これは?」と聞き返した。
「それは学校のパンフレットだ」
「僕は学校へは行きませんよ」
「まぁ、一応見ろよ」
恭弥とはその嵐のパンフレットをパラパラと読んでいた。
パンフレットの終わり頃、響也はあるものに見入った。
それは…ロボットだった。盾や剣を持った、鉄の巨人だった。
「これは何?」
恭弥は興味津々に聞いてきた。
「ん?それはな、魔道騎士だ」
嵐はお茶を飲みながら言った。
魔道騎士とは人に似せた魔道兵器のことだ。
魔道騎士は高さ数十メートルもあり、武器は主に剣や槍を使っている。
魔道騎士は稀に魔境から襲撃して来る魔物を迎撃するための魔道兵器として開発された。この魔道兵器を乗りこなすことで単騎で騎士百人以上と戦う事が出来る。
そのため、この魔道騎士は各国の主戦力になっている。
「凄い、カッコいい」
恭弥はそれをジット見ていた。
「乗りたい」
「でも、もう入学届けの提出期限がすぎてる…」恭弥は肩を落とした。
嵐はそれを見て、ふっふっふと笑っていた。
そして、嵐は一枚の紙を出した。
「それは?」恭弥は紙を凝視した。
「これはな、お前の入学届けだ」
嵐は紙を恭弥の顔の前に突き出した。
恭弥は「えっ?」と驚いた。
「きっと、行きたがるだろうと思って、入学届けを貰ってきたんだぞ」
「お兄ちゃん…ありがとう!」
恭弥は嵐に勢い良く抱きついた。嵐は倒れそうになったが、受け止めることが出来た。
「どう致しまして。それより、試験に向けて勉強しないとな」
「うん。分かった。頑張るね」
「あぁ、頑張れよ」
そう言うと同時に恭弥は部屋を出て行った。
「やれやれ。行動が早いこと」と、嵐はパンフレットを拾いながら言った。
「まぁ、俺も乗りたいなと思うけどな」
「私も乗りたいな」
突然、ラウが後ろから首に抱きついた。
「そうか。また、今度な」
「うん」と、ラウは頷いた。
「じゃあ、今日も迷宮に入るか?」
「アラシの好きにしたらいいよ」と、ラウがにこりと微笑んだ。
「それじゃあ、行きますか」
そう言うと、二人の姿は部屋から消えた。
~迷宮内~
嵐たちはこの都市最大の迷宮へと来ていた。この迷宮はまだ攻略されておらず、現在は43階層まで攻略されている。
どこの迷宮も石の壁ばかりで死角のなる場所が多い。そのため、曲がり角で鉢合わせになることも少なく無いらしい。
嵐たちは現在、3階層で多数のキラー・ビーと交戦していた。
ドォォォン…
だが、キラー・ビーの群れを嵐の火炎魔法で一瞬で呆気無く燃え尽きてしまった。
「さすが、アラシだね」
「この程度なら、楽勝だ」
そう応えるとまた奥へと進んで行った。
その後も順調に進み、8階層まで来ていた。
「ここは広いな。ここまで来るのに結構な時間がかかったな」
「でも、普通の人に比べると、早すぎますよ」
「そうだな…ん?何かくるぞ」
嵐たちの前方を見ると、数十人の冒険者たちが走って来た。その姿は何かから逃げているようだった。
その冒険者の中に一際目立つ、金色の鎧を着ている者もいた。
「おい!何があった!」
「オーガの群が来やがったんだ!それで奴隷を囮にして逃げてきたんだ」
「おい!何してる。早く逃げるぞ!」
それだけ言うと、団体さんはさっさと逃げて行った。
「ラウ。行くぞ」
嵐はラウを連れて、多数の気配がある場所へと走りだした。
~???~
「…はぁ……はぁ……」
私は今、棍棒を持った大きなオーガに囲まれていた。
こんな状況になっているのはあのバカ貴族の奴隷になり、バカ貴族が調子に乗ってバカ騒ぎをしたせいだ。
「…はぁ…ちっ、くらえ!」
オーガの攻撃を避けながら、剣で足を斬りつけた。
「ガァァァッ…」
オーガが苦痛で叫んだ。
「はぁ…はぁ…がっはッッ!!」
後ろから殴られ、壁に打ち付けられた。
「くそっ…体が…動か…ない…」
私はここで終わるのか?
魔族だからといって、私の父や母…一族を殺されて…女、子供は奴隷にされて…
「…死にた…くな…い」
何かが頬を伝った。
「なら、助けてやろう」
……… シュッ……………ドッ
私の前には一人の男が立っていた。
~嵐~
嵐たちは物凄い速さで走っていた。
「ここの迷宮は道が歪だな。時間がかかる」
「でも、もう着きますよ」
ラウがそう言うと道が開けて、広場へ出た。
そこには多くのオーガで埋めつくされていた。
「どうすれば、ここまで集まって来るのでしょうか?」
「そんなことはいい、あの中にいるのを助けるぞ」
嵐たちは走り出し、群がっているオーガを倒していった。否、虐殺した。
オーガたちは嵐たちの存在に気付くも嵐たちの動きについていけず、なす術もなく打倒されていった。
数にして、50体以上のオーガたちが1分もかからず倒された。
そんな突然の事実に目の前の女は何が何んだかという表情でこちらを見ていた。
「おい、大丈夫か?」
「ッッ!」
「ああ~、肋骨とかやられてるのか?」
嵐はそう言いながら、女の体に触るように手を添えた。
女は何か言うように口をパクパクしている。
嵐の手からは淡い光が放たれる。そうしていると、女の子の傷がじわじわと消えて行き、完全に回復した。
「はっ」
女は回復したと同時に剣を嵐に降ろした。
だが、何も無かったように嵐は剣を指二本で受け止めた。
「くっ!!」
女は顔を顰めた。
《スティール・チェーン》
嵐がそう呟くと何所からとももなく、鉄の鎖が出現し、女を縛り上げる、
「??」
女は何が起きたか分からず、惚けた表情をした。
「助けた恩人に剣をくれるとはどうしてだ?」
「お前が人間だからだ!お前たち人間が私たち魔族を殺し、奴隷にしたからだ!」
「そうか…」
嵐は顎に手を当て、何かを考え込んだ。
今から数年前、帝国が勇者たちと魔族との戦争があった。
魔族も抵抗をしたが、魔王を勇者に倒され、降伏という結末で終わった。
その後の魔族たちは奴隷にされる又は迫害されていった。
人間の中には魔族への迫害や奴隷制度を訴える者もいたが、ことごとく潰された。
この女も奴隷にされたのだろう。
女は変わらず、こちらを睨みつけてくる。
「まぁ、そんなに睨むな」
「・・・・」
「はぁ~、どうするかな?」
嵐は考えていた。この女をどうするかと。
「…何故…?」
女は俯きながら呟いた。
「ん?」
「何故…私を助けたのだ?」
「何となく?」
「魔族なのに?」
「そんなの関係ない…お前が死にたくないと言ったからだ」
そう言うと女は鎖から解き放たれ、地面に座り込んだ。
~???~
女は思った。
私は魔族だからといつも蔑まれ、罵られたり、殴られたりした。
でも、この人は人間、魔族関係なく、私を見てくれるようだ。
私はいつも、寂しく、恐怖して生きてきた。
寒くてもいつも一人だった…
人間を見ると恐怖が募った…
いつか失ったものに似ていた。
そのためか、私はこの人が愛おしく思えた。
「お前はどうしたい?」
彼は優しく私に声を掛けた。
私は顔を上げ、彼の顔を見た。
「お前が良ければ、一緒に行かないか?」
彼は穏やかな笑みを浮かべ、手を差し出した。
私は自然と彼の手を取り……泣き出した…。
~魔物~
[キラー・ビー]
・体長50センチ程で蜂の姿をしている。
・攻撃方法は尻の先の針で攻撃する。
だが、キラー・ビーには毒を持っていないので刺されても痛いだけである。
・動きは思ったよりも遅い。
・数十匹の群で行動している。
・単体のランクはFランク。
・群れの場合はEランク。
[オーガ]
・体長2メートル後半程で人の体型をしている。
・オーガは力は強いが動きはあまり速くない。
・一匹で行動しているのが多い。
・単体ではCランク。