47.謎がまだ一つ残っている
その後、カタリナとノアルスイユ、管理人は改めて本館へ向かった。
サン・ラザール公爵家の学芸員、それに宣伝とチケット販売を委託する新聞社の営業の者と合流して、実際に部屋を巡りながら打ち合わせをする。
アルフォンスの外遊に随行して、他国の王宮や博物館、美術館をあちこち見学したことのあるノアルスイユもちょいちょい利用者視点からアイデアを出した。
あれやこれやの議論の末、大まかに時代ごとに分けて展示し、この別邸を設計したボアンヴィルの業績紹介にも一室を充て、付近に飲食できるところがないので、別棟の隠居所で茶と軽食を提供するのがよろしかろうということになった。
ついでに美術展やトレヴィーユ荘の土産物の話もする。
美術展の土産物と言えば、豪奢な図録や受注制作のレプリカが鉄板だが、カタリナが絵皿や絵葉書の話をすると、買いやすい価格のものが色々あるのも良いかもしれないと新聞社の営業が食いつき、工房をいくつか紹介してもらう話になった。
そんなこんなで、打ち合わせが終わり──
夕刻、カタリナの馬車の中で、ノアルスイユは謎がまだ一つ残っていることを思い出した。
「そういえば、エリザベートとニコルの霊はどうやって出したんです?
殿下かと思って、こそっとうかがったら、本当にふわっと眠くなって、気がついたらみんな変な空気だったけれど、もしかしていびきでも聞こえてたのか?とか素でおっしゃっていましたが」
カタリナの眼が泳いだ。
「アレに関してはわたくしはなにも。
もしかして、イザベル副院長が気を利かせて?と思ったのよ。
けれど、彼女は普通にエリザベートとニコルの霊だと思っていたって」
「念のため聞きますが、ほんとのほんとのほんとのほんとにあなたの仕込みじゃないんですね?」
既に、カタリナは「マリー・テレーズの亡霊」は自分が魔道具で作り出したと認めている。
ノアルスイユは、くいいいっと眼鏡を押し上げながら追求した。
「違うって言ってるじゃないの!
第一、エリザベート?の声と、ニコル?の声はかぶっていたじゃない。
いくらわたくしでも、同時に二つの声は出せないわ」
それもそうか、とノアルスイユは頷いた。
魔法を使わなければ、あんな派手な現象は起こせない。
しかも、魔法を使える人物が二人いなければ無理だということだ。
降霊会に参加した者のうち、魔法が使えたのはカタリナとアルフォンス、ノアルスイユ、イザベル副院長とシャルル、そしてクリフォード達アルフォンスの護衛達。
イザベル副院長とシャルルが組むはずもなく、たまたまアルフォンスに従って来ただけの護衛が、おどろおどろしい亡霊を出してみせるいわれもない。
マリー・テレーズが実は館に潜んでいたとしても、エリザベートとニコルの二役を同時に演じるのは無理だ。
ということは──
「じゃああの館、やっぱりエリザベートとニコルの幽霊が現役で出るってことじゃないですか!!」
思わずノアルスイユは叫んだ。
「ああああれは殿下がいらして、それっぽい呪文を唱えたりしたから出たんであって、普段は出ないと思うから。
フレネーも、十五年も管理人をやっていて、幽霊なんて初めて見たって後でぼそっと言っていたし!」
カタリナは、引きつった顔でもがもがと否定する。
「でも、サン・ラザールの美術展、両殿下は絶対に鑑賞されるじゃないですか。
もしお二人をお迎えした時に、アルフォンス殿下の霊力?に反応してエリザベートとニコルの亡霊がまた出たらどーするんです!?
どうせ国内外の新聞社、呼べるだけ呼ぶつもりでしょう!?」
え、とカタリナは一瞬固まった。
「ままま、大丈夫よ。きっと!
そもそも幽霊なんているわけがないじゃない。
降霊会の時のアレは、殿下の古代魔導語のセリフがソレっぽかったせいで発生した集団幻覚とかなんとか、そういうことに決まってるわ!」
無理やり笑顔を作って、カタリナは断言してみせる。
ん?とノアルスイユは首を傾げた。
さっきから、カタリナの反応がちょいちょいおかしい。
もしかして、豪胆なようでいて、カタリナもおばけが怖い勢なのだろうか。
ノアルスイユはきらんと眼鏡を閃かせた。
自分も幽霊は苦手だが、他人を怖がらせるのはむしろ好きだ。
というより、恐怖をごまかすには、人を怖がらせるのが一番てっとり早い。
「……あ」
「な、なによ?」
「シャルルを倒した雷、私達はてっきりマリー・テレーズが魔石に籠めた魔力だと思ってましたが。
いくらなんでも長持ちしすぎじゃないですか?」
「あー……よくもまだ魔力が残ってたわね、とは思ったけれど」
「もしかしたら、あれはエリザベートとニコルの力だったのではありませんか?
あの二人はずっとあの館にいて、殿下のお力でようやく顕現することができた。
殿下がお目覚めになった時に姿は消えましたが、別に祓われたわけじゃないんですから、あの場にとどまっていた。
そして、自分たちを殺したのはシャルルだと悟り、ペンダントの発動に力を貸して復讐した。
そういうことじゃないんですか?」
ままままさかそんな、とカタリナは引きつった半笑いをかろうじて浮かべる。
「いやいやいや、ちょっと待って!
亡霊なんているわけがないじゃないの!!
ありえないわ!!」
「じゃああなた、あの館に住めますか?
彼女たちは、まだあそこにいるんですよ」
ノアルスイユは半眼になって問うた。
「絶対に絶対に厭!!」
カタリナは悲鳴をあげた。
カタリナ「つたない作品をご覧いただき、まことにありがとうございました! いずれ『公爵令嬢カタリナの婚活』(仮題)でお目にかかりましょう!」(華麗にカーテシー)
ノアルスイユ「ま、またやるんですか!?」(白目)
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ちなみに作者、ミステリは3作目ですが、「ほんまにこれが推理小説として成り立っとるんじゃろうか」とビクビクしていおります……
「まぁアリじゃね?」と思って下さった方は、評価なり感想なり頂けますと、助かります。
特に、誰をどういう理由で疑っていたか(あるいは疑っていなかったか)などご教示いただけますと勉強になると思うので、ぜひよろしくお願いいたします!
【「公爵令嬢カタリナ」シリーズ(異世界恋愛×ミステリー)】
第一作:公爵令嬢カタリナの災難──国一番の金持ち公爵家に生まれ、美貌も人望も同世代No.1。当然、わたくしが王太子妃よね?と思っていたら、人生がとんでもない方向に吹っ飛んでいくようです──
https://ncode.syosetu.com/n5065hp/
※カタリナが真面目に悪役令嬢をやっている世界線のお話です。
第二作:公爵令嬢カタリナの推理──王太子妃候補2人+愛されピンク髪男爵令嬢が王立歌劇場で大激突☆から発生した不可能犯罪を、華麗に解決してご覧に入れますわ!
https://ncode.syosetu.com/n1040hu/
※カタリナとジュスティーヌが王太子妃候補としてガチで争っている世界線のお話です。
※正直、トリックや恋愛ドラマとしての濃度はこれが一番かなと思っているのですが、あまりご覧いただけていない悲しみ……
第四作:公爵令嬢カタリナの事件簿/「一度も泣かない赤ちゃん」の謎
https://ncode.syosetu.com/n1083ie/
1万字ちょいの短編?中編?
本作の2年前、前日譚に当たるお話です。
ノアルスイユが、なんでカタリナに怯えているかちょっとわかるかも…?
第五作:公爵令嬢カタリナの事件簿/悪女オランピアの肖像
https://ncode.syosetu.com/n5218ig/
4万4千字の中編(2023/6/28完結予定)
本作の4年前、前日譚に当たるお話です。
カタリナのバディはノアルスイユの初恋の人・ピンク髪光属性持ちの元男爵令嬢ジュリエット。
悪役令嬢タイプのカタリナと、下剋上ヒロインタイプのジュリエットのツッコミどころが多すぎるかけあいをお楽しみいただけたら幸いです!
※いずれも「王太子アルフォンスが雑な扱いを受ける短編とか中編」(https://ncode.syosetu.com/s2814g/)のスピンアウト作品です。推理要素のない異世界恋愛話もお好きでしたらついでにぜひ…!
<2023.5.23追記>
アルフォンス「ところで、『いいね』の件はどうなったのかな?」
ノアルスイユ「ああああ、そうでしたそうでした!
・レディ・カタリナがイザベル副修道院長にドナドナされ、「『自業自得やろ』と思った方はぜひいいねを!」と私がお願いした回に、いいねをくださった方は、23名
・「ポンコツ眼鏡よりも先に、管理人の妻がマリー・テレーズだと気がついた方は、いいねをくださいますかしら?」とレディ・カタリナが煽った回では20名
ということで、私の勝利!私の勝利です!!!」(眼鏡クイイイイ)
カタリナ「きいいいいい…どういうこと!?」




