死者たちの国3
「なっ……」
思わず言葉に詰まる。
「勿論無茶な作戦だ。いや、作戦などと呼べるような代物ではない。ことによるとただ全員で死にに行くだけかもしれない」
その事は提唱者にも自覚はあったらしい。
だがその口ぶりは、それを撤回するつもりはないという事をしっかりと表していた。
――そしてオプティマル・エンフォーサーの存在理由=次元跳躍エレベーターの隠匿と抹消のためには、それが最善の手だと思われた。
可能性の極めて低い、ほとんど自殺のような作戦。
それが唯一目的を達成できる方法だ。
「だが、ここを逃せば今後チャンスはないだろう。……シュティレン起爆の予定は?」
「12月10日。明後日だ。午前0時に一斉起爆する」
奥園の答えにビショップさんは小さく頷く。
「後一日と数時間だ。それまでに終わらせなければ、我々の知るこの世界はなくなる。その後では不可能だし、第一我々がその瞬間を生き延びられる保証がない」
成功の可能性は極めて低く、しかし失敗した場合のリスクはあまりに大きい。
なんの旨味もない。
――だが、旨味なんてものは当初からないのだ。北ヴィンセント島が焼き払われて以来、金になる戦いなどではなかった。
「……他にないのなら」
口を突いた言葉は、自分でも驚くほど落ち着いていた。
そう。最早旨味などなにもない。
あるのはただオプティマル・エンフォーサーの存在理由と、報復の意思だけ。
「そうですね」
「賛成です」
「やりましょう」
全員一致。
ここまで来てしまえば、もう引き返すことはできない。
全員の意見を確認後、ビショップさんがエドを呼び出した。
「聞いていたな?」
「分かっています。今調査中。中の様子が分かり次第お伝えします」
「頼んだ」
どうやらエドは俺たちがその作戦に乗るところまで読んでいたようだ。
「諸君、ありがとう」
再び俺たちに向けられたその眼は穏やかで、敬意をもったものだった。
その間もレイヴンは飛び続け、やがて川から離れて陸地に向かい始める。
変わり果ててしまってよく分からないが、千住集積所と言っていたことから、大量のトラックとヘリ、そしてその横に並べられた貨物列車からして、恐らくここがこちらの世界の千住の辺りなのだろう。
その上空を通過して、板橋方向に向かって飛び続ける。
機内では既に作戦が決まっていた。
と言ってもどうという話でもない。これを降りたら奥園の指示通り新宿に向かい、オブライエンに始末をつける。
その後は立川基地に向かい、その地下にある議会にシュティレンを設置して爆破する。
問題は、詳しいルートや詳細な内部の様子がまだ分かっていないことだ。
エドは急ピッチで進めているが、どういう結果になるのかは全く予想がつかない。
とりあえず今は何にせよ基地の情報が入るまでは待つしかないと言ったところだ。
そしてそれが俺の用事の最後のチャンスだった。
「なあ」
「何か?」
改めて奴に尋ねる。
「個人的な事なんだが、一つ教えてほしい」
無言で先を促す――言ってみろ。
「高森祐実菜という女性に覚えは?」
「……知らないな」
少しの間。
「そんな筈はないな。大学で同じサークルにいた」
「……それが何か?」
「その娘が自殺したってことも知っているな」
無言――肯定と判断し続ける。
「あの娘と俺は付き合いがあった。自殺するような理由は思いつかない。……サークルで何があった?」
「それこそ知らない。サークルでもそんな事は分からなかった」
嘘だ。サークルを抜けようとして自殺した。状況証拠としては十分だ。
前に調べた時にこいつが関わっていたかどうかは定かではなかったが、少なくともサークルには所属していたのだ。知らなかったはずがない。
即座に否定された所で角田さんが口を挟んだ。
「そのサークルって城北国際大学のオリーブ会議か?」
「あ、わかります?」
「ああ。前の仕事辞めた後、暇を持て余してネットサーフィンしていた時にな、その事件が結構話題になっていたのを覚えていたもんでね」
その瞬間の奥園が見せた表情の変化を俺は見逃さなかった。
ほんの一瞬、しかし確実に奴の顔は変わっていた――余計なことを言うな、と。
「オリーブ会議ってたしかあれだ。ボランティアサークルだったのが突然政治活動するようになったって奴。確か逮捕者も出した」
「だったとしても、俺は彼女の死には関係ない」
それはきっと角田さんの助け舟だったのだろう。
なら俺はそれに乗っかるだけだ。
「俺は、か。つまりサークルは関係ある?」
「それは……、彼女も所属していた以上無関係という事はないだろう。だが、それだけだ」
「そう言えば、これもネットに書いてあったんだけどさ」
再び角田さん。
「あのサークル、脱退しようとした人間を追い詰めていたって話じゃない。それが関係しているってことは?」
俺が在学中に伝え聞いた話はネットにばら撒かれていたようだ。
「それはっ……、それは関係ない。追い詰めていたなんて心外だ!」
そしてそう叫び返した時の奥園のリアクションとその慌てふためいた様子は、その話の真偽のほどを物語っていた。
その様子を傍目に、角田さんは俺の方に目を向ける。
「トーマ、その高森って子はどんな子なんだ?」
「そうですね……。明るくて、真面目な子でした。教師になりたいと言っていた」
「追い詰めるのが一番効くタイプじゃないか。大方、家族にも危害が及ぶとか何とか仄めかしたんだろう」
「説得だ!あれは説得だった!俺はあの娘を……」
奴が発狂したように叫び出し、そして言葉に詰まる。
その後に続く言葉が何だったのかは、もう誰にも分からない。
俺たちの言葉は、大音量で響き渡るアラートにかき消され、同時にほぼ90度に近く左にロールし始めた。
「なんだ!?」
連続して何かが吐き出される音。
慌てて自分の席に戻り、シートベルトで体を縛り付けながら、俺は窓の外にいくつもの火の玉が舞っているのを見た。
そしてその火の玉の中に一筋の光が飛び込んでいくのも。
フレアだ。
そしてそこに突っ込んだSAMだ。
という事は――。
その結論に達するよりも、そのフレアの切れ目に飛び込んだ一発が機体を大きく揺さぶる方が速かった。
「被弾した!」
操縦席から叫び声。
ロールを辞めつつあった機体ががくん、と落ちるように高度を下げ、そして世界が回り始めた。
(つづく)
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今日は短め
続きは明日に




