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死者たちの国2

 その廃墟の中を流れている川を遡るように、レイヴンは飛び続ける。

 川の左右はかつて存在したビルや工場や高速道路が、今や残骸となって無茶苦茶に折り重なって倒れており、元がどういう場所で、どこに何があったのかなど最早誰にも分かりそうになかった。


 「それで、俺たちをオブライエンの下に案内してお前はどうする気だ?」

 「どうもしない」

 きっぱりと言い切る奥園。

 「というか、何も出来ないというのが正確かな」

 そう付け加えてから、彼は再びデバイスを操作して統合共同体議会を表示する。

 「議会に直接呼びかけてはいるけど、残念ながら応答がない。……恐らくオブライエンに妨害されている」

 「どうだかな。直接呼びかけるためのホットラインだろう」

 ビショップさんがそう突っ込む。

 今の答え。そしてそれを口にするまでの微妙な間。

 恐らく、この男は事実を認めたくない。自分が公社に、不破戸代表から用済みとして切られているという事を。


 「まあいい。お前の権限はこの機体の中以外では既にはく奪されているという事だけで十分だ」

 それ以上の詮索は無意味だろう。

 必要なのは、こいつの号令で兵が動くという事がもうないという事。

 つまり、俺たちがオブライエンを始末したとして、用済みになった俺たちを消すことは出来ないという事だ。


 「そこで次の質問だが、単刀直入に聞くぞ。公社、そして統合共同体は次元跳躍エレベーターの存在をどこまで知っている?」

 「……意味があるとは思えない質問――」

 直感:拗ねている。

 奴自身が一番自分の置かれた状況を理解しているだろう。

 そしてそれゆえに、それを認めたくないのだ。自分はもう終わりつつあるという事実を。

 だが同時に我々には彼のその境遇を憐れんでいる時間も、その義理もない。奴からとれるだけ情報を搾り取る以外には話をする必要もないのだ。


 その捨て鉢な言葉を言いかけたところでビショップさんが手を上げ、併せて奥園の眉間に角田さんが拳銃を押し付ける。

 「意味、か。答えなければ君を殺すというのはどうだね?」

 「……できる訳がない」

 「そうかな?」

 無言でトリガーに指を乗せる角田さん。

 「その男の目を見ろ。命令があればやる」

 「……」

 「……クソッたれ」

 一瞬の沈黙。ビショップさんの深いため息。

 「成程大したものだ。君は銃などには屈しないという事か……。立たせろ。こっちに連れてこい」

 指示と同時に踵を返すビショップさん。その向かう先には尾翼の真下に設けられている後部ハッチのスイッチ。

 赤いランプが点灯しているが、その下にあるカバーを開けてボタンを押すと、表示が青に切り替わる。


 「!?」

 音、風、そして突如として暗い機内に現れる、眼下を流れるオレンジの川。

 「残念だったな。弾が勿体ない」

 角田さんがそう言いながら奥園の奥襟を掴んで後部へ引きずっていく。

 「できる訳がない……はったりだ……」

 「お前がダメならオブライエンに聞くさ」

 完全に開いたハッチの前。慣れた手つきで安全帯を繋いでいたビショップさんと、そこに奥園を引っ立てていく角田さん。


 「そんなものに屈しないぞ……」

 言いながら、しかし角田さんが手を離せばそのまま尻もちをつきそうな奥園の声が、凄まじい風とローター音にかき消されていく。

 一歩、また一歩、スカイダイビングが近づいてくる。


 「……ッ!!わっ、分かった!分かったよ!!」

 「閉めよう。寒い」

 先程までの巻き戻しのようにハッチが閉じていく。

 あと少しでそこから放り出されるところだった奥園がその場にへたり込む。


 「で、どうなんだ?」

 そしてそんな事実は存在しないかのようにビショップさんが尋ねる。

 奥園の前に腰を下ろして正面から顔を睨みつけながら。

 「……持っているよ。というか、既に一基建造して運用していた」

 全員の表情が強張る。

 最悪の展開:核や生化学兵器。ナノマシンのような大量破壊兵器やシュティレンがあちらの世界に送り込まれた。


 もしそうならとんでもない事になる。

 当然ながら、異なる世界と行き来できるなんて話は向こうでは誰も信じていない。

 つまり、誰も警戒していない所にいくらでも持ち込み放題という訳だ。


 「どこだ」

 「北ヴィンセント島。あんたらの知らない場所だ」

 「それはまだ稼働しているのか?」

 「俺が公社とやり取りするために、O・Eの上層部が使わせていた。上層部が公社に流出させたデータを基に、あんたらの会社の中にあったものとほぼ同じものをな。島を焼き払った後は使われてはいないが、地下深くにあるんだ。まだ残っているかもな」

 随分近くにあったらしい。

 「初めて聞く話だな」

 「俺は存在しない人間だった。元の世界で俺は正当な評価を受けていなかった。その時に上層部が公社と繋がるための連絡役として俺を呼び、それでこっちに来たからな。一切の記録に存在しない」

 そこで初めて合点がいった。

 キングさんにこいつの事を聞いた時、どこにも記録が存在しなかった理由が。


 「それで、統合共同体はエレベーターの技術を手に入れてどうしている?」

 「あまり興味は示さなかった。だが、危険性だけは理解していたようだ。三大国に流出させず、自分たちの中にだけ留めて置いている。オンラインで閲覧できる状況ではなく、スタンドアローンで」

 つまり、ハッキングで盗み見る事は不可能。

 そこだけは少しだけ安心できる。

 「ならどこにある」

 「それは……分からない。本当だ。奴らは確かにその情報を持ってはいるが、あの地下施設のどこにどうやって隠したのかは分からないんだ。手に入れたものを議会がどうするかはトップシークレットだった」

 「なら、その地下施設にある事だけは確かなんだな?」

 「ああ。そうだ……」

 ビショップさんが立ちあがり、俺たちの方に目をやる。

 次元跳躍エレベーターへの対策を練り、俺たちの世界との繋がりを断つ――最初に彼の元を訪れた時に聞いたオプティマル・エンフォーサーの理念が頭の中に蘇る。

 と言っても、どうしていいか分からない。


 どういう形か分からないが保存しているらしいものを、未知の地下施設に踏み込んで探し出して廃棄せよというとんでもない難題。

 いや、難題ではない。不可能だ。


 「……俺が思いつくのは一つだけだ」

 俺たち全員が同じ結論に達したことは、ビショップさん以外の全員と目が合った時に分かった。

 そしてその全員が持っていない答えをビショップさんが持っていることも、その発言で理解できた。


 「どういう事です?」

 俺の問いにビショップさんは奥園が表示した地下の立方体を見ながら答える。

 「要するに、どこにあるのか分からないとは言えこの地下施設のどこかには間違いなくエレベーターの技術を保管している場所があるという事だ」

 条件を整理すればそういう事だが、それで簡単になったとは全く思えない。


 「つまり、この地下施設全体を破壊すればそれで事足りるという訳だ」

 「えっ……」

 思わず言葉に詰まる。

 聞き間違いを疑う方法。だが、同じような周囲の反応を見るに恐らく俺の耳は正確だった。

 「歩兵が携行して持ち込み、確実に施設ごと破壊出来る兵器。我々は一つ持っている」

 全員の目が再度一斉に動く。ゆっくり、恐る恐る。その発言者の横に置かれている代物に。


 「まさかとは思いますが……」

 「そのまさかだよ。手元にある装備で最もそれが出来る可能性が高い」

 答えながら、ビショップさんは自身の横に置かれたケースに手を添え、そしてその破壊が可能な唯一の装備と、その使い方を俺たちに伝えた。

 「議会にシュティレンを設置し、連中ごと爆破する」


(つづく)

都合により今日は予約投稿します

続きは明日に


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