かの地へ38
「それにしても、流石はミスターオブライエンだ。あんたらの動きを正確に読んでいたとはな」
奥園が呟く。
そのぼそりと漏らしただけの言葉でも、登場した名前にシロが反応を示した。
「……ッ!!オブライエンがここに!?」
その発言に向けられたのはマイクではなく銃口。
余計な口を利くな――公社兵が無言で牽制する。
「ミスターオブライエンに用があるのか。……まあいい」
流石はと言いながら、実際にはそこまで感心した様子はない。
こいつとオブライエンとの関係がどういうものだったのかは分からないが、少なくともこいつはシロがかつて彼に対して抱いていただろう感情とは異なるものを抱いているのだろう。
「さて、分かっているよな」
奴が催促するように銃口でこちらを指す。
それでも黙っていると、大儀そうに要求を告げた。
「武器を捨てろ。全員だ」
「奥園……」
名前を呼ばれた事がひどく意外だったようで、少し驚いたような表情が俺を見返す。
「どこかで会ったかな?あんた達オプティマル・エンフォーサーだろう?俺の事を知っているとは思えなかったが……」
最後の方は何を言っているのか分からなかったが、口の中でぶつぶつ何かを言って納得したようだった。
「まあいい。どこの誰でも、だ。武器を捨てて降伏しろ」
周囲に視線を走らせる。
正面には奴。その左右に護衛の公社兵。
そして斜面になっている席の方にも数名の公社兵が散開している。
――当然、それらは全員武装していて、皆俺たちの方に銃口を向けている。
ならば、今は従うしかない。
「……ッ」
ゆっくりと片方の膝をつき、その場にライフルを置く。
「それだけじゃないだろう。拳銃とナイフもだ」
まあ、そうだろう。
言われた通りにしようとした瞬間、耳に聞こえてくるのはエドの声。
「アルファチーム、突入したのは見えたが、どうなった?」
この部屋にはカメラが設置されていない。
そのため中の様子は見えていないようだ。
「……いや、答えなくていい。リモートスナイパーで確認した」
先程の奴の警告を思い出す。外に設置されたリモートスナイパー=無線で操作できる狙撃銃は即席の望遠鏡として使える。
俺たちが突入したのとは反対側の壁には窓が設けられており、恐らくその向こうから部屋の中を伺っているのだろう。
「そのまま頭の後ろで手を組め」
今度はインカムの外からの声=奥園の指示。
それに合わせてエドの声が続く。
「そっちの様子は分かった。合図したら伏せろ」
エドはリモートスナイパーを掌握している。
何が起きるのか、何をしようとしているのかの説明は不要だ。
なら言われた通りにするより他にない。
「足を片方ずつ床に着け。ゆっくりとうつ伏せになるんだ」
奥園が気づいた様子はない。
俺たち全員が指示に従っているのを見て、すまし顔でも勝ち誇っているのを隠しきれていない。
指示通り両手を頭の後ろで組んだままできるだけ時間をかけてゆっくり、ゆっくりと左膝を床に着ける。
それから今度は右足。こちらもゆっくりと膝を床に近づけていく。
と、そこでインカムに声。
「3つ数えて撃つ。3……2……」
時間が来た。声の聞こえている間中改めて周囲に目をやる。
公社兵たちは俺たちに集中している。少しでも不審な動きをしたら容赦なく撃つために。
そしてそのためには、俺たちの一挙手一投足から目を離すことができない。
当然、窓の外の自分たちの設置した警備用のリモートスナイパーがジャックされているとは思はない。
「……1!」
一気に腹ばいの姿勢をとると、同時に甲高い音が室内に響いた。
「なんだ……?」
様子は見えないが、奥園の声が明らかに変わる。
そしてがたんと、何か質量のあるものがぶつかる音。
それが公社兵が狙撃に倒れた事を示すものだという事は、顔を上げた瞬間に飛び込んできた映像で理解した。
始めて俺たちの方以外を見ている公社兵たち。
何も見えない――先程まで公社兵がもう一人立っていた――場所に目をやったまま、その周囲の連中も立て続けに倒れていく。
「狙撃だ!!」
奥園が叫ぶ。ここにきてようやく状況を理解したようだ。
彼を守ろうとしたのか、或いはただ単にスナイパーから逃れようとしたのか、演壇の方に駆け下りてくる公社兵が万歳のような姿勢で前のめりに倒れる。
「クソッ!」
毒づいた奥園が背中を向け、俺たちの入ってきたのとは反対の扉に飛び掛かった。
「ちぃっ!逃がした!」
「充分だ!助かった!!」
手放した自分の装備を拾い上げながら、インカムに叫び返して俺たちは立ち上がった。
形勢は再度逆転。逃げる奥園を追って奴の消えた扉を蹴り開ける。
「奴は廊下を走って武器庫方面に逃げている。まだそう遠くないぞ」
エドの声の通り、廊下を走っていく奥園の背中が、途中の分岐で左に曲がるのが、外に飛び出した瞬間に目に入った。
「待て!」
叫びながら俺たちも走る。
奴の折れた分岐の手前でインカムに警告。
「気をつけろ!その角から敵兵が二人接近中だ」
そしてそれが聞こえた時には、体は慣性でその角に侵入しており、その警告通りに飛び出してきた公社兵と出会い頭に遭遇していた。
「どけ!」
こちらに向けようとしたライフルに体ごとぶつかって銃口を逸らすと、そのままの勢いでハンドガードを掴み、もぎ取るようにライフルをはたき落す。
すぐさまセカンダリーにスイッチした相手の腕を掴み、腕がらみのような姿勢になりつつ相手の動きを封じる。
そのまま手は拳銃を握ったままの相手の手へ。
抵抗する体勢が整う前に――そして後続のもう一人が先行した同僚を救うためこちらに銃口を向けるより速く、コントロールを奪った拳銃を至近距離から発砲する。
ボディーアーマーに当たったが、それでも怯ませる位なら十分だ。
そしてその一瞬の間に次弾を叩き込む。
今度はやや上に狙いを修正。確実に頭に撃ち込んで仕留める。
「ッ!」
そこで掴んでいた相手が本格的な抵抗を試みようとし始めたのを察し、腕を極めて拳銃をもぎ取りつつ拘束を解除して一歩跳び下がる。
つまり、拳銃を向けつつも手で銃を押さえられないギリギリの距離だ。
その事に気づいた瞬間の奴にも、同僚と同じ場所に穴をあけて無力化。
崩れ落ちていくそいつの向こうに、角を右に曲がる奥園の背中が見えた。
(つづく)
今日は短め
続きは明日に




