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99.平和の祭典3日目

平和の祭典式典当日。

この日は大聖堂で平和の祈りが行われる。式典は大司教が主導し、メールスブルグ国王以下、貴賓は豪華な顔ぶれだ。

僕達の国でも今頃、同じように大聖堂をはじめとして各地の礼拝堂で一斉に祈りが捧げられているだろう。

僕達は、今年はこの国の大聖堂での祈りに参加する。


僕はギルと一緒に歩いてくるエレンを目に留めると早速声をかけた。

「エレン!気分はどう?」

「もう大丈夫よ」

「……」

気のせいか?何だかエレンの態度がいつもより素っ気ない気がする。

「エレン?本当に大丈夫?」

「ええ」

大丈夫じゃない。これは……何か怒ってる?

「えと……僕何かした?」

「何も」

エレンの言葉とは裏腹に、僕は何かしたんだろう。

思い当たる節は……。

「式典が終わったら時間とれる?ごめんね、エレンが話したいって言っていたのに中々時間が取れなくて」

「それは……もういいの」

首をふるふると横にふるエレン。

「でも真剣な話なんでしょう?今更だけど……ちゃんと聞くよ」

エレンは僕にそう言われてちょっと困ったようだった。

僕達2人の様子を見かねてギルが助け船を出してくれた。

「エレン、舞踏会前だったら時間が取れるだろう。ウィルはずっと気にしてたのだから」

ギルがエレンを諭すように言った。

「そう、ね。わかったわ。では式典の後で」

エレンはようやく頷いたけど、あまり乗り気ではない様子が引っかかる。


式典の間、祈りは何処へやら。僕はずっとエレンの態度について考えていた。

舞踏会初日であんなに切羽詰まって話したいって言っていたのに……。舞踏会初日という事は、きっと舞踏会関連の悩みだったのだろう。もう既に最終日なので、確かに今更話しても微妙なのかもしれない。


「あのタイミングで悩みなんて……決まってるか」

つまりは、誰を選ぶか、だろう。

僕は少しだけ大聖堂の天井を見上げて嘆息する。

エレンのダンスのお相手……それはそのまま彼女の婚約者候補でもある。

ギルだって言っていたじゃないか。エレンを放っておく男なんかいない。

きっと、エレンは多すぎる相手に困惑していたんだ。

でも……と、昨日の馬上槍試合を思い出す。そして、夜の舞踏会の事も。


きっと……エレンはカイン様に決めたんだ。


そう思った瞬間、何故だか胸がチクリと痛んだ気がして、僕は目を閉じた。大司教の祈りの言葉が聖堂に木霊している。


エレンのさっきの態度からするに、今更僕が話を聞くと言っても遅すぎたんだろう。

エレンの悩みはとっくに解決したんだ。



「はあ……。何話そう……」

式典が終わり、重い足取りでエレンの元へ向かう。

もう結論が出ていることなのに。

きっとエレンも僕と同じ思いなんだろう。いや、最初に話があるって言い出したのはエレンだから、エレンの方が気まずい思いをしているかも。だからあんな態度だったんだな。

エレンがああなのに、僕までこんなんじゃいけないよな。

思い直して待ち合わせの庭園に行くと、エレンは先に来て僕を待っていた。


「エレン、待った?」

「ううん、全然。今来たところ」

そのまま僕達は庭園を散歩がてら話し始める。

「今日が終われば帰れるね。僕はもう疲れた」

「私も疲れたわ」

「学園に戻れば、騒がしいけどまだ落ち着ける」

「ルークは戻ってくるのかしら」

「……たぶん」

話しているうちに気まずさがどこかへ消えていく。

「……中々話す機会を作れなくてごめん。話したいことって舞踏会に関係することだよね?あのタイミングで言われたら、考えたら分かりそうなものだったのに……。最終日になっちゃって」

「ウィルだって色々あるのに、私こそごめんなさい。婚約者候補とか、王女らしく、って頭ではわかってたつもりだけど戸惑ってしまったの。でももう大丈夫……のつもり」

大丈夫……か。思わず口が滑る。

「エレンはもう決めたんでしょう?」


「……ウィルはどう思う?」

ふと気づくとエレンは真剣な面持ちで僕の事をじっと見ている。僕は息を飲み込むと、一気に言葉を紡いだ。

「カイン様なら、誰も文句言わないよ」

エレンの視線は僕を向いたまま。躊躇いがちに、確かめるように再度僕に訊ねる。

「……誰も?」

「ん、誰も。自信持っていいと思う」

エレンの判断は正しい。それを伝えたくて、僕はいつにも増してシリアス顔で応えた。

「……そうね」

少しの沈黙の後でエレンが静かに言う。

視線はもう僕ではなくどこか遠くを見ていた。


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