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100.平和の祭典3日目(エレノア視点)

この国に来てから、あんなに会って話したいと思っていたウィル。

ようやく話せる状況になったというのに、何故か乗り気がしなかった。お兄様に言われて約束をしたから、気が進まないままに待ち合わせ場所を訪れた。

きっと、この後言われることを無意識に予感していたのかもしれない。


ウィルにはっきりと婚約者候補を勧められた。

それはつまりそう言う事なんだろう……。

ここ数日は散々だわと思いながら、早くこの場を立ち去りたい気持ちでいっぱいになり、ウィルを見上げた。


「エレン、どうかした?他にも何か不安がある?」

「……」

心配そうに私の事を覗きこむウィル。

小さい時からの癖だ。何時でもどんな状況でも必ず目線の高さを合わせて、まず私の話を聞こうとしてくれる。私はそれに安心して何時も優しい彼に頼りきっていた。

ても、今はそんなウィルの態度が辛い。

いつもだったら話せると嬉しくて、自分の事を見てくれているのも幸せで……でも今は辛い。

いろんな気持ちがごちゃ混ぜになって、泣いてしまいそうになる。

「大丈夫。婚約者を決めても急にはそんなに変わらないはずだよ。変化は起こるけれどゆっくり慣れていけばいいんだから」

ウィルは、私の目の前に開けている新しい環境に私が不安を感じてると思ったみたいだ。

そうではないのだけれど、否定もできない。それに、今なにか声を出そうものなら本当に泣き出してしまいそうだった。



そんな時、少し離れた所から女の人の声がした。

「ウィリアム様、探しましたよ!」

庭園の門から、1人の女性が走ってきた。あれは……


「カトリーヌ嬢!?げっ」

「げ?」

ウィルを見ると、顔色が蒼白になっている。

「逃がしませんよ。ウィリアム様、今日も協力して下さいまし!」

いつの間にかスタートダッシュを決めて逃げようとしていたウィルの右脚を、カトリーヌ様はすかさず踏みつけ、対象物の捕獲を達成した。


「何でだよ?!昨日お膳立てしたろ?今日は一人でがんばりなよ!」

「無理です。恥ずかしくて……。とにかく、今日もよろしくお願いします」

「僕を巻き込むなって。……それとも、何か報酬があるなら考えるけど?」

「まあ、ウィリアム様は見た目通りの冷たい男なんですね。このか弱い女の頼み事を理由がないと聞いてくれないと言うのですか?」

「見た目通りってどういう意味だよ。僕から滲み出るこのハートフルさがわからないのか?」

「本当にハートフルなら恋する乙女のちょっとしたお願いごとくらい叶えてくださいまし!」

カトリーヌ様の足はいまだにウィルの右足を踏んづけたままだ。

ウィルは何とか足を自由にしようと試みているが、カトリーヌ様の足を手で触れてどかす訳にもいかず苦戦している。


「あなたはカトリーヌ・ドラッヘン公爵令嬢ですね。どうしたのですか?」

私が声をかけると、私の事は今まで目に入ってなかったのだろう、カトリーヌ様は恥ずかしそうに顔を赤らめて姿勢をただした。急に足枷が外されたウィルが、バランスを崩して転がりそうになって慌てているのを横目でみた。少し胸がスッとした。


「これは、エレノア様。ご機嫌いかがですか」

ウィルを心配するでもなく、カトリーヌ様は私に挨拶をしてよこす。それに、さっきから聞こえてきた話の流れは……。

ウィルとカトリーヌ様は2人で仲良くイチャイチャしてると思っていたのに、違うのかしら?

「カトリーヌ様もご機嫌よう。恋する乙女の願い事、と聞こえてしまったけれど、どういう事かしら?それに、ウィルが協力って?」

カトリーヌ様の返事を待っていると、カトリーヌ様は観念したのかぽつりぽつりと恥ずかしそうに言葉を紡ぐ。

「1目見てわかったんです。布の隙間から見える筋肉から、ルーク様の真面目なお人柄が……」

1度話すと勢いがついたのか、カトリーヌ様は如何にルークが素敵だかを長々と話し始めた。

「無駄を省き合理的な……」

「継続した鍛錬………」

「使い込まれた美しい筋肉……」

最後にはルークの広背筋の話が何故か宇宙の話に繋がって、一時は私の意識も宇宙に飛ばされかけたけど、一つわかった事がある。


「カトリーヌ様はルークの事が好きなのね」

「初めてなんです。こんな事感じるのは。でも、初めてなのにはっきりと分かりました。ルーク様とお近づきになりたくて……今日も舞踏会で踊れたらと思って、ウィリアム様に協力してもらおうと思ったのです」

言うなり、カトリーヌ様は少し頬を染めた。


「そうか、そうなのね」

カトリーヌ様はルークを好き。


ウィルと仲良く見えたけど、ウィルとしては何時もの世話焼きを発揮していただけなのだろう。

ウィルは私のことを何とも思ってないけれど、少なくともこの令嬢と一緒になることはないかもしれないと思っただけでここ数日のもやもやが少し晴れた気がした。


「カトリーヌ様、私がルークのところに連れていってあげるわ」

「え、エレノア様、良いのですか?」

「大丈夫、ルークとは友達なの。これから2人で舞踏会での段取りを相談しましょう。ウィル、また今度会いましょう」

何か言いたそうなウィルを庭園に置き去りにして、カトリーヌ様と庭園を散歩する。


それから2人で舞踏会の相談をし、お喋りに花を咲かせた。舞踏会の事だけじゃなく、カトリーヌ様の恋愛観についても聞かせて貰った。

好きな人とは恋愛がしたい事、ルークに一目惚れしたからには頑張る事。

「自分に出来る事が無くなるまでは、挑戦していきたいです」

「情熱的なのですね」

「我がままなのです」

そういって笑ったカトリーヌ様がとても綺麗で、見惚れてしまった。

「カトリーヌ様、よければ私のお友達になってくれませんか?またお話がしたいわ」

「喜んで。私もエレノア様ともっとお話ししたいです」


振り向いてもらえるまで頑張ってみたいという彼女の言葉は強くて輝いている。

自分の事を考えると惨めで憂鬱だけれど、カトリーヌ様を見ていると、その間は自分の事に目を向けずにすむ気がした。


憂鬱だった今日の舞踏会。

新しくできたお友達のお手伝いという目的もできた。

最後までしっかりしなくては。

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