66.にゃんデー
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文化祭の準備に向けて、学園内も慌ただしい雰囲気になってきた。生徒会は文化祭が成功するように裏方で運営の仕事に携わる。学園祭の招待状は、生徒の父母など学校関係者に配られ、売上は全額慈善事業に寄付される。
「エレンは文化祭、何かするの?」
「そう、実はウィルに相談しようと思っていた所だったの。この間贈ってくれたぬいぐるみ、可愛かったから、私たちのクラブで売り出そうと思っていて。作り方を教えてくれる?」
へえ!そうなんだ。嬉しいな。
「いいよ。後で説明するね」
「それと、実はちょっと考えてることもあって……」
「?」
そうして後日、エレンとクラブのメンバーでもあるアリアナ、ミーシェ、マリアの三人娘たちと一緒ににゃんデーを作ることになった。
***
お天気の良い日。僕とエレンが言い合う声が響き渡る。
「違う!にゃんデーはそのままの形で完成されてるんだ!」
「いいえ!ここと、ここと、ここを変更した方が絶対に可愛いわ!」
傍にいた三人娘も各々が発言をしだした。
「エレノア様の言う通りよ!」とアリアナ。
「そうよ!」とミーシェ。
「そうだわ!」とマリア。
アリアナにミーシェにマリア、僕のファンじゃなかったのか。完全にエレンの味方じゃないか。
にゃんデーの外見について、僕とエレンの意見が真っ向から対立する。
結局、意見はまとまらないまま、僕のにゃんデーとエレンのにゃんデー、2種類の試作品ができたのだった。
僕のにゃんデーとエレンのにゃんデーを並べてみる。さあ、どちらが本当に可愛いのか、はっきりさせる時がきた。
僕とエレン、三人娘は全員で生徒会室に向かった。
第三者にどちらが可愛いかを判定してもらう為だ。
エレンが「お兄様に選んでもらうわ」と言うが、こういう時のギルは絶対にエレンの味方をするから、あまり気乗りがしない。
でも、文化祭の準備で慌ただしくしているこの時期の生徒会室には、ギル以外にも生徒会メンバーがいるはずだ。
エレンは生徒会室につくなり、居合わせたギルとディーノに早速どっちのにゃんデーが可愛いか聞いた。
ギルの答えはわかっている。ディーノが僕の方を選ぶわけない。
「エレンだな」
「当然エレノア様だ」
案の定、ギルとディーノはエレンに軍配を上げた。こんなのは両方とも無効票だ!
今度はライラに見せてみる。前世で沢山のぬいぐるみを見てきたライラなら、僕と感性が似てるはず!そう期待して聞いてみたものの……。
「ん~、エレノア様に1票!」
なんてことだ、ライラまで。
ついでに、何故かアルベルトとチェスに興じているルークにも聞いてみた。
「見分けがつかない。違いがわからない」
聞く前からわかってはいたが、まったく参考にならなかった。
アルベルトには、
「商品を売るには女性目線が大事でしょう?エレノア様の方が売れますよ」と言われた。
その他にも、居合わせた生徒会メンバーに聞いてみたけれど、僕のにゃんデーを選んだ生徒は誰もいなかった。
ルーク以外、全敗だ。
「ウィリアム君のも、先生は好きですよ~。個性的でね」
ルノワール先生の言葉がトドメを刺す。
僕は完全にヘソを曲げてしまった。
「そんな事ない!エレンのにゃんデーなんか、絶対売れないよ!」
大声で、エレンも聞いている中で言ってしまってから、はっとする。
エレンの目から涙がポロッと落ちる。
「ウィリアム様がエレノア様を泣かせたわ!」とアリアナ。
「ひどいわ!」とミーシェ。
「傷つけた!」とマリア。
「エレン……」
しまった、と思って謝ろうとした時には遅かった。
エレンがわなわなとしながら、
「ウィルのバカ!絶対全部売ってやるんだから!どっちのにゃんデーが売れるか勝負よ!」と言い出したのだ。
こうして、エレンとの勝負が始まった。
僕はまだエレンに謝れていない。いや、正確には一度謝ろうとしたのだが。
「でも、私の方が売れないと思ったのは本音でしょう?」と言われ、ぐうの音も出なくなってしまったのだ。
「言い方が悪かった」と言い直したものの、まったく取りあってもらえなかった。
せっかくの文化祭なのに、まさかこんな事になってしまうなんて……。
思えば、にゃんデーには制作段階から苦労させられっぱなしだ。よっぽど僕と相性が悪いのだろうか。
「お前のせいだぞ」
少し恨みがましく物言わぬぬいぐるみに向かって話しかける。にゃんデーが「自業自得」と言っているような気がした。




