29.花畑からこんにちは
この世界にはデートスポットが無数に存在する。さすが乙女ゲームの世界だ。
花畑もその数多あるデートスポットのうちのひとつだ。花畑の真ん中に小高い丘があり、そこから見る景色が素晴らしい。
ライラの事を考えるのにも疲れてきた僕は少し癒されたくなっていた。癒しにはアロマの香りだろうと、香油をとる花を探す為に花畑に行くことにしてみた。アロマテラピーというやつである。
男一人でラベンダーやカモミール、バラの花を摘んでる姿は異様だが、癒しの為には背に腹は変えられない。
目をつぶって空気いっぱい花の香りを吸い込む。
花畑は何故かテンションあがるよね!
しばらくすると、遠くから男女の楽しげな笑い声が聞こえてきた。
この声はディーノとライラか。何も今日花畑に来なくても良いのに……。
僕は身を屈め逃げる用意をする。
あの効率主義のディーノを花畑に誘えるとは、ライラのディーノ攻略の順調さが伺える。
「君には花が良く似合うな。眩しいくらいだ」
「ディーノ様にも似合っていますよ」
「本当に美しい。そして、美しい君の瞳に今は私が映っている事がたまらなく嬉しい」
「ありがとうございます。ディーノ様……」
「そういえば歓迎会以来、貴女と一度も踊っていない。良ければもう一度私と踊って頂けませんか?」
「喜んで」
ディーノとライラが踊り始めた。踊りスキルマックスの2人の踊りは花畑のあぜ道を巧みに渡り、そこに障害など無いようにスムーズに進む。さながらミュージカル映画のワンシーンのようだった。
少し見惚れたのがいけなかったのか、2人は結構遠くにいたはずなのに、いとも簡単に僕のところまで踊ってきてしまった。
ムギュッ!背中から踏まれた。
「ウィリアム君、ここで何をしている」
「きゃあ、ウィリアム様ごめんなさい!」
きゃあ、とか言う前に足を退かして欲しい……。というか、2人の実力なら、絶対に避けれた。
ディーノの目が、邪魔だと語っている。
「……失礼」
僕はすっと立ち上がり、何も言わずにこの場を去ろうとした。デートスポットではお相手といる時にお相手以外と会うと起きるイベントがある。お相手同士が仲が良ければ、そのまま3人でハーレムイベント、仲が悪ければ嫉妬イベントになる。今、僕は主人公とお相手のデートを邪魔する、(本当はある程度好感度が上がったキャラがくるのだが)嫉妬イベントに参加してしまいそうになっている。即刻この場を立ち去らなければならない。
「そうだ!歓迎会ではウィリアム様と踊れなかったので私と踊りませんか?」
何言い出してるの?この娘。
僕との好感度が低いのでここぞとばかりに僕と一緒にいようとしているのか、ライラは良く分からない事を言いはじめた。
「ね?ディーノ様もウィリアム様と私の踊り見たいですよね?」
「これと言って見たくないが」
ディーノのそうはっきり言える所は尊敬できる。
「2人の邪魔をして悪かった。僕はこの通り手荷物を沢山持っているから、踊れないんだ」
「何でそんなに花を?気持ち悪いぞ」
ディーノのそう、はっきり言える……以下略。
「これは」と、説明しようとした時、イベントの本命が現れた。
「ライラ探したよ。この間見たいといっていた本を見つけて、居ても立っても居られず、君を探してたんだ。ディーノ、ウィル、君達も花を見に来たのか?」
仲の良いのと、悪いのと……これは何イベントになるのだろう?ギルが嫌な思いする嫉妬イベントは嫌だな。
「これはギルバート様、ご機嫌はいかがでしょうか?」
ディーノが僕の時とはエラい態度の違うのを隠しもせずに前に出た。本当はデートの邪魔をされて、きっと良い気持ちでは無いはずだ。笑顔の端が引き攣っている。
「僕は今、帰るところ。この2人ともさっき偶然あったんだ。ギルも本を渡しにきただけだろう。帰ろう」
ライラとディーノで仲良くやって。
「いや、私はライラと話を……」
と言ってるギルを引きずって、2人に手を振る。残念そうなライラと、にこやかなディーノが対象的だった。




