105.平和の祭典おまけ(ライラ視点)
今年も年1回の、平和のための祈りの日がやってくる。
国中の礼拝堂で行われるこの行事は、当然ながら学園の礼拝堂でも行われるのだった。行事運営の主催は生徒会ではないものの、学園の敷地内の施設を利用する行事に生徒会の人出が駆り出されない訳がなく……。
「なんでこんな時に生徒会長筆頭に皆いないのよ!……って初めは思ってたけど、やってみたら意外となんとかなったわ」
生徒会室で、いつもは誰かが反応してくれているライラの独り言はそのまま室内に消えていった。
「むしろ、1人だと捗るわ……」
図らずも、今までいかに無駄口たたいて時間を浪費していたのかがわかる結果となってしまった。
ディーノをはじめ、生徒会の運営に関わっている主要メンバーは、今、ほとんどが隣国に行っている。こちらに残っている少数のメンバーとライラで平和の祈りに関する雑事を分担した訳だが、残っているメンバーにはライラに気安く話してくれるような相手はいなかった。
やることが無くなると途端に寂しくなる。
「暇だわ……。つまらないし、ルイに会いに行ってみようかな」
***
「というわけで、暇だし寂しいからきちゃった」
「暇だし、寂しくないと会いにきてくれないの?こっちが淋しくなるんだけど…」
「ルイは忙しいでしょう。邪魔になっちゃうからよっぽどじゃないと悪くて」
「うーん。色々考えさせられるけど、まあいいか。ライラが学園で楽しくやってるってことだよね」
そうして、楽器の手入れをしているルイの横で、ライラはここ最近の出来事を思いつくままに話す。しばらくルイは黙って聞いていたけれど……。
「ライラ…この間会った時にも思ったんだけど、空想友達?のウィリアム様と仲良いよね。これはひょっとしてライラにも遂に想い人が出来たのかな?」
「私に想い人?愛とか恋とか、そういう事?何ソレ?何でそんな話になるのよ。恋愛方面でいうなら、私にはないわ。そもそも要らないし」
「…学園に良い人はいないの?アルが毎日やきもきしてたじゃない?」
「アルベルトがどうして、やきもきするの?」
「アル……相変わらず可哀想だな……。でも、学園に決まった人が出来ないのはアルにとってはとても良い事だよな……」
ルイの独り言ともとれる呟きはライラに聞かれることもなくそのまま空気のように溶けていった。
ルイが調律の終わったヴァイオリンの音を確かめる為に音階に似たいくつかのフレーズを弾く。
「ルイ、すごい!もう心が持ってかれた。本当にルイの音は素敵ね」
「何言ってるの。単なる音階だよ。練習なんて聞いてて面白くないんじゃない」
「そんなことないわ!音の響きだけで、心が勝手に、わぁってなる」
「……恋もきっと同じだよ。自分の意思とは関係無く持ってかれちゃうの」
「ルイはしてるの?」
「さあね」
暫くすると、何処から聞きつけたのかアルベルトがやってきた。
「やっぱりここだった。ライラ、ルイの邪魔してないだろうな」
アルベルトの軽口にライラとルイがそれぞれ答える。
「見ての通り、大人しくしてるでしょ。なーんの問題もなし!」
「別にいいよ。それより、アルもいるなら練習やめて3人で何かしたいな」
ルイの提案に、アルベルトは少し首をひねって答えた。
「今からか……。もう夕方だけど、ちょっとした散歩ならできるかもな」
「散歩だなんて随分年寄りくさいわね。昔は冒険を沢山してたのに」
ライラの、年寄りくさいという物言いが楽しかったらしく、ルイがクスッと笑いながら言った。
「そう?昔はよく一緒に夕日を見たよね」
「それは冒険の帰り道だったからよ」
ルイに笑われてライラが唇をとがらせた。
「散歩帰りにカナレットに寄っていこう。そろそろ開くはずだ」
「それは大賛成!!あそこのパスタは絶品だもの。早く行こう!」
アルベルトの再びの提案に今度は満面の笑顔で返事をするライラ。ルイも笑って頷いている。
そうして、三人で楽しく夕食を食べる。
あともう少しすれば皆も帰ってきて、また賑やかで楽しい一日が始まるのだ。




