106.そろそろ学期末
メールスブルク国から帰ってきてから最初の学園の登校日。
「お帰り!楽しかった?」
講堂に入ると早速ライラに話しかけられた。
僕にとって平和とは程遠い祭典の疲れがでたのか今日は熱っぽくて、
「疲れた」
と弱音がもれた。
普段それなりに運動して体を鍛えてるつもりだったけど……。
机に突っ伏した僕の頭にペンをグリグリしながら、ライラが嬉々として話す。
「何か面白い事なかったの?」
「ライオンが出たよ」
「ライオン!!?」
「ルークが倒してくれたんだ。カッコ良かった」
「ルークがいたのね?倒すってどんな状況?まさか危険だったの?」
「それがルーク、舞踏会を武闘会と間違えて…というか、ライラ、僕、本当に疲れてるんだ。後は本人に聞きなよ。面白いから。もうすぐ来るはず…」
「疲れたウィルに追い打ちをかけまーす。明日から期末テストです」
「何だよ〜って知ってたけどね、辛いなあ」
僕の嫌そうな顔を見てクスクス笑うライラのおかげで、日常に戻ってきた実感が湧いた。
期末テストは心底面倒だけど、将来の為にも自分の体裁の為にも、テストと名の付くものは頑張らないと。
なにせ、僕は小さい頃から「目指せ!将来ギルの右腕!」なのだ。
それにしても、ライラ楽しそうだな。人が疲れてこんなに気分も落ちてるのに。
「2人共おはよう」
講堂にギルもやってくる。今日はエレンは……ギルと一緒じゃないみたい。
「ギルも学園に戻ってきた!お帰りなさい」
「ただいま、ライラ」
ギルがライラの隣に座る。いつもよりゆっくりした所作で椅子に座り、何かに浸っているような様子のギル。どうやらライラが自分に向けてくれた「お帰り」を噛み締めているようだ。
こんな些細な事で幸せになれる恋って素晴らしい。
「俺もここ良いかな?」
「ルーク!お帰りなさい!!久しぶりね!!心なしか日焼けしたんじゃない?」
「そうか?」
2ヶ月ぶりに会ったルークに、ライラの「お帰り」も気合が入ってる。ちょっとギルが可哀想だな。
ルークのとぼけた返事に、「少し黒くなってると思うわ!」と返しているライラだけど……。
ルークに関してはもっと他に突っ込むことあるだろう……。
僕は少し信じられない気持ちでライラとルークを眺めた。
「ライオンを退治したって聞いたわ」
「ウィルからか?飼われてたライオンだから野生とは違うが、またとない貴重な経験ができた」
「……。まあ、貴重といえば貴重ね。私だったらライオンと戦闘だなんて絶対避けたいけど」
「ははっ。万一ライオンが出たら俺が倒すから」
「そうね!あんまり無いとは思うけど、その時はルークに守ってもらうわ!」
「ちょっと待て、二人ともどういう会話をしてるんだ?」
ライラとルークの何かがズレているやり取りに、思わずギルが突っ込んでいる。
「ギルの事も守るから安心しろ。むしろライラよりギルが優先だ」
「そりゃそうね!王子様だもの」
「いや、そうじゃないだろう。私の事は別にいい。ライオンなんてそう出る訳じゃない。むしろライラの事は私が……」
「まあまあ、きっとルークなら大丈夫だから、ギルも心配せずに一緒に守ってもらえばいいのよ。それより、他には何かあった?」
「他は……まず、メールスブルクの城門に入るのに一悶着あったし……エンデンブルクのリンツと槍の手合わせ出来たのがよかった」
「何だか戦いが多いのね……。平和を祈る祭典だから、もっと穏やかな感じかと思ってたわ」
「ルーク。3日目の式典の話をしないと、ライラが平和の祭典について誤解してしまう。それに、城門に入るのに一悶着って、何があったんだ?」
「やば……」
ギルとルークのやり取りに笑いだしたライラに、ルークはじっと視線を送ると微笑んだ。
ルークはライラの事、今はどう思っているのだろう?何にせよ、ルークの事だ。自分の気持ちには真っ直ぐに向き合っているんだろう。強いな……心も身体も……。見ているだけで苦しくて息が詰まる。前言撤回。恋は苦しい時もある……。
僕は先日にルークと話した内容を思い起こした。
『僕がエレンを好きって、そういう事!?』
『自覚がないならそのまま無かったことにするのも良いかもな』
そして、エレンを恋愛対象外だと言った途端に大きく跳ねた鼓動も。
今更だ……。忘れるしか結末がないじゃないか。
いや、まだこの感情が恋だと決まった訳じゃない。エレンとは幼い頃からずっと一緒だった。同い年だけど、ギルがそうであるように、エレンの事を妹のように感じてた時もあった。
そんなエレンが自分より先に大人になったみたいで。今まで割と何でも相談されていたのに、急に少し距離を置かれたように感じて。
エレンはたぶん、好きな人ができても友達とその話で盛り上がるタイプじゃない。きっと、好きな人との間で起こった出来事を2人だけの秘密にして大事にするタイプだ。
そんなエレンが、恋の話をましてや異性の僕にしたくないのは頭では十分理解できるのに。
そこに寂しさを感じてしまっているのかもしれない。
そういえば、エレンが本当にどうしようもなく困った時に頼るのはいつもギルだった。子どもの頃の話だけど、一時期、それが寂しくて何とかしたいと思っていた事があったのを思い出した。今思うと馬鹿みたいな話だけど。
もしかしたら僕はシスコンならぬ幼なじみコンなんじゃないだろうか。それはそれで大いに問題ありだ。
楽しそうに談笑するギル、ライラとルークを横目で見ながら、僕は今日何度目かのため息をつくのだった。




