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101.平和の祭典3日目3

舞踏会の最終日。

三日目ともなれば、会場の雰囲気は初日に比べて打ち解けたものになっていた。3日間同じ場所で過ごして顔見知りになった面々は、社交の場を大いに楽しんでいるようだ。

なのに、私は相変わらずこの場に居心地の悪さを感じている。

色んな殿方からダンスを申し込まれて、ひっきりなしに踊って、

色々話しかけられてもどこか上の空で適当な返事をして、ダンスの後に二人きりになりたいと言われればやんわりと断って。


それでも、合間を縫ってカトリーヌ様とルークを引き合せる事ができた。

カトリーヌ様の事を考えている時だけが、私が今夜の舞踏会に注意を向けていられる時間だった。

カトリーヌ様とルーク、踊るために広間の中心に向かっていく2人を眺めていると、応援する気持ちと一緒にカトリーヌ様を羨む気持ちが湧いてくる。

私も彼女のように真っ直ぐ行動できてたら、少しは違っていたのかしら?

私は余程熱心にカトリーヌ様を見ていたのだろう。

カイン様がいつの間にか自分の隣にいることに、話しかけられて初めて気づいた。


「エレノア様が熱心に視線を送ってらっしゃるあのお嬢さんは……ウィリアム殿と一緒にいらした?」

「カイン様。ええ、そうです」

「これは驚いた……。あのお嬢さんの幸せそうな顔といったら。エレノア様は良いことをなされましたね」

カイン様に褒められて私は少しだけ嬉しくなった。

「エレノア様の体調はいかがです?見たところ、すっかり大丈夫そうですが」

「あ……」

昨日の事を思い出して恥ずかしくなる。

謝辞と一緒にもう大丈夫なことを伝えると。

カイン様にダンスを申し込まれる。

受諾の返事をしてカイン様の手を取る。

踊る場所に向かう間、カイン様の視線が私の顔に落ちるので思わず彼を見上げると、柔らかな微笑みを湛えたカイン様が言った。

「ダンスの後で大事な話があります。聞いてもらえますか?」

受諾の返事をするものの、何とも言えない予感がして私の胸は既に騒ぎ出していた。



踊り終わった私達は喫茶室に来ていた。

カイン様のお話に私は耳を傾ける。

「これで連日続いた式典の行事は終了だ。私はエンデンブルグに、あなたはアスティアーナに帰る」

そう、ここに来てからまだ3日しか経っていない。なのに、3日前の自分が遠い昔のことみたいだ。

「……」

「ここ数日考えていたのだが……あなたと共にこれから先、将来の時間を過ごしたい」

自分の心臓が大きく跳ねる音がする。

「でも、私は昨日、あんなに酷い姿を見せてしまったのに……」

カイン様の言葉は意外なような、やっぱりなようなどっちともいえない印象を私にもたらしていた。

「それも含めて。あなたに惹かれている。エンデンブルグ国はアスティアーナ国の王女を迎えたいこと、国に戻ったらあなたの父君に正式に書簡を送るつもりだ。返事は直ぐにとは言わないが、考えて頂けますか」

展開の早さに頭がくらくらする。国のためにはお受けするのが良いのだろう。それに、カイン様は優しい人だ。

「でも私は……」

咄嗟に否定めいた言い訳が口から出そうになる。言いかけた私の言葉を遮ってカイン様が言う。

「あなたが気にかけているのはウィリアム殿の事でしょうか」

「!」

驚きに目を見張る。

きっと、今の私の顔には「どうして」とありありと書かれているに違いない。

「気づきますよ。私はね」

「気づいていて何故―――」

私なんかを、という言葉を続ける前に。

「それでもあなたを待ってみたいと思ったのです」

カイン様は静かに言った。

「気づいているなら尚更、カイン様は私にそんな事を言うべきじゃありません」

私の否定にカイン様は質問を投げかけてきた。

「あなたは、ウィリアム殿と何かしらお約束をされているのですか?」

「いいえ!……ウィルは私の事をそういう風には見ていないんです。私ばかり、気持ちを持て余していて……」

どうすれば良いのだろう。

私だけが、ウィルを好き。私だけが、ウィルと一緒に居たい。

もしカイン様を好きになれたら……。

カイン様の方でも私を望んでくれる。お父様や大臣たち、あのウィルですら私がカイン様といることを望んでいるというのに。

私はいつの間にか正直な気持ちを吐露していた。

「もう……どうすれば良いのか自分でも良くわからなくて」

カイン様の表情は優しい。こんな事はカイン様に言うべきじゃないのに、カイン様の優しさにすっかり甘えてしまっている。

「……私を好きになればいい。少なくとも、私だったらそんな理由であなたに溜息をつかたりはしないよ」

確かにカイン様ならそうなんだろう。どうして私はウィルなんだろう……。

「気を遣わせてしまってごめんなさい……」

「そこで謝らないでもらいたいな」

カイン様が苦笑する。

「さ、話は終わりだ。戻ろうか?私のことも考えておいて頂けるかな。返事は……そうだね、来年の今日にでも」

おもむろに明るく話すカイン様。この人は本当に優しいし強い人だわ。

「本当に色々と……。ええ、返事は来年までに必ずします」

思わず再び謝りそうになる言葉を飲み込む。

色んなことを申し訳なく感じながら、広間に戻るために差し出されたカイン様の手を私は取ったのだった。


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