10話 託された思い
「それでまずはどうするわけ?」
楽観的な謡に対し、不機嫌さを募らせる薫は説明を求める。
「そうだなぁ〜。まずは、神崎と接触して月島との連絡手段をゲットしないと」
ゆっくりと立ち上がると、今まで気づかなかった星々が夜空に散りばめられ、小川のせせらぎのBGMがそれを一層引き立てていた。目と耳が癒された二人は暗い夜道を静かに歩きながら家へと帰った。
次の日、学校に来て隣のクラスを覗くと見たことのある金髪頭が物静かに本を読んでいた。教室はガヤガヤと騒がしい様子ではあったのだが、彼は気にならないみたいだ。
「やぁ、昨日ぶり、元気?」
「昨日あんな目にあって元気があると思うのか?」
冷やかしなら帰ってくれと言わんがばかりに追い返そうとする返答に言葉をつまらせた謡は適当にごまかすほかなかった。
「それは・・・人によると思うけど」
「そうか。それで何の用だ?」
「実は折り入って頼みがあるんだ。ーーー月島と連絡をとる手段を教えて欲しい」
申し訳なさそうにお願いをする謡に対し、神崎は目線を本へと戻し、これ以上の対話を拒絶した。客観的に見ても、当然の反応といえば当然の反応である。昨日、あんな無様を晒したのも全ては月島のせいであり、彼女に約束まで反故にされたのだ。名前も聞きたくないだろう。
しかし、謡はこうなることを全て予想し、それでも説得できる魔法の言葉を用意していた。
「教えてくれれば、妹は僕が助けてやる」
昨日の会話でしっかりと、神崎のどんな鉄壁な心の扉も開けられる鍵を手に入れていたのだ。自身の屈辱的な恥や月島に対する怒り、そして、助けられなかった自分への嫌悪感、そのどれもが引きこもりや自殺を呼びおこしかねない深い傷である。それほどまでに心の弱った神崎に効く一番の特効薬がこれだった。
神崎の目尻には後悔の涙が滲み出ていた。自分の都合で謡を騙し、結果的にはそうならずとも、一度は妹の身代わりとして月島に差し出そうとした自分の醜悪さがまるでガラスの破片が刺さったように心の奥深くまで突き刺さった。
情けなく、愚かで醜い自分に自己嫌悪し、罪悪感が波のように押し寄せる。
もし月島にこのことがバレれば、それこそ消されるかもしれないことがわかっていながらも、妹を助けられる一縷の望みにかけるほかないという思いが拍車をかけ、神崎は決断した。
「持っていけよ、これが連絡先だ」
ノートの切れ端を破り、シャーペンで月島の連絡先を書き終えると、二本の指で挟み謡に手渡した。
「絶対助けてくれよ」
神崎は語気を強め、妹の安全を訴えかけるように真剣な目で謡を見つめた。1人の命を背負わされる圧力に、押し潰されそうな謡は小さく返した。
「善処する」




