第79話 コンバットダンス
二人は転がるように、車から降りた。
シャロンは白翼を呼び止めるべく、大声で叫んだ。
「待って! 止まってよ! あなたたちにどうしても話があるの!」
呼びかけに応じたのか、『管理者』たちはゆっくりとこちらに向き直り、地上へと降り立ってきた。
暗くてその顔立ちや表情は窺い知れないが、周囲の空気を凍りつかせるような冷たい気配を漂わせている。
そして、二体のうちの一体がシャロンを遮るかのように前へと踏み出してきた。
「……イレギュラーを確認。直ちに排除する。」
先ほどイバイと対峙した個体と同様に、生命の息吹を感じない無機質な声であった。
シャロンは強い眼差しを向け、大声で訴えかける。
「ちょっと! 聞いてるの!? 話があるって言ってるじゃない!」
前に出てきた白翼は手をかざし、空中に無数の剣を現出させた。
一方、奥に控えていたもう一体の白翼は静かに踵を返し、闇の彼方へと足を進めた。
ゼンはシャロンの肩に手を置き語りかけた。
「おい……あいつはダメだ。話が通用する気がしない。」
「…………。」
「俺があいつの相手をする。シャロンは奥のやつに用事を済ませてこい。」
「……わかったわ。」
「…………ゼン。必ず、二人で一緒に帰りましょう。」
そう言い残すと、シャロンは奥の影を追いかけて駆け出した。
白翼はその背中に向けて、上空から一斉に剣の雨を降らせようとする。
「バカがッ! よそ見してんなよ!」
ゼンは大地を爆発的な脚力で押し込み、電流のように加速する。その勢いのまま跳躍し、飛び膝蹴りを側頭部に直撃させた。
——ガキンッ!!
夜の空気に激しい金属音が響き渡り、ゼンは大きな反動で弾き飛ばされる。
空中に投げ出されながらも器用に身を翻し、両足で地面に着地した。
やはり、白翼に傷一つ負わせることは叶わなかった。
しかし、シャロンに向けられていた剣の雨を一時的に止めることには成功した。
「なんだぁ! この野郎ッ!」
ゼンは肉食動物を想起させる踏み込みで瞬時に間合いを詰め、腹部を狙って前蹴りを繰り出した。
ガキンッ!!
展開されたのは、三角形の結晶を組み合わせた強固な防御壁。イバイが苦戦していたものと全く同じ代物であった。
放った蹴りの威力をそのまま自身に弾き返され、後方へ大きく吹き飛ばされてしまう。
そして直後、白翼から剣の雨が再開された。今度はゼンを標的に定め、間断なく降り注いでくる。
ゼンは鋭角な軌道を地面に刻み、稲妻の如くジグザグに走る。降り注ぐ剣をかわしながら、白翼へと肉薄していく。
だが、豪雨のような剣の猛攻を完全にかわしきることは不可能であった。
鋭利な刃が皮膚を切り裂き、その肉体から幾条もの鮮血が激しく舞い散る。
しかし、それでも足は止まらない。
全身を真っ赤な血に染め上げながら、左右不規則に軌道を替えて前へ進む。
そしてついに、互いの息遣いすら届く距離まで近づいた。
「知ってるぜ。二回もやられたからな。」
ゼンは打撃をあえて捨て、胴体へと組み付いた。
自らにも被害が及ぶことを危惧したのか、あるいは防御に集中するためか、降り注いでいた剣の雨が止まる。
「オラァァッッ!!」
胴体に回した両腕にすべての力を注ぎ込み、力任せに締め上げていく。
その泥臭くも命を賭した姿は、まるで「天使と戦うヤコブ」を描いた一枚の宗教画のようであった。
メキメキと、白翼の身体が歪み軋む音が夜空に響く。
「……イレギュラーを……排除……」
死角からゼンに向かって、一本の剣が飛翔した。
——ドスッ!!
無情にも、その刃は背中に突き刺さった。
激痛に、ゼンの身体が大きく震えた。
それでも、腕だけは決して緩めなかった。
目を見開き、口から血を吐き出しながらも、締め上げを一層強めた。
「がぁぁぁぁぁっっ!!」
バキッ——!
白翼の身体から突然全ての力が抜けた。
「はぁっ……はぁっ……!」
ゼンは腕の拘束を解くと、その身体を放り捨てた。
そして、自分自身も力なくその場へ倒れ込んだ。




