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【完結】畑の魔王と光の勇者 ~世界征服よりパンを焼きたい魔王、異世界の魔王にマウントパンチを叩き込む~  作者: 週一週二
南の魔王編

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第52話 約束2

 ゼンが小麦畑を出発した、その日——。


 王都では、先日来の大雨によって被害を受けた街の復旧作業が、休むことなく続けられていた。


 倒壊した家屋の瓦礫の撤去作業。


 崩れ落ちた水路の補修。


 そして、流通を支える主要街道を塞ぐ倒木の除去。


 騎士団の正規兵だけでは到底人手が足りず、復興を願う市民たちも一致団結し、老若男女問わず総出で汗を流していた。


 勇者であるシャロンもまた、その立場に胡坐をかくことなく、白銀の甲冑を泥だらけにしながら街道の整備作業に加わっていた。


「シャロン様! このあたりの土砂は、もう少しで片付きます!」


 汗を拭う若い騎士の声に、シャロンは力強く頷いた。


「分かったわ! そのまま向こうの倒木も一気に片付けてしまいましょう!」


 北の魔王討伐という歴史的偉業を成し遂げ、さらには東の魔王が率いた大軍勢を壊滅させた。


 だが、どれほど大きな戦いが終わろうとも、人々の生活と世界は立ち止まってはくれない。


 守るべき人々の暮らしは今日も続いていくのだ。


 ――その時だった。


 前線で作業をしていた一人の若い騎士が、不意に手を止め声を張り上げた。


「……何者かが近づいてきます! 誰か、こちらへ向かって歩いてきます!」


 周囲の作業がピタリと止まり、その場にいた全員の視線が街道の彼方へと注がれた。


 土埃ひとつ立てることもなく、不気味なほど静かな足取りで一人の人物が歩いてくる。


 それは昨夜、ゼンの居所に突如として姿を現した『南の魔王』その人であった。


 全身を覆う深緑色のローブ。


 フードを目深に被り、その表情や素顔を窺い知ることはできない。


 しかし、暗がりから露出しているのは、不吉な光を宿した不気味な双眸だけだった。


 漂う気配からして友好的な人物ではないと瞬時に理解し、シャロンの表情が硬く強張った。


 彼女は腰の剣の柄に手をかけ、鋭い声を浴びせる。


「あなた! そこで止まりなさい!」


「全員、武器を構えろ! 囲め!」


 事態を悟った騎士たちが一斉に剣を抜き、南の魔王を取り囲む。


 しかし、南の魔王は一切気圧される様子もなく足を止めると、ゆっくりと無防備に両手を広げてみせた。


「こんにちは、勇者シャロン。そして騎士団の皆様。……私が南の魔王だ。」


 張り詰めた静寂の中、彼の低く重厚な声だけが空気を揺らす。フードの陰から覗く鋭い眼光は、取り囲む騎士たちを無視し、真っ直ぐにシャロンの碧眼だけを捉えていた。


「勇者シャロン。」


「貴公と決闘がしたい。魔王の中で、なお人類と戦う意思を持っている者は、今のところ私だけだ。」


 周囲を取り囲む騎士たちが激しくざわめく。


 異変を察して駆けつけた騎士フローレンスが一歩前へ踏み出し、激昂して剣先を突きつけた。


「決闘だと……!? 今更何を企んでいる! 貴様など今ここで討ち取ってくれるわ!!」


 南の魔王は視線を逸らすこともなく冷淡に言い放った。


「ここで私と戦えば、復興途中の王都が戦場と化すぞ。」


 言葉を一つ切り、彼はシャロンの目を静かに見つめた。


「それは……私や貴公たちが望むことではないだろう?」


 誰一人として、反論の言葉を発することができなかった。人々の命と、今まさに立ち上がろうとしている街を守るため、その提示された選択肢を拒むことは許されない。


「明後日、日の出の刻。」


「王都の南に広がる荒野で待つ。」


 それだけを宣告するように言い残すと、南の魔王は背を向け、街道の彼方へと去っていった。


 騎士たちは剣を構えたまま、遠ざかるその姿を黙って見送った。

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