第42話 車中にて2
「そういえば……あなたの名前ってなんだっけ? あのとき、よく聞こえてなかったのよね。」
ゼンは、ハッとしたように車内へ視線を戻した。
「細川。……細川禅。」
運転席でハンドルを握るカレンが、バックミラー越しに声を弾ませる。
「ほそかわぜん……すごく良い名前ですよね。落ち着きがあって。」
ゼンは軽く頷き、カレンに問い返した。
「カレンのフルネームは?」
「一色果蓮です。なかなか素敵でしょう?」
二人のやり取りを聞いていたシャロンは、少しだけ得意げに胸を張ってみせた。
「私はシャロン・ルシアン・オーウェル! 代々続く、勇者の家系よ!」
ゼンは、特に驚く様子もなく頷く。
「そうか。……勇者か。」
その瞬間、シャロンの表情がわずかに曇った。
「……ねぇ。」
「なんだ。」
「……いつまで、私のことを『勇者』って呼び続けるつもりなの?」
「違うのか?」
「違わないけど……そうじゃなくて……。」
シャロンは急に気まずそうに目を逸らし、指先で自分の膝を小さく突いた。
「私だって勇者だけど……その前に、一人の人間なのよ。」
「……。」
「だから……その……『シャロン』でいいわ。」
ゼンは少しの間だけ考え、言葉を返した。
「……わかった。……シャロン。」
「……うん。」
シャロンの頬がかすかに朱に染まった。
彼女はそれを隠すように慌てて腕を組み、高機動車の透明な幌窓越しに、流れていく砂漠の景色を見つめた。その口元には、隠しきれない小さな笑みが浮かんでいる。
バックミラー越しに二人のやり取りを見ていたカレンも小さく微笑んだ。
シャロンが再び口を開く。
「……ねえ、『禅』っていうのは、あっちの世界でどういう意味があるの?」
「確か、心の中を静かにするとかそんなんだったかな。」
「へぇ……。カレンの『果蓮』は?」
「実る果実と、泥の中でも咲く蓮の花が由来なんです。私の実家は農家ですから。」
「農家なの!? 何を作っているの?」
「メインはお米ですよ。あとは季節に応じて色々です。野菜とか、果物なんかも。だからこっちでも、自分の農園を作って色々育てているんです。良かったら、今度私の農園にも遊びに来てください。いろんなものを育てているので、きっと楽しいと思いますよ!」
「絶対に行くわ! それも約束よ!」
カレンは進行方向を見据えたまま答える。
「はい! 約束します。」
鉄の車体は荒野を走り続けていく。




