第27話 次の夜へ
逃げてしまったラクダを追いかけるのを諦め、三人は地上へ降ろしておいた荷物を各自で担ぎ直した。
シャロンは足早に歩きながら、隣を歩くゼンに小声で問いかけた。
「……ねぇ。ゼン。ちょっと良いかしら……」
「なんだ。ラクダはもう逃げてしまったんだから、手で運ぶしかしょうがないだろう。」
「…そうじゃないって!…今のは何よ!?…カレンの凄い音のアレは何…!?」
「あぁ。アレは小銃だ。詳しい仕組みは俺もよく知らんし、聞いてもさっぱりわからん。ただ、金属の筒の中から小さな何かが飛び出して、あの距離の相手を一撃で倒す。……多分。」
二人のやり取りをしっかり聞いていたカレンが、前を歩きながら静かに答えた。
「仕組みが知りたければ後で詳しく教えて差し上げますよ。ただ、少し話が長くなりますので帰ってからにしましょう。簡単に言えば……魔法とは全く異なる原理と物理法則で、似たような破壊現象を引き起こす道具です。」
「あ、ありがとう……。今はやめておくわ……。」
三人は日没前に岩場の上へと移動し、カレンの指示のもとで夜営の準備を始めた。
カレンとシャロンの二人で天幕を張り、ゼンは手際よく干し肉とパン、温かいスープを用意し、焚き火を起こしていく。
「今日はもうここまでにしましょう。砂漠は昼と夜の寒暖差が激しいですからね。完全に暗くなる前にすべての準備を終えましょう。」
ゼンの用意したスープと堅いパンを口に運びながら、シャロンは以前から感じていた素朴な疑問を二人に投げかけた。
「……二人って、本当はどこから来たの? ……カレンの持つあの道具もそうだけど、ゼンのその服装だって……。最初は農家の作業着か何かだと思ってたけど、そんな服、この世界のどこに行っても売っていないわ。……もしかしてあなたたち、……全く違う世界から来た、とか……?」
無地の白Tシャツに、黒と白のチェックシャツを羽織る。
下は細身の黒のパンツに、ラバーソールの頑丈な黒革靴。
確かにこの世界のいかなる国や文化にも存在しない、異彩を放つ装いだった。
ゼンはパチパチと爆ぜる焚き火の炎を見つめながら、少し考えて口を開いた。
「……どこから来たかと聞かれても、説明のしようが無い。……あっち側だ。多分。」
カレンも困ったように微笑みながら言葉を添える。
「私たちは、この世界の外から来た……。そう言えなくもありません。現に繋がってここに存在している以上、『違う世界』という表現も少し不適切かもしれません。ですが、ゼンと私がこの世界とは全く異なる文化と歴史を持った場所で生まれたのは紛れもない事実です。不思議なことに、言葉だけは最初から普通に通じましたけれどね。」
「……なんか、もう。それくらいのことじゃ驚けなくなってきたわ……色々ありすぎて……。」
「俺たちだって色々あった。こっちに来て、小麦は手に入っても、俺が思ってるようなパンは全然作れなかったからな。」
「そうでしたねぇ。それでゼンが私のところへ『畑のやり方を教えてくれ』と相談に来たんでしたね。私も小麦を育てるのは初めてだったので、最初は苦労しましたよ。」
「……私は、そういう日常生活の苦労話を聞いてるんじゃないのよ……。もう良いわ……寝る……。」
全く異なる文化と歴史を持った世界。
シャロンは頭の中の整理がつかないまま、天幕の中で横になり、静かに目を閉じた。
砂漠の夜が深く更けていく中、三人は短い眠りについた。




