第11話 ボスラッシュ3
「北の魔王! 出てこいコラァ!!」
峠の開けた岩場に、ゼンの怒号が力強く響き渡った。
「……な、何を言ってるのよ……っ!? 魔王を、そんな……そんな、近所の悪ガキを怒鳴りつけるみたいに呼び出すなんて……っ!!」
シャロンはあまりの剣幕に、恐怖を通り越して完全に呆れ果てた表情でゼンを見上げた。
「あなた、本当に……正気なの!? 相手は、あなたと同じ……世界を恐怖に陥れかねない、恐ろしい魔王なのよ……っ!?」
ゼンの放った怒声は、周囲の重苦しい空気を直接震わせ、空中を這う次元の裂け目さえも一瞬怯ませるような異様な威圧感を持っていた。
勇者として「敵に対して常に警戒を払うべし」と厳しく教え込まれてきたシャロンにとって、ゼンのその振る舞いは無作法で、そして不遜なものだった。
ゼンの怒号が山頂に響き渡った直後、空の亀裂がかつてないほど激しく脈打ち、大きく伸縮を始める。
しかし、現れたのは北の魔王ではなかった。空を埋め尽くすほどの不快な羽音と共に、禍々しい紫光を放つ巨大な蝿の王——魔王配下の幹部『ベルゼブブ』であった。
腐敗した生臭い臭気が、岩場一帯に広がっていく。
だが、ゼンは怯むどころか目の前の巨大昆虫を不機嫌そうに指差し、さらに声を荒らげた。
「なんだお前! お前が北の魔王か!? 違うのか!? なんとか言えよ、この蝿野郎!!」
返答を待つまでもなく、ゼンは力強く地表を蹴り上げて上空へと跳躍した。
空中で身体を鋭く捻り、全質量を乗せた豪快な胴回し回転蹴りを繰り出す。回転の遠心力がついた踵が、凄まじい衝撃波を伴ってベルゼブブの巨大な腹部へ深々とめり込んだ。
――ドォォン!!
爆音と共に、蝿の王は羽音を激しく乱しながら、現れたばかりの次元の裂け目の中へと無残に叩き落とされていった。
シャロンは空中で優雅に舞い、着地するゼンの背中を、言葉を完全に失って見上げるしかなかった。
「嘘でしょう……あんな恐ろしい化け物相手に、まるで野良犬を追い払うみたいに……! あなた、本当に……本当に一体何者なの!?」
シャロンは目の前で起きた光景を、未だ理解できずにいた。
「……言葉遣いも、戦い方も……全部、私の知っている『魔王』と違いすぎるわ……っ!!」




