表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パソコンを持って街を棄てろ!  作者: ケケロ脱走兵
27/58

(二十七)

 バロックとサッチャンのデュエットによるパフォーマンスは、日

に日に駅前広場の人の流れを堰き止め始めて、遂には駅前の交番の

おまわりさんが注意しに来るほど人気を博した。すでに彼らはイン

ディーズ・レーベルの会社から数枚のオリジナルCDをリリースし

てそれを路上で売っていたが、ついにメジャー・デビューの話が飛

び込んできた。ただし、それはサッチャンだけのソロ・デビューだ

った。バロックはサッチャンに自分のことは気に留めないで「チャ

ンスを逃すな」とけしかけたが、サッチャンはなかなか受けようと

はしなかった。ただ、バロックは自分の演る音楽が今はやりのポジ

ティブソングとかけ離れていることを実感していた。

「なんか宗教っぽいんだよね、最近の歌」

それが彼の感想だった。

 間もなくして、サッチャンをスターに迎えるための使者が現れて

、サッチャンはバロックの(おきな)にこれまで育ててくれた感謝を伝え

て、天上の世界へ帰って行った。バロックは表面上は気にもしない

素振りをしていたが、そんなはずはなかった。ソロに戻ったバロッ

クは、始めにストーンズの「Let's spennd the night together」

を熱唱して、いつ終わるとも知れない路上ソロライブが始まった。

終わる頃にはギャラリーが差し入れた酒で酩酊しながら唾を飛ばし

ながら叫んだ。興にのって辺りが白けてきても、その場でギターを

抱えたまま酔眠することも何度かあった。まさに泥酔いライブだっ

た。私は路上からステージアップしたサッチャンに代って再びボー

カルをとった。やがて気が付くと二人は、タイムアップのホイッス

ルと同時にピッチに倒れこむサッカー選手のように、大の字になっ

たまま寝ていた。空が白み、スズメたちの交わす朝の挨拶で目が醒

めて、手術を受けた病人が麻酔から醒めて意識を取り戻すまでの白

けた感覚のまま仰向けになっていると、バロックが、

「俺、旅に出るわ」

「たたたっ旅?」

私はワザと大袈裟にそう言って自分を取り戻そうとした。そして、

「何で?」

「何時までも此処で歌えんみたいや」

彼が言うには『JASRAC』がやって来て「著作権料を払え」と

言われたらしい。どうもカラオケ店から抗議を受けた様で、確かに

彼のライブは目立ち過ぎたかもしれないが、その世知辛さに私は呆

然とした。

「払えばいいじゃん」

「否、どうもそれだけじゃ済まんみたいや」

「カラオケ店?」

「それもある」

「他にも?」

「面白ない者が居るんやろ、この頃はマッポもうるさいし」

確かに深夜になるとお巡りがしつこく注意をしに来た。

「でも、何処へ行くの?」

「分からん」

「・・・」

「アパートそのままにしとくから住んでくれへんか?」

「ああ、いいけど」

「まっ、ここもそろそろ飽きて来たし、丁度ええ潮時やわ」

バロックはその次の晩から駅前広場に出るのを止めた。彼はギター

とバックパックだけを持って、東京へ来た時と同じ様に呆気なく東

京を去った。

                         (つづく)  


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ