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恋の色 漆

君は苦しまなくてもいいんだよ


私を背負わなくてもいいんだよ


だから


だからね


幸せになってほしいんだ



『ぁ、そっ、か…私、死んじゃったんたんだ』


ポツンと呟く言葉も、私の耳にしか入らない。真っ白なシーツみたいなワンピースを着た私はふわふわと、普通なら考えられないけど…浮いている。


『悠里くん…幸せかな?私の言葉、覚えてくれてるのかなぁ…』


誰にも届かないって心の奥底では分かっているはずなのに、言葉を紡いで一人の寂しさを濁す。あはは…本当私って卑怯者だなぁ…


「理夢…」


『!…悠里くん。…優奈も一緒だ。あのベットにいるのって…鈴ちゃん、かな?』


それを理解した途端、目からポロリと涙が落ちた。なんでか分からないけど、とっても嬉しかった。私の最後の言葉を悠里くんが成し遂げてくれたことか、それともこんな私でも鈴ちゃんの役に立てたことか。でも、そのどちらでもあるように思えた。


『鈴ちゃん…良かったね…ずっと、ずっと苦しんでたもんね…』


ふわりと鈴ちゃんに近づくと透けている手でゆっくりと頬を撫でる。私の目から落ちる涙は鈴ちゃんに触れられないし、私自身も触れないけれど、ずっと前に触った鈴ちゃんのもちもちとした柔らかい頬の感触が手に蘇るようだった。


「ねぇ、悠里…これからどうするの?」


「どうって…鈴の親はもう頼れない。鈴がどうするかは…鈴が決めることだ。」


「…っ!でも、それって…親のところに戻るしか、道がないじゃないっ!」


「優奈、落ち着け。」


「でも、どうしたら…」


「なぁ…鈴は、俺のところに来てくれるか、分かるか?」


「っっ!?それって、彼女にするってこと!?嘘でしょ…悠里がそんな奴だと思わなかったっ…!!」


『嘘、でしょ…悠里くん…』


私も優奈も驚きを隠せずに、優奈は怒りを前面に押し出していたが、私は先程出し尽くしたと思っていた涙がまたこぼれ落ちそうだった。


「んなわけねーだろ…養子、ってあっただろ…?」


「養子…?そんな、まさか鈴を!?」


「あぁ。鈴はもう身寄りもない。親戚も親の悪行に懲り懲りしていて、引き取るなんてもってのほかだそうだ。」


「そっか…そんな状況で無理やり引き取らせてもまた鈴が虐待されるだけだしね…」


『鈴ちゃんを、養子にかぁ…』


なんだか変な気持ち。鈴ちゃんがそう言う所から解放されて、私も嬉しいはずなのにとっても苦しい。もやもやは私の中から消えてくれなくて、少しのイライラが私の顔に現れる。


『あー…ダメな子だよ、私…嫉妬してる…』


「絶対に浮気すんなよ、悠里!」


「しねぇよ、そんな事…」


いつの間にか話が進んでいたようで、優奈がバシバシと悠里くんを叩いていた。私は悠里くんのさっきの言葉を聞いただけで、きっと見えないけどほっぺたが赤くなってるはずだ。


「だって、あいつは…理夢は、まだいるよ。」


「…は?な、なに言ってんの?理夢はもう死んじゃったんだよ?」


「理夢は俺らの事ずっと見てんだよ!だから、理夢は完全に死んだ訳じゃない。」


「イタいこと言うね、悠里…」


『…悠里くん。そんな、こと言ってくれるなんて…思ってもみなかったよ…』


ぽろぽろ私の目から涙がこぼれる。悠里くんが優奈にバカにされて笑い声を上げているのと反比例して、私は涙を止めることができない。人生のうちで一番嬉しいと思う一言は、これなんじゃないかな、なんて死んでしまった体で呟く。


「あ、時間だ…」


「?優奈、今日なんかあったのか?」


「いや、まぁ…あのさ、理夢、死んじゃってお墓が出来るのがちょうど今日なの。だから…お墓に行こうかなって。」


『私の、お墓…?』


「あんたもくる?」


「…あぁ、俺も行く。行っても、良いよな?」


「なに言ってんの!良いに決まってるでしょ?」


『お墓、私の、お墓…』


何か変わるんじゃないかなってちょっと期待しようと思ってた。自分のお墓を見たら、変な形で天国に行けないでいる私も行けるんじゃないかなぁなんて望みを抱いて。


「早く行こう?お母さんはもう済ませちゃったみたい。」


「おう」


『え、二人とももう行っちゃうの!?私、ちょっとで良いから鈴ちゃんと話したいのにぃ…』


そんな事を私が行ってももちろんの事聞こえてないし、二人はスタスタと歩いて行ってしまうから私は一人でアタフタしてる。どうしようなんて言ってる間に二人が行って、鈴ちゃんが軽く身じろぎして目が開いた。


『あっ!鈴ちゃん!』


「……!!!え、な、なんで、いるの、理夢!?」


『ウソ、私が見えてる…?』


「ふぇ、怨霊?私がやったから?恨んでるの??ウソ、怖いぃ…」


『あ、えっ!?ウソ、あの、そんなんじゃないの、私鈴ちゃんを恨んでなんか…』


「じ、じゃあなんだって言うの!?絶対にあんた私を恨んでるに決まってる!!」


『わ、私、鈴ちゃんが心配で…なんでここにいるかは分かんないけど、鈴ちゃんにも私が見えてるのもよく分かんないんだけど、えっと、』


「…なによ、あんた結局はここに未練があるだけじゃないの。」


『え?…未練?』


あせったー、と手をパタパタと団扇がわりにして息を吐いている鈴ちゃんに、私は未練の意味を聞きたくて、じっと見つめると鈴ちゃんは鬱陶しそうに手をしっしっと此方へ振った。


『もー!何するの?当たらないからって酷いよ!』


「全く、鬱陶しいわね!そのウッザい性格死んでもどうにもならない訳?」


『あ、え…あの、ごめん…』


「はぁ!?ほ、本気にしないでよ!!冗談よ、冗談!」


『え?…なぁんだぁ、びっくりしたぁー…』


「…で、未練の意味が知りたいんでしょ?」


『ふぉ!?鈴ちゃんなんで分かるの?超能力者?』


「んな訳ないでしょ。」


『あ、確かにそっか。』


「急に冷めないでよ…えっと、未練だっけ?意味は…そうね、よく覚えてないけど確か、この世に残した後悔?だったしら。まぁ、端的に言えば捨てきれない想いってところかしら。」


『捨てきれない、想い…』


「どうせ悠里の坊主にでもでしょ?あいつどこに行ったの?」


『私のお墓に行くって言ってた。』


「そう…じゃ、早く行きなさい。」


『え?なんで、私まだ鈴ちゃんと話したいのに…』


「私は別に話したくなんかない。ほら、さっさと行って!」


不機嫌みたいで、唇を尖らせた鈴ちゃんに無理に強要させるのもどうかと思った私はバイバイと呟いてそのまま悠里くん達を探すためにふわりと外へ抜け出した。


「もう、二度と戻ってくるんじゃないわよ…馬鹿な理夢。」

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